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20. 囚われの鷲

「いやいやいや! 命は惜しいでしょ!?」

「勝手に侵入して更に『変態エロ魔法ジジイ』発言だよ? その時点で命はいらないってことだと思うけど」


 いい笑顔も台詞も、絶対わざと見せてるし聞かせてると思う。


「あんた、いなかったじゃない! どこで聞いてたのよ」

「ん~? ヒミツ~。で、こいつペットにする?」


 カシャン、と杖が鳥籠に当たると、かごの中で鷲がキョロキョロと目と首を動かした。

 残念だけど、『ペットにしたいです』って言ってくれるような人はいないよ。


「そんなこと聞かれても……普通の鳥じゃないんでしょ? さっきは男の子だったんだよ?」


 応えるようにピィー、と甲高い声で鳴く鷲。


「この籠の中では人にはなれない。それに必要ないからあのままなだけで、シルバーだって人型にはなれるよ?」

「ええ? そうなの?」


 それはびっくりだ。


「普通の狼じゃないし」


 そういえば、そんなこと言ってたっけ。喋るしね。


「そうなの? それはぜひ見てみたい」


 どんな感じかな、獣耳ついてたりするのかな~。なんて一人で想像して、内面で盛り上がってしまう。


「呼ぼうか?」


 金のベル、チリン、でシルバーが入ってきた。

 鳥かごの方にちらりと目をやってから「何か用か」と聞く。


「ちょっと、人型になってやって。アイリーンがわくわくしてるから……ちゃんと服も着てこいよ」


 シルバーがちょっと眉を寄せ、いかにも面倒くさいという顔をして出て行った。


「シルバーはね、服を着てるのが嫌いなんだ。だから普段も狼のカッコしてるんだよ」


 そうなんだ、それなら悪いことをしたかな、と考える間もあらばこそ、扉が開いて黒のレザーの上下に身を包んだ、背が高くて目つきの鋭い、銀髪のかっこいいお兄さんが入ってきて、声を失った。


 このお兄さん……殺気が漂ってるっていうか、なんていうか、ただ者じゃない感じがビシバシ。


 「うわお。……シルバー?」


 『バー』の音を延ばした形のまま口を閉じるのも忘れて見とれてしまう。


 むっちゃくちゃかっこいい。


 ちら、とこっちを見た視線で標的を殺せそうな迫力。

 じーっと見とれていたら、ふ、ときつい目元がゆるんでちょっとだけ笑顔になった。


「うわ。今の、もう一回! もう一回笑って! シルバー、すごい! かっこいい! これはハーレムができるのもうなずける~!」


 おおおお。


 感動していたら、「態度が違う……」というつぶやきと、「もういい。もどれ」と、いうイザムの声。

 その途端にシルバーは銀色の狼に戻ってしまった。さっきまで身に着けていた衣服がばさりと床に落ちる。


「ええっ! もう終わり? 短い! もう一回!」


 振り向きながらイザムに抗議する。


「シルバーはアイリーンの前では人型禁止」

「何それ! 何の意地悪!? まだ全然見てないのにっ」

 

