114. 部屋割
「魔導士様は居場所がわかる魔術具のようなものをアイリーン様に持たせているそうなのですが、その魔術具はアイリーン様の意識がないと反応しないそうなのです。アイリーン様は連れ去られる際に失神してしまったようで、魔術具では居場所がわからず、魔導士様はヴェッラさんから情報を得たかったようです。
あの放浪者と何を話したのかタイガさんが質問したところ、口説き文句の中にいくつか、住まいについての情報がありましたが、いかんせん情報が少なすぎた。
そこで、次はその場にいた者たちを全て集め、例の放浪者と関りを持った者たちを――娼館からも全員――呼ばせて、情報を出し渋るものには脅しをかけたりチャームを使ったりなさってあの放浪者個人に関する情報をまとめて――その時にあの者にかなり好ましくない性質があることがわかりまして――即座に御自分の領地に戻って使い魔を連れて戻ると、知り得た情報からアイリーン様を探すよう命じて、放っておられました。
実に夥しい数の蝙蝠でした。女性たちが悲鳴をあげて、酷い騒ぎだった――まあ、一部の悲鳴は蝙蝠たちの中に二名、黒ずくめの美男美女が交じっていたことに関係していたようでしたが。
そうこうするうちに居場所がわかったと叫んで飛び出して行かれまして、半時もしないうちにアイリーン様を連れて戻って来られたのが先程です。お二人ともご無事で何よりですが、魔導士様がお疲れなのは当然かと」
なるほど。それも……お疲れ様だ。
黒ずくめの美男美女は気になるけど、ジョーズだなんて言って、悪かったな。
「イザム、大丈夫? 魔力、足りてる? 一回帰る?」
「……魔力も気力も底辺をさ迷ってるよ。だけど圧倒的に足りてないのはアイリーンの愛情だろ。何でジョーズやゴジラなんだよ……がんばったのに」
テーブルに突っ伏したまま、もごもご言ってる。
「ごめんね。次はミッションインポッシブルくらいになるように考えてみるよ」
ぽんぽん、と頭を叩くと、ちょっとだけ顔を上げてこっちを見た。
「それでもアクションか……」
「コナ〇もアクションでしょ」
「そうだっけ? なんかラブロマンス的なもんが入ってたような気がするんだけど」
は~って、またしても盛大にため息を吐かれてしまった。
「ラブロマンスはともかく、ごめんね。ありがとう。助かったよ」
申し訳ない想いと感謝の気持ちを込めて、今度はそっと髪の毛を撫でてみた。
要するに、あれだ、やっぱりわたしは救出されるお姫様キャラじゃないってことだ。涙も流さず、悲鳴も上げず、黙々と縄抜けを試みてる段階でラブストーリーにはなりえない。
……イザムの顔だけなら、十分ラブストーリーのキャラで行けるんだけどな。
さらさらと流れるような髪の毛の間からのぞく端正な顔を見ながらそう思っていたら、イザムがむくりと体を起こした。
「今日はもういいや。寝る」
投げやりな言い方をして立ち上がる。
「うん。そうだね。いろいろあったし、おやすみ」
お疲れ様だもんね。って感謝の気持ちになっていたら、じろり、と睨まれた。
なに?
なんかまずいこと言った? やった?
自分のまわりを見回す。
「アイリーン」
「何?」
「今はもう夜中だろ?」
「そうだね」
「今日はいろいろあったよね?」
「そうだね?」
「お前が起きてると……」
そう言って左手を差し出す。
「あ、そっか。はい、寝ます。ごめん」
興奮したせいか眠気もなくて、普通に見送る気分になってたけど、わたしがいたらアルフレッド様もタイガくんも寝られないんだ。右手を乗せて立ち上がる。ヴェッラを抱えたタイガくんと、アルフレッド様も後ろから歩きだした。
「荷物はもう部屋に入ってるから」
「そうなんだ、ありがとう」
ぞろぞろと二階に行って、イザムが立ち止まる扉の前で一緒に立ち止まった。
「アルフ、タイガにドア、開けてやって。後はほっとけ」
「はい」
アルフレッド様がドアを開けて、タイガくんが中に入る――後に続こうとしたら、つないだ手を引っぱって引き止められた。
「何?」
「アイリーンはこっち」
「へ?」
なんのことかと思ったら、隣の扉を顎で示された。
「え? ええ? 何で? 今日の部屋割り、どうなって――」
どういうことかと聞こうとしたら、
「やぁだ~! ダメ、や~だ~! ぜったい、ダメ! ぜぇったい、や~!」
ヴェッラの声だ。
「は? え? 今のって?」
「『引き剥がすと泣く』ってアルフが言ったろ。だから、あいつらが一緒なの」
「え! だって、ええ!?」
それっていいの? って思っていたら、やれやれって顔をしたアルフレッド様が出てきた。
「ベッドに下ろそうとしたら、あれです。鍵は中に入れてきたんでお願いしていいですか」
「んー」
イザムが手を振ると、ガチャリと鍵のかかる音がした。
「え、じゃ、わたしたちが一緒の部屋なの?」
「ん。そうだな」
ほええ、あの二人、そんな急展開で大丈夫なんだろうか。や、大丈夫か、わたしたちに会う前は二人で過ごしていたんだし……あんな感じではなかったとはいえ。
閉められたドアを見つめる。
タイガくん、大丈夫かな……じゃない、思うべきはヴェッラ、大丈夫かな、のはずだ。
「では、また明日」
「んー」
へ?
アルフレッド様が廊下を戻って行く。
「え、アルフレッド様、どこ行くの?」
「寝るんだって言ったろ、今さらどこに行くんだよ。朝になるぞ」
そんな顔で睨まなくたって。だけど。
「どこで?」
「さあ?」
「さあ? さあって、何?」
「あいつがどこで寝るとか、俺が気にすることか? ほら、さっさと入れ」
繋いでいない方の手で隣の部屋のドアを開けて、待ってるけど。
「ええ? だって部屋が一緒って、さっき、ええ?」
三人一緒って意味じゃないの?
「アイリーン」
ものすごくゆっくり発音する。
「……はい」
「今はもう夜中だろ?」
「……はい」
「今日はいろいろあったよね?」
「……はい」
「お前が起きてると……」
「……あの、でも」
「入れ」
いつもより一段低い声で命令された。
「……はい」
中に入ると後ろからイザムが入ってきて、背後でドアが閉まった。鍵のかかる音が続く。
これって、ええと、どういうリアクションをするべき状況かな。
「……あの、イザム?」
おそるおそる声をかけると、またしても大きなため息の音がした。今日のわたし、イザムにため息つかせてばっかりだ。ごめんよ~。
「緊張しなくても、寝るだけだし。おやすみ」
「え、あ、うん。おやすみゃっ!?」
気を抜いたタイミングで突然抱え上げられて、変な声、出た。
「何? ちょっと、なんで持ち上げて、」
「寝る」
「え」
反応を返せないわたしを抱えたまま一台のベッドに座ると、そのまま倒れ込む。
「え、このまま寝る気!?」
それは、ちょっと。いや、ちょっとじゃなくて、かなり無理でしょ!?




