132. チャームの性格
「アイリーンってチャームにかかったことないの?」
一通り文句を言い終えて落ちついたヴェッラと並んで、温め直してもらった夕食を囲みながら話す。
先に食べたというアルフさんとタイガくんは飲み物だけだ。
タイガくんはとりあえず向こうに帰らなくてもいいくらいには落ちついたように見えるし、気心の知れた仲間だけの団欒……とまではいかなくても、通常会話に戻った感じ。
「あるよ? 来てすぐの頃だけど、アルフさんにかけられた」
そう言うと、ヴェッラがちょっとだけ不思議そうな顔になった。
「アルフさん? そうなの? ねえ、どんな感じだった?」
「え? どんな? ……ええと、優しいのに切ない感じ?」
ちぎったパンをスープに浸しながら思い返す。確か幸せな感じと、置いてきぼりにされて失恋した感じ、だったような気がする。
「へ~」
そう言いながらヴェッラがアルフさんを見る。その顔に『好奇心』って書いてある。
「アルフさん、今度わたしにもかけてみて――」
案の定だ。
「いやいや、そう簡単にかけませんよ!? アイリーン様の時だって、好んでかけたわけではありませんし。もちろん二度とかけません」
イザムが頷く横で、速攻で断ったアルフさん……焦ってる。
内容は知らないけど、わたしにチャームをかけると報復に恐ろしい呪いをかけられるってわかってるせいで、否定するまでに一切間がない。
「……ヴェッラはかけて欲しいの? なんで?」
「だって、チャームって人によって違うでしょ? レオさんとタイガとイザム君じゃ、感じ方が全然違ったから」
楽しそうに飲み物を口に運ぶヴェッラを見る。
「そうなの? わたしは他の人のチャームはわからないけど、そんなに違うの?」
性格が出るのだろうか。
「全っ然違うよ! アイリーン、イザム君にかけてもらいなよ。もったいない」
え、お勧めされちゃうの?
「もったいないの? なんで?」
「イザム君のは安定感と安心感が抜群。ちょっと怖い感じもあるけど、先が読めなくてすごくドキドキする」
ちょっと空を見る感じで思い出すヴェッラの目元がポヤン、と染まった。
お、かわいい。そして、チャームってそんな感じなんだ。
「タイガのは穏やかで温かいし、優しい気持ちですごく幸せになるけど……かなり不安定なんだよね。慣れてないせいかもしれないけど、なんていうか――リードしてはくれないなって感じ。
レオさんのは別れが前提ってわかるのに、もうひたすらエッチな感じで圧倒されて怖いくらい――」
って言ったところで男性陣が飲み物と食べ物にむせた。
「あ、ごめん。あくまでも、感じだし。気にしないで。とにかくみんな違ったから、かけてもらうなら、わたしならイザム君がお勧め」
何でもないって感じでスープを口に運ぶヴェッラと、居心地の悪そうな男性陣を見ながら思う。
チャームって、かける人の性格がそのまま出てるのかも。そして、なんか今の感想自体が……全部エッチだと思う。
「……アイリーンにチャームをかけるのは難しいんだよ」
復活したイザムがぼそぼそと言った。
「なんで? アルフさんはかけたんでしょ?」ヴェッラが聞く。「あんなに簡単にみんなにかけられるんだから、イザム君なら余裕じゃないの?」
ヴェッラは当然って感じで言ってるけど、そうなのかな。さっきは全然かからなかったけど。
「最初の頃はそれほどでもなかったけど、ジョブレベルが上がるにつれて、警戒心がものすごく強くなってて、かけようかなって段階で感知してすごい勢いで逃げるんだよ。さっきのヴェッラのチャームも、俺にはまだよくわかんないって段階で鳥肌立てて逃げ出そうとしてた」
そうなの? そんなものなの? あんなにゾワッとしたのに。
「そういえば! あの時、イザム君はともかく、アイリーンはいけるかなって思ったのに、なんであれダメだったの?」
イザムがセクハラしたからだよ。
そうは言えずに黙っていたら、イザムが左手の人差し指を一本立てて唇の前に持って行った――「秘密」そう言ってにやりと笑う。
そう。その、いまいましい指のせいだ。
背中の網目から差し込まれた指の感触で一気に引き戻されたのを思い出したら、かっと頬が熱くなって、ヴェッラが半眼になった。
「ちょっと、わたしが真剣に踊ってたのに、あんたたち二人、ろくに見もしないでいちゃついてたとか言うんじゃないでしょうね……」
「チャームをかけようとしてるってわかってるのにボケっと見てたらダメだろ? それに少なくとも俺は、ヴェッラから目を離したりしなかったし。……どうしてもって言うなら手伝ってもいいけど、宙吊りは自分でやって」
楽しそうに笑う。
「あ~、その顔! 腹立つ! イザム君、最初からわたしのチャームにかかる気なんかこれっぽっちもなかったんでしょ?」
怒るヴェッラは、かわいい。
「そりゃ、婚約者の前で他の女のチャームにかかるとか、ダメだろ?」
アルフさんがうんうんと頷いてる。
タイガくんは……なんか、肩身の狭そうな顔になってる。
「それに、たとえ相手がヴェッラでも、アイリーンが他のやつのチャームにかかりそうになれば阻止するし。俺ね、結構心が狭いんだよ?」
得意げに笑ってるけど、心が狭いとか、自慢するようなところだったかな。
「知ってるよ! イザム君って、アイリーンがからむと恐ろしいほど鬼畜だよね。『チャームをかけようとしただけで五割引き』って女の人たちが噂してるの、さっき着替えに行った時に聞いたよ? そのうち刺されるんじゃないの?」
じろりと睨んでヴェッラが言った。
「ってことは、ヴェッラ、知っててアイリーンにチャームをかけようとしたのか? かなりのチャレンジャーだな」
イザムの目が丸くなった。
「だってわたし、五割引きされるものないし」
え? 何の話?
