123. 分担
不毛だから顔の話はやめよう。そう思ってちょっと強引に話題を変えた。
「あそこの四人。誰かチャームを解くかなって」
「ああ、魔力差が少ないなら、後は相性……。相手の方が強いなら自分が相手の好みに合ってることを祈るしかない。でもあの中ならほら、ジョブ的にも突出してるし、相手がまんざらでもないって思ってくれたらすぐだ」
イザムが見ているのは……タイガくん?
「初々しいとこも好かれたのかもな、絆された、って感じに見える……そのうちかけさせてくれるんじゃないか? アルフは、うまくあしらわれてる感じだな。俺らに比べたら口説きなれてるのかもしれないけど、さすがに男慣れしてる相手には難しいのかも。あっちの二人は、もしかして彼女と知り合いか? なんか迫られてるみたいな……やっぱり助けに行くか?」
そんな分析をしていたら宿屋の扉が開いて、彼女らしき女性の腕をつかんだ男性が入って来た。ケンカ中な雰囲気だ。アントンさんが話を聞いて――ちょっと変な顔をしたような気がする。腰を浮かしかけていたイザムの方見て手招きをした。
来いってこと?
立ち上がってそちらに向かおうとしたら、指を立てて止められた。イザムの方を指さす。
わたしには来るなってこと?
「チャームがかかってるようには見えないけど……ちょっと、話を聞いてくる」
テーブルに残ったまま見ていたら、アントンさんに何やら説明されたイザムの顔が一気に真っ赤になった。フードから見えているところだけでもわかる。すごい勢いで首を振って何かを否定して、両手を降参の形に上げて、拒んでる。男性の方が何やら話しかけているけれど、イザムは取り合うつもりはまったくないらしい。ローブの袖をつかまれて困惑している感じだ――と、振りかえって、アルフさんを見る。手招きをして、呼ぶと、今度は三人で何か話し出す――アルフさんが苦笑して肩をすくめたところで、イザムがその場を離れた。
速足で戻って来たと思ったら、テーブルに突っ伏す。
なんなんだ? って思っていたら、「寝室でのテクにチャームを組み込む技なんか知るか、くそ」
え。
魔法的には何もしてないように見えたけど……今の呟きからすると、これも精神的に疲れるやつだったみたい。
アルフさんと話し終えた男性――いったい何を話しあったやら――が入り口で彼女と何やら言い合いをはじめた。そのうち女性の方が男性におもいっきり強い平手打ちをして出て行った。数秒の間があいて、男性が追いかける。
アントンさんが苦笑いをしてる。あれって痴話げんかなの?
「解決したようには見えない――けど、まあ、ほっとけばいいんだろうな……イザム? 大丈夫?」
「大丈夫――だけど疲れた」
顔も上げずに声だけが返ってきた。
「……うん。お疲れ様」
は~~~。
って、またため息吐いてる。
助けにはなりたいんだけど、わたしじゃ女性たちにチャームはかけられない――男性にもかけられないけど。
なおも観察していると、女性の一人と話をしていたタイガくんに動きがあった。控えめに女性の頬にキスをしてからちょっと笑って、ゆっくり視線を合わせる――うまく説得したみたい、なんだ、けど、なんか、これって。
きゃー。
何か手伝えたら、なんて理性的にほかのことなんて考えていられない。
他人の、しかも魔法のことなのに。
ドキドキだ。
知らず知らずのうちに両手を顎の前に合わせて見守っていたら、その手をイザムに掴まれた。
「何? 今すごくいいところなんだけど?」
イザムには視線を向けずに聞く。
「内面的にかなり盛り上がってないか? 顔が緩んでるんだけど」
「だって、あんなチャームのかけ方あるんだな~って思ったら。ドキドキだよ。すごく紳士的。それにきっと彼女ができたらあんなふうに優しくしてあげるんだろうな~なんて思ったら、キュンとした」
性格が出るんだろうな。
