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146. 兄弟の差

「アイリーン! イザム君! どこ行っちゃったのかと思ったよ! あー! パイナップル! どうしたのそれ?」


 宿屋の一階。買ってきたパイナップルの一つを切ってもらう間に元通りの制服もどきに着替えて、日当たりのいい窓ぎわの四角テーブルでイザムと向き合ってのんびりしていたら、ヴェッラが戻って来るなりそう言った。ちなみにイザムのフードは下げたままだ。


「情報収集って言っただろ? そっちは何かわかったか?」

「相変わらず訪問者は注目の的で、タイガがアホだってことしかわかんなかった。あと、リックさんはアルフさんと比べて質問がむちゃくちゃ多い」


 そう言って後ろから入ってくる二人の方をちらりと見る。


「そういう情報じゃなくて……」


 イザムが呆れた顔になる。


「でも、本当に。わたしたちじゃ答えきれないから、午後はイザム君がリックさんと組んでくれると助かる」


 そう言ってヴェッラはわたしの隣に座った。イザムが立ち上がってわたしの反対側に座る――わたし、両手に花? だ。どうやらリックさんとタイガくんを並ばせるつもりらしい。


「何だよ、質問ってヴェッラのことじゃないのか? 口説かれて困ってるのかと思った」

「わたしのこともだけど、あっちとこっちの違いについても多いの。次から次へと質問の山。たとえばね、この簪だけど――」


 そう言って髪の毛に挿してあるの赤い珠と金の飾りのついた簪を一本引き抜いた。


「向こうにはたくさん同じようなものがあるのか、他にはどんな装飾品があるのか、値段は、作り方は、職人は、原料は――つまり、何でも知りたいってこと。アルフさんの比じゃない」


 ヴェッラがそう続けると、リックさんが苦笑しながらイザムの向かい側に座った。


 リックさんが座った位置がヴェッラの隣でも正面でもないことに安心した顔をして、タイガくんは座らずに、「昼ご飯頼んできます」って言ってお店の奥に向かった。

 こちらももう慣れたものだ。


「せっかくの機会だからいろいろ知りたくてな。弟が、イザムの屋敷にはこの世界にないものが山のようにある、と言っていた。迷惑ならあきらめるが、よければ国に帰った折に見せてもらいたい」


 へえ。アルフさんも水回りのことは随分気にしていたけど、リックさんもかなり熱心なんだ。


「アイリーンにちょっかい出さないなら俺はいいけど……居つくなよ? 俺は基本的に静かな隠居生活が好きなんだ」

「イザム君はそればっかりだよね。全部アイリーン基準」

「当然。よそに家があるやつは帰ればいいんだよ」

「あそこに泊まったらよそに行く気にならなくなりますよ。ホテル並みじゃないですか」


 戻って来たタイガくんが言う。


「そうかもしれないけど、アルフとお前はもう観察したんだから、自分で似たような家を作るとか作らせるとかして住めばいいだろ?」

「簡単に言いますけど、あれは難しいですよ。部品の調達と加工が」


 肩をすくめて言う。


「俺みたいに三年も来てればできるように……はならないかもしれないけど、できるやつを見つけられるようになるか、育てることができるんじゃないか? アルフはたぶん城の生活に取り込む気だと思う。こっちで調達できる物については俺よりはるかに詳しいんだから、そのうちこっちに合った新製品ができるかもな。案外今回のリックとの入れ替わりだって、何かいい考えが浮かんだせいかもしれないぞ」


 へえ、アルフさんってなかなか意欲的なんだ。


「未来の王弟ってのも、権力があって動きやすいっていう、いいポジションだし」

「そういえばアルフさんが転生者のことを調べるって言っていたけど、そんな記録、あるんですか?」


 わたしの言葉にリックさんが眉を寄せる。


「私は聞いたことがない――訪問者として一括りに考えられているのではないかと思うが、記録自体少なくて、私が読んだことのあるものはどれも推察の域を出ていない。アルフレッドは私が出て来るとき、父と執務室で話し込んでいたが、とても真剣な様子だった」

「あいつ真面目だからな。誠実だし。リックから見たらどうだ? アルフはいい補佐役になると思うだろ?」


 弟を誉められたリックさんはちょっと驚いた顔になった。


「イザムはアルフレッドに対して不快だったわけではないのか? アイリーンにちょっかいを出し、シンデレラを争うそぶりを見せたことで師匠が不快な思いをしたと言っていたろう?」