「や、そうだけど、代わりに何か他の弊害が出るかも、とか……」
「あのお守りなら、アイリーンが外して袋に入れるとこ、見たし」
何でもないって感じにヴェッラが言う。
「そういえば……あの時は疲れてたから、忘れてた」
イザムも思い出したように言う。
確かに。わたしがお守りを袋にしまったときにヴェッラは見てたんだった。
……っていうか、五割引きって、そしてヴェッラにはないって……。あの時、レオさんの危険な部屋で「ちょっと確認」って、殺すのと同程度って……。
なんだかすごく嫌な感じ。
「イザム? あんた、わたしに何を持たせたって……」
パッと両手を挙げていつものように降参して見せてるけど、あきらかに、ものすごーく嫌な物、持たされた。
「や、助かったろ? あれのせいであいつは役立たずだったんだし。それに、城でアルフに外せって言われた後で、ヴェッラの踊りやタイガの音楽みたいな全体魔法はスルーする方向に変えたし、その上で万一ってこともあるから、かけた魔力に応じて仕返しの度合いも変わるようにしたし、別に最初から五割引きにするつもりは……って、五割引なの?」
「娼館のお姉さんはそう言ってた」
「「「……」」」
ヴェッラの返事に男性陣が一斉に口を噤んだ。
イザムに鉄拳をお見舞いしようと思ったけど、これはたぶんしなくていい感じ? かな。
呆れていたら、ヴェッラに小突かれた。小声で聞かれる。
「ね、アイリーン。見た(・・)の? 五割引きって、つまり?」
いや、そんなことを聞かれても。
「お尻しか見てないからわかんないし、それもできたら忘れたい。ヴェッラは晒されたとこ、見てないの? 五割分だけ盛れば?」
小声で返す。
「それどころじゃなかったから、見てない。っていうか、お尻はかわいかった?」
「やめろ!! ヴェッラ、何の嫌がらせだよ!」
「わたしのチャームにかからなかった嫌がらせに決まってるじゃん」
イザムにイーって前歯を見せてから、「アイリーン、今夜は男子のお尻について語ろう。女子会、女子会」なんて誘われた。
そして、そんなものについて何を語るのかと思っていたら、参加表明が加わった。
「参考までに聞かせて欲しいので、参加していいですか?」
ええ!? マジで、アルフさん?
「それじゃ女子会にならないじゃん~でも、アルフさんは無害だし、いいか。秘密厳守で」
突然の参加表明に対してまったく動じずに、ヴェッラが許可した。
いやいや、勝手に話を進めてるけど、わたし男子のお尻について語るものがないよ。
「他の場所じゃダメ? 男子のお尻なんてまともに見たことない」
他の場所なら語れるのかっていうと、そんなこともないんだけど。
「わかった。ヴェッラ、タイガは吊るしてやるからアイリーンを巻き込むな」
イザムが立ち上がって、タイガくんのシャツの襟をつかんだ。
「三階だったな? 朝まででいいか?」
「え? 僕? 僕ですか?」
突然振られて、わたわたと慌てだすタイガくん。
だけどヴェッラは不服そうに下唇を突き出した。
「え~。今さらだし~」
「今さらじゃないだろ。チャームがかかったらタイガを三階から吊るすって話しかしてない。しかもかかってない」
「そうだけどぉ~」
あきらかに気に入らなそうな受け答えだ。
「何だよ、もう」
「イザム君にはかからなかったし」
「だから! かからなかったんだからそもそも嫌がらせとか、八つ当たりとかすんなよ」
「む~」
ごねるヴェッラが、なんか、かわいい。
「じゃあさ……」
「何だよ?」
「タイガは吊るさなくていいから、もう一回、チャームかけてくれないかな」