ホントの恋じゃないってわかるぶん、どうせ解かなきゃいけないチャームなら、説得付きで誰に解いて欲しいかって――あんなふうに優しく誘われて、きっと断れなかったんだろうな。
チャームをかけることに同意しちゃった女性の気持ちがわかるような気がする。
タイガくん、腹筋は割れてないかもしれないけど、胸毛も生えてないし清潔感ばっちりだし、困った顔もかわいいし、何より変態じゃないし、絶対あの(・・)ロクデナシよりいいに決まってる。
「チャームかけられてるのはアイリーンじゃないだろ? 何でそんな顔をしてるんだよ?」
「いいな~って思うから」
つかまれた手に力が入る。
「いいなって、思うならチャームくらいいつだってかけてあげるけど?」
「え、やだよ」
さっきイザムにチャームを解かれた女性たちを思い出して、緩んだ頬が引きつった。
あんな雌豹みたいになるのはごめんだ。あんな態度を取ったりしたらチャームが解けた時に二度と顔を合わせられなくなるに決まってる。
「タイガはいいのか?」
「だから、今がいいところなんだってば、ちょっと黙ってて」
恋愛としては偽物だってわかるけど、ああやって見つめ合ってると、いたわっているというか、相手に対して優しい気持ちでいるのがわかる。本物だったらいいのになって思うとちょっと切なくなるよ~。
勝手に頭の中で妄想……いや、想像してみる。
別れが決まってるって、悲しいな……って思ってたら、その悲しい別れのシーンでピコピコハンマーが登場した。アレによってもたらされる別れ……悲恋が台無しだ。
「もー! イザムのせいだよ!」
せっかくのラブストーリー(偽)に割り込んでくるピコピコハンマーは、非力に見えてすごい破壊力だ。
「何だよ今度は急に!」
「せっかく頭の中でタイガくんと彼女の悲しい恋物語を想像してたのに、ピコピコハンマーのせいで最後にお笑いになっちゃう! ……がっかりだよ」
はあ、とため息を吐いたら、隣でイザムもため息を吐いた。
「悲恋で終わらせるより、笑いがあったほうがいいじゃないか」
「よくないよ。せっかく浸ってたのに」
「だから、チャームなら俺がかけてやるし……」
「タイガくんの誘い方が素敵だなって思っただけ! ほら、チャームがかかった女性の方がすごく幸せそう。イザムのかけたお姉さんたちとは表情が全然違うもん」
ほわん、とした幸せオーラに包まれてる。
イザムのチャーム相手は肉食系だった。
やじ馬から拍手喝采されて、タイガくんが赤くなった。そういうところもかわいいから、いいよって言ったんだろうな……そういうの、感じる。
「性格かなあ……」
いいなあ。
「それもあるけど、俺のアレは魔力にものを言わせて一気にかけたせいだぞ? 一人一人説得してる暇なんてなかったし……それにさっき上でかけた子は幸せそうな顔してただろ?」
かなり不満そうな声と一緒に、イザムが睨む。
「イザムの背中と頭でさっきの子の顔なんて見えなかったよ。それより、わたし、タイガくんのチャームに集中したいんだけど」
「待てよ、これって俺よりタイガにチャームかけて欲しいって話じゃないよな?」
「何をバカな……単にタイガくんの相手が一番幸せそうだって……ああ! そっか。ちょっと行って来る!」
いいこと思いついた!
「え、おい?」
「休憩してて!」
騎士さんたちのところに向かう途中で、タイガくんにピコピコハンマーをやってもらって、アルフさんも呼んで一緒に集合する。
思った通り、イザムがいなくてもこの集団の威力すごい。周りの女性たちからわたしに注がれる嫉妬とやっかみの視線がグサグサだ。
アルフさんと話していた女性を真ん中に、両サイドを二-二で囲んでもらうと、いい感じに嫉妬の視線は女性に移った。そして、囲まれた女性がポヤンと夢みるまなざしに。
おお、これは行けるんじゃない? ふふふ。逆ハーレム。男性に慣れた娼館のお姉さんだって、こういうのは嬉しいでしょ?