 せっかくかっこいいお兄さんだったのに。 


「いいから! それより今はこいつ! こっちをどうするか!」杖で鳥かごを指すと、「焼き鳥と、剥製、どっちがいい?」と、決断を迫られた。


 鷲が鋭い鳴き声をあげ、わたしもまた抗議の声をあげる。


「どっちも嫌だよ! 野生の生き物なんだから、もといたところに返して来ればいいじゃない」


 拾い犬だろうが迷い猫だろうが野鳥だろうが、むやみに生き物を飼おうとしたらいけないんだし、部屋に剥製なんて置きたくない。


「ええ~? 『変態エロ魔法ジジイ』の報復はどうするんだよ。こういうことはきっちりしとかないと、後々なめられるんだぞ」

「そんなの、『ジジイ』以外合ってるじゃん! それにその子よりイザムの方が年上なんだし、そういう意味ではジジイだってあながち間違いとは言えないし」


 わたしの言葉を聞いてイザムがかくりと肩を落としたけど、事実だ。


「とにかく、この子に関しては帰ってもらうのがいいと思う」

「せっかくシルバーが捕ってきたのに……獲物なんだぞ」


 そう言われて、わたしの脳裏に撃ち落とされたカモを咥えて主人のところに戻ってくる猟犬が浮かんだ。

 頭を振ってその思い付きを追い払う。

 シルバーはどう見ても犬じゃない。


「あんたのところに持ってきたんだからあんたがどうにか……って、ダメ! 焼き鳥も剥製もやめて! ……シルバーはどうしたいの?」


 そう聞けば、「俺は食わん」とにべもない返事。


「食べるとかじゃなくて、逃がしたらダメなのかって話だよ」

「侵入者は捕獲して主に届けた。後のことは知らん。下げ渡されれば子どもたちの玩具にするが」


 こっちもなかなか容赦ない提案だ。


「もういたずらしないって約束させて、帰ってもらおうよ」

「約束なんかしなくても、通常は入れない。さっきは王城から使いが来ていて、そいつらが通り抜けられるように結界を緩めていたせいで偶々入れたんだ。さっき尾羽を一本もらったから、次からは俺の意思に反して敷地内に入ろうとした時点で焼き鳥だ」


 なんて恐ろしいことを平然とした顔で言うのか、と思ったのはわたしだけではなかったようで、かごの中の鷲が身を固くしてイザムを見た。


「さて、自分の置かれた状況がわかったところで、出してやるが、俺は『変態エロ魔法ジジイ』ではない。だが、ここから出た後も、俺に関しては真偽に関わらずどんな形容もしてはならない。噂には賛同せず、否定もするな」


 そう言ってふいと手を振ったイザムの手には小さな金の鍵があった。だけど鳥かごのどこにも鍵穴などない。

 どうするのかと思っていたらイザムはその鍵をカゴに押し付けた。

 目の前で鳥かご自体がキラキラと金色に光りながら空気に溶けるように消滅する。


 わあ、今さらながら、ファンタジー。


 パチパチと瞬きをしていると、目の前にいた鷲がさっきの男の子、イアゴの姿に変わった。あちこち擦り傷がある。

 そういえばイザムが「シルバーが引き摺ってきた」って言っていたような気がする。


「俺の要求はわかったな? アイリーンに感謝して家に帰れ。二度と来るなよ」


 話は終わったとばかりにしっしっとイザムが手を振ると、イアゴがまっすぐにイザムを見て言った。


「魔導士様。たとえ一本でも尾羽をとられたままじゃ帰れません。僕はあなたに負けた。あなたに仕える義務がある。魔導士様が僕を必要としないなら――」


 そこでパッと笑顔になってわたしに視線を移した。


「お姉ちゃん、アイリーンって名前なんだね。かわいくてぴったりだと思うよ」そう言ってかわいらしく右目をつぶってみせる。「――命を救ってくれたあなたが主人だ。使い魔が必要ないなら従僕としてでもいいし、もちろん将来のためにお取り置きしといてくれてもいいよ。さっきも言ったけど僕なら浮気はしないし、絶対いいパパに――」


 懲りてないお喋りにイザムの目つきがどんどん冷たくなっていく。


「あ~、わたしそういうの、いらないから。それに今のイアゴを見てるだけならかわいいかもしれないけど、鳥の時の嘴と鉤爪は怖いし」


 率直な感想を言うとイアゴがしゅんとなった。


「そっちの狼だって牙も爪もあるし狂暴なのに……」

「ごめんね。シルバーとクロちゃんは別枠なんだよ」


 だってもふもふできるからね! 

 しかもシルバーかっこいいし。




 それからもイアゴは尾羽を返してもらえないならわたしの専属になるとごね続け、「だからずーっと一緒にいるね♡」の台詞に軽く切れたイザムにもう一本尾羽を抜かれて悲鳴をあげ、わたしとイザムの共有の使い魔にすることでどうにか落ち着いた。



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