 そう聞かれるってことは、アルフさんは裏の事情は何も話していないってことだ。

 つまり何をどう伝えるかは、全部わたしたち次第。


「あれは、打ち合わせ済みの行動だから――」


 それを聞いたリックさんが怪訝な顔になった。


「面倒だな。全部話していいか?」


 イザムが周りを見回す。


「いいんじゃないの? 一緒に行くなら、隠しておく方が大変だし」


 ヴェッラが賛成して、タイガくんが頷く。わたしはもともとイザムのおまけだ。好きにすればいいと思う。


「事情を聴いても、アイリーンと俺に対する態度は変えるなよ? ゲーロは有効だ」


 一言前置きして、リックさんが頷いたのを確認すると、イザムはわたしたちの関係や将来的にこの世界に留まるつもりがないこと、アルフレッド様との関係はむしろ良好であり、困っているのは国王の対応だけで、シンデレラの正体がローゼリーア様だということや、あの日お城で起こした誘拐騒動は全て茶番だったことを説明した。

 途中で食事が運ばれてきた時に口を噤んだだけで、通して喋り終える。


「だからこの旅の目的にはドッレビートに移住してくれる訪問者を探すことも含まれてるんだ。アルフ自身には結婚の意思がないから、お前の相手によさそうなやつがいたら誘いたいって言ってた。第一王子としては国を離れない方がいいのかもしれないけど、そういう意味では本人をよこした方がいいのは確かだ」そう言ってからボソッと「アルフと趣味が合うとも思えないし」と呟いた。


 リックさんはしばらくイザムとわたしを見比べて、「婚約しているというのは、嘘なのか……」と呟いた。


「ああ、はっきり言えば単なる設定だ。だけど、アイリーンに関しては、注意事項は絶対に守ってもらう。俺が攻略中だから」


 また出た、攻略中。ゲームか。


「求婚中、ということか? それならヴェッラとタイガは……?」

「そっちのことは俺に聞くな、自分で判断しろよ」


 さっきの説明をする間、イザムはヴェッラとタイガくんのことには一切触れなかった。

 リックさんの視線に困ったような表情を浮かべる二人。


 がんばれ。


「あともう一つ。これはヴェッラとタイガも初耳だけど、俺の師匠のことだ。城に戻る前にアルフには話したけど、師匠がいるって話――あれも嘘だから、万一の時はよぼよぼの爺でもいるからいいや、なんて温いことを考えずに、相手は真剣に探せよ」


 リックさんだけでなく、ヴェッラとタイガくんが驚いてパッとイザムに顔を向けた。


「嫁を貰えとか、世界を救えとか、あんまりうるさいから、命令を聞かない偏屈爺がいるって噂をそのまま利用させてもらっただけで、そもそも齢三百の大魔導士なんてのはいない。少なくとも俺がドッレビートに来た時にはいなかったから、ふらふらしてた俺の噂に尾ひれがついたか、他に似たジョブのやつがいたのか、その辺は興味なかったから調べてない」


 そのまま暫く考えこんでいたリックさんが口を開いた。


「では、城で見た魔術や雷は」

「俺」

「山に近づき過ぎると起こるという竜巻や、群れを成す狼は」

「竜巻は俺、狼たちは俺の使い魔の眷属」

「もしやドラゴンの被害が激減している理由も?」

「俺」

「なるほど……」


 驚きというよりはやや呆然とした様子で呟いた。


 ポーカーフェイスが仮面になって張り付いているようなこの人もこんな顔するのか。そう思いながら観察していると、「アイリーンの件、誓って下心付きで接しない」そう言って、わずかに眉を寄せた。


「だが、一つ腑に落ちない――イザムがここに来るようになって三年半と聞いたが、強力な魔法を使う者の噂はもっと前からあったはず――そこだ」

「それなら、こっちに来るのをやめたやつがいるか、他の国にいるのかもな」


 その説明に納得した様子で頷いたリックさんが、ヴェッラとタイガくんに顔を向ける。


「ヴェッラとタイガも求婚中か?」


 ズバリ聞くとタイガくんが固まった。ヴェッラは……困り顔でこちらも無言のまま、テーブルの上の料理に視線を落とした。

 それを見てリックさんが一人で頷く。


「なら、親しくなるところから、だ。幸いここは城ではないし、父の目も国民の期待もないのだから、求婚のことはさておき、私もまずはそのまま思うところを話せるようになりたい。前にも言ったが、ヴェッラは旅の間に私の人となりを判断すればいいし、タイガも自分が思うように続ければいい。それでどうだろう?」


 そう言うと、リックさんは初めて肩の力を抜いた笑みを見せた。目じりが少し下がったと思ったら、アルフさんに似た穏やかな表情になる。


 わあ、なんか、素敵。似ていないと思っていたのに、やっぱり兄弟なんだ。


 ヴェッラも安心したように微笑む。

 タイガくんだけは、まだ肩の力が抜けていない様子だけど、イザムはそこで話を打ち切った。


「食べよう。午後にはフォーレイザに向かう。訪問者は王室付きの魔女で、第一王子と婚約中だそうだ。それから、今はいないらしいがこのパイナッポーを持ち込んだやつが数年前に海側に住んでいたらしい。王都に寄りながら南下する。夏真っ盛りだろうし、海水浴だな」


 ちらりとわたしとヴェッラの方を見る――はいはい。

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