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11. 残念魔術とバニーガール

 イザムは今入ってきた廊下につながる両開きの扉とは違う、二か所にある片面扉の一つを開けて中に消えると、白いTシャツを着て戻ってきた。そこはクローゼットに通じるドアらしい。


「自分の服はあっちの世界からも持ち込めるようになったんだけど、アイリーンのはそういうわけにはいかないからさ、アイリーンが今着れるのはほとんど僕のオリジナルなんだ」


 視線が向かった机の上に目をやれば、さっきわたしが着ていたのとよく似た白いキャミを身に着けたフィギュアが置いてあった。


「最初に着ていたやつは向こうの部屋に置いてきちゃったからここにはないけど、さっき着てたのはほとんどこれを参考にしたんだ。ええと、どうしようかな」


 そう言いながらキャミのフィギュアを持ってまたクローゼットに入る。戻って来た時には違うフィギュアを二体手に持っていた。


「こっちと、こっち、とりあえず着てみるならどっちがいい?」


 片方は黒のバニーガールで、もう片方は白のバニーガールだ。足元はピンヒールに網タイツとくれば、そんな質問、答えはひとつしかない。


「どっちも着たくない」


「かわいいのに……じゃなくて、とりあえず選んでくれないかな。ちゃんと説明するから。あと、こっちに座って」


 ソファの真ん中に座らせられて、ずい、と目の前のローテーブルにフィギュアを二体。そんなものを並べられても困る。


「水着とか、下着よりましだと思うんだけど……もちろん僕はそっちだって嬉しいけど――まあ、いいか、じゃあ今回はこっちで」


 机の後ろから椅子を引き出してきてわたしの目の前に座り、黒い方のバニーガールをプラスチックケースからそっと出して、台のところを持って目の前で水平方向にゆっくりと三百六十度回転させる。


「一応希望は聞いたってこと、覚えといてよ。そのまま動かないで――う~ん、流石にそのローブの上からは難しいか……いや、ここがこうなってこっちが……」


 ブツブツ呟きながらバニーガールとわたしを半眼で見比べている。

 その目が、なんだか怖い。


 背中がゾクリとしてさわっと鳥肌が立った。イザムの人差し指がそっとフィギュアの背中を撫でおろして、そのまま腰から網タイツを履いた太もも、膝、細い足首からピンヒールを履いた足の甲へと伝っていく。

 その指のたどった流れのそのままに、わたしの身体をぞわぞわと悪寒らしきものがたどっていく。


 つま先までたどり着くと、そのまま上へと戻る。袖口だけがついた手首、むき出しの肩から襟だけがついた首、頭につけられたウサギ耳のカチューシャ、その先端で指を止めると、フィギュアから目を離してじっとわたしを見つめた。


 その視線を外して欲しい。


 わたしを見ているようで、まったく違う何かを見ているような気がして正直怖い。

 身体が震えて、思わず自分の二の腕をこすった。


 その身体の震えを喜ぶかのように、イザムが笑った。


「大丈夫。ほら、もう終わったよ」

「終わったって、何が――?」


 何のことかわからずに問いかけると、イザムがとんとん、と自分の頭を人差し指でつついてみせた。


 疑問のままで自分の頭に片手を伸ばすと、そこにあるはずのないものに手が触れた。


 嘘。いつの間に――。


 反対の手も伸ばして取り外してみれば、間違いなく黒の長耳。そして、そのカチューシャを持っている自分の手首には白い袖口だけが留められている。信じられない思いで首に手を伸ばせば、そこにはかっちりした襟。慌てて下を見れば、ローブの裾から見える足もとはさっきまで裸足だったはずなのに、網タイツとつま先部分に白いふわふわのファーが付いたピンヒールだ。


 目を丸くしてイザムを見上げれば、にこやかにローブを持ち上げるしぐさをしている。おそるおそるダボダボのローブの首元から中をのぞき込むと、さっきまで着ていたはずのキャミソールは跡形もなくて、首元から注ぐわずかな光で見えるのは間違いなく黒のハイレグレオタードだった。

 さっきからソファに座ったお尻を圧迫しているのはフィギュアについていたふわふわの大きな白い尻尾に違いない。


 驚きに唖然となっているわたしをよそに、イザムは嬉しそうに目を輝かせた。


「どう? 僕の腕? さすがの大魔導士だと思わない? せっかくだからそのローブ、脱いで完成度を見せてくれないかな。いくら世界は広しといえど、この完成度でこの魔法を使えるのは僕だけだって自信があるよ。

 MPの消費も多いし、ちゃんと体型に合わせられるように細かいとこまで想像しないといけないし、集中力もかなり必要だからすごく疲れるし、難しいんだよこれ~」


 わくわくの期待顔で言わないで欲しい。わざわざ自分のバニー姿を男子の前にさらす女子なんていない。


「さっきはさ、あの格好で寝たらきっと疲れも取れないと思ったから、ここにある一番楽そうな服のやつを選んだんだ。裸にしちゃうのは悪いかなって思ったし……いや、裸の方が好きなら全部――いや、しない! しないよ! 睨まないで。ちょっと期待しただけで、ちゃんとわかってるから! それに今日は今ので三回目だから、もう、けっこう疲れてるし。でも、これで濡れ衣だってわかってもらえたよね?」


 黒のバニーちゃんを盾にするように掲げて小さくなっている様子は、一応降参の体ではあるみたいだった。


「……とりあえずイザムが色々残念過ぎだってことと、直接着替えさせたわけじゃないことはわかった。納得はいかないけど、気を使ってくれたこともわかった。でも、次からは許可を得てからにして」


 大魔導士っていう言葉の偉そうな響きも、世界さえも支配できそうなルックスも、この情けないお着換え魔術と中身がイザムだって時点ですべて台無しだ。

 超・残念男子と言われるだけはある。と、頷きながら納得していると、イザムが笑顔になった。


「じゃあ、納得してもらえたところで、気分はどう? さっきは転移で酔ったみたいだったけど。ちなみにここ、この世界での僕の家ね。入ると危険な部屋もあるけど、そういう所は一応封印してあるし、他はアイリーンが見たいなら好きに見て歩いてくれていいよ。

 予定より早かったけど、ここまで来たら現実世界に帰ることもできる。外に出ることもできるけど、こっちは今から夜だから、狩りに行くのはダメだよ。もうちょっと慣れてからの方がいいと思う。

 ここで朝まで過ごして狩りに行ってもいいし、数日なら泊っていくのもいいけど、あんまり長時間いると現実と混同する人もいるみたいだからときどきは帰らないとね――もちろんアイリーンのことはそうならないように僕がちゃんと気をつけておくから、心配しないで?」


 誤解が解けたことで安心したのか、ずいぶん饒舌だ。

 でも、わたしが気になっているのはそこじゃないし、最大の関心事はさっきから同じで変わっていない。


「あのさ――普通の服、ないの?」

「うん? またそこ? ええと、新しいのじゃなくて、今まで着た中のでよければいつでもチェンジできるよ? どれがいい?」


 ニコニコニコニコ。


「……これでいい」

「あ、バニー気に入った? 嬉しいな~。じゃあ僕のローブ返してくれる? 一つしかないんだよね。いっぱい属性つけてあって作るの大変でさ。いやーしかし嬉しいな。生バニー見せてもらえるとは思ってなかったから、すっごく嬉し……」


 ギロリ、と睨む。


「今日狩ったバニーちゃん(こっちではセッシャっていