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124. ヴェッラの混乱

「じゃ、後はよろしく! がんばって! わたしはイザムを休ませる。うまくかかったらハンマーは全員で一回ずつ」


 アルフさんにハンマーを押し付けて、踵を返す。


 テーブルではイザムが、イケメン四人に囲まれてドギマギしているお姉さんの方をぼんやりと見ていた。


「ほら、パワーアップしたから後は任せて大丈夫だよ。イザムは上に行って休んで? タイガくんにチャームをかけてもらいたいのか、なんてバカなこと聞くなんて、だいぶ参ってるんでしょ?」

「……俺、いなくていいのか?」


 ちょっと信じられないような顔をしてる。


「もう十分がんばったと思うし――イザムが入るのはたぶん顔面レベル的にフェアじゃない。それに、助け合ってこそ仲間パーティでしょ?」


 あれは、あの状態でちやほやされるのがいいと思う。どっち向いても偏りなくイケメン。最強。

 ぐっと、拳を握る。あれで落ちないとか、ありえない。


「アイリーンは?」

「うん?」

「――一緒に来るんだよね?」

「ああ、ん~、でもその前に、ヴェッラの様子がみたい――朝から顔を見てないから。それに、もうすぐお昼ごはんの時間だから、何か持って行く。イザムも食べてから寝る? その方が休めるかも」

「それなら俺が運ぶ――」

「三人分だし、ここの人に運んでもらお」


 カウンターで部屋に三人分の食事を運んで欲しいことを話し、一度アルフさんたちのところに戻って、上で三人で昼食を取って休むと話す。

 チャーム関係の依頼は、追加が来てもとりあえず四人で頑張る、とアルフさんが受け合ってくれた――感謝。


 客室がある二階に向かう。わたしとイザムの後ろから、早業で食事の用意を整えた宿の人が二人、両手に皿の乗ったトレイを持ってついて来る。今朝から扱いが本当に良くなった。


 ヴェッラがいる部屋の扉の前で止まってノックした。


「ヴェッラ? まだ寝てる? お昼ご飯持って来てもらったよ。一緒に食べられる? 大丈夫~?」


 返事がないけど、気配はある。


「ヴェッラ? 開けて~」


 扉の前で耳をそばだてていると、中から近づいて来る音がした。


「アイリーン?」


 小さな声。


「そう、まだ寝てた? 朝食べてないでしょ。ご飯にしよ? 開けて~」


 ガチャリと鍵が外れた音がして、ドアが開く。


「アイリーン~! わたし、しばらくあっちに帰ってもいいかなあ?」


 がば、といきなりヴェッラに抱きつかれてよろけた背中をイザムがとっさに支えて、後ろにいる宿の人に当たらないようにしてくれた。


「あっちって、現実に? しばらくって、どのくらい?」


 しばらく帰りたくなるくらい、動揺中だったのか。


「いいけど、タイガに話してから行けよ? いきなり消えたら傷つくぞ?」

「あ、……イザム君もいたんだ……話してからって、それができたら帰るなんて言わないよ! タイガにどんな顔して会ったらいいかわかんない……。昨夜わたし、ひどかったの。すごく迷惑かけたと思う」


 肩が落ちて、泣きそうな顔をしてる。


「チャームのせいだし、大丈夫だよ」

「……そうだ。それだって俺がけしかけたせいだし、気にすんなよ」

「チャーム? 何だっていいけど、気にすんな、って無理だよ! だって……ずっと、だよ? わたし昨夜記憶にある限りずっとタイガに抱きついてたんだよ? すっごい泣いたし、べたべた触ったし、それに、それに……だって、タイガ、キスしたんだよ? わたし……キスさせるとか、わたし、最低~」

「だから、チャームのせいだろ。自分でしろって言ったわけじゃないんだ。むしろ被害者だろ?」

「言ったもん! 言った! 覚えてるの!」


 イザムがちょっと驚いた顔になる。ということはイザムがいない時の話か。


「それでも原因はチャームだろ? 大丈夫。やっぱりヴェッラのせいなんかじゃない」

「誰のせいだろうが何だろうが嫌なものは嫌なの! あんなとこ見せたくなかった。なんなの? なんであんなことになったの? なんで、あんな……わたしたち、そんなんじゃなかったのに。わたしどうしちゃったの?」


 狼狽がすごい。なんで、ってことは、経緯はわかってないんだ。それじゃあ混乱するよね。こっちも手一杯だったけど、もっと早く来るんだった。


「ヴェッラ、昨夜のこと、どのくらい覚えてるの?」


 目を合わせて聞いてみると、ヴェッラがますます困った顔になった。


「ほとんど何にも覚えてない。タイガにキスされてびっくりしたことと、何でかすごく離れるのが寂しくて寂しくてどうしようもなくて、絶対離したらダメだって駄々こねて無理やりしがみついてたこと……あとはもう、忘れたいことしか覚えてない。

 起きたら一人だったけど、絶対夢じゃないし! 何があったの? わたし、どうしちゃったの? お酒飲んだ記憶もないのに、酔っ払い?」


 半泣きのヴェッラが気の毒で、やっぱりもっと早く来るんだった、とまた思った。


「説明するよ。事実は動かないけど、理由はあるから……ごめん、そんなに動揺してるって気がつかなくて。……ご飯食べながら、話そう。イザムは食べて先に寝る?」

「……待ってる。一緒じゃないと眠りたくない」

「何それ? 駄々っ子!? イザム君何歳よ、それ」


 ヴェッラが耳ざとく聞きつけて突っ込んだ。


「ほっとけよ。まともに寝付けないくらい疲れてんだよ」

「とにかくご飯にしようよ。イザムがすぐ寝られるように、あっちの部屋に運んでもらおう。あ、タイガくんとアルフさんは下で仕事中だから。ご飯もそのまま下で食べるはずだし、気にしないで大丈夫。落ちついて話せるから」


 隣の部屋に移動すると、宿の人が皿を並べてくれたテーブルを三人で囲んだ。


 すでに半分眠っているような感じのイザムをヴェッラが不思議そうに見る。


「イザム君、ほんとに疲れてるみたい……どしたの?」

「昨夜のごたごたでほとんど寝てない上に、今日もその処理でずっとがんばってたの。まず、簡単に説明するね。昨夜、レオさんがヴェッラにチャームをかけてから、わたしを攫って行方をくらまして、イザムが探してくれて、昨夜遅く――今朝早くかも、って時間に帰ってきたの。

 レオさん、実はすごい悪人で、たくさんの人にチャームをかけてたから、今日もそれを解かなきゃいけなくて。でも、イザムはチャームは得意じゃない……っていうか、苦手なのに昨夜からいろいろがんばってくれたせいですごく疲れてて、今もアルフさんとタイガくんとお城から来てくれた騎士の人が二人、下で奮闘してるの」


 料理をとりわけながら、ざっと説明する。


 ヴェッラがポカーンとなった。


 自分の分の料理を飲み込むのも忘れ、手を止めてわたしたちを見る。


「そんなわけで、すぐ来れなくてごめんね、そんなに動揺してるって知ってたらもっと早く……説明はできなかったかもしれないけど、顔を見に来るくらいはしたんだけど。……イザム、食べたらこっちのベッドに入りなよ。そんな顔しないで。手、繋いでるから」


 しかめ面をされたのは、一緒に入れってことだと思うけど、さすがにヴェッラの前でそれはできない。


「その甘えん坊モードは何なの?」


 不審な顔でヴェッラがイザムを見ると、イザムが睨み返した。


 本当に、小さい子どもみたいだ。


「疲れすぎていろいろ不安定になってるだけ。もうちょっと元気なら一回帰るって方法もあると思うんだけど、精神的に落ちついてないと転移が難しいから」

「転移が? ……アイリーンがイザム君に付属してるのかと思ってたけど、違ったの?」

「違わないよ。ただ、単なる付属物じゃなくてわたしにも役割があるの。あっちとこっちをつなぐ道の強化ロープみたいな感じなんだけど、今はもうちょっと落ち着いてからって感じで――」


 そう言ったらなぜか、ヴェッラが嬉しそうな顔になった。


「そっか、よかった」

「よかった?」


 何のことかと思って聞き返したら、「イザム君がアイリーンにいろいろ強制してるんじゃなくて、ちゃんと同等なら、いいじゃん」って、なんだかとっても優しい顔で言われた。


「ヴェッラ、優しい~。ありがとう~」


 自分のことでいっぱいの時にそんなことを心配してくれるなんて、なんて優しい。

 ヴェッラはちょっと照れたように笑ってから、話を促した。


「で、レオさんが、チャームをかけたの? そう言われればそんな気もしてきたけど、わたしに? 何で?」

「たぶん面白半分。わたしにもかけようとしたんだけど、うまくかからなかったの。レオさんは耐性がどうとか言ってたけど、イザムがお守りを持たせてくれてて……そうだ、外しておこう。なんかすごく怖い呪い付きって話だったんだ」


 ドラゴンの鱗をポケットから出して袋に移すと、もしゃもしゃと口の中身を咀嚼しながら、イザムが不満そうな顔をした。


 でもさ、これ、やっぱり危険過ぎって気がするんだよね。


「それで、チャームがかからないってわかったら、幻覚を見せられて攫われて。そんなわけでヴェッラのチャームを解いて、何があったのかとか、わたしはどこに連れて行かれたのかとか、手がかりを聞こうとしたらしいんだけど」

「俺が解こうとしたらタイガが止めやがったんだよ」


 疲れも手伝って不機嫌な声でイザムが言った。


「だから、あいつに『嫌ならお前が解けって』言ったんだ。だから、ヴェッラのせいじゃないし、猫に舐められたとでも思えば」


 最後の一言でヴェッラが半眼になった。

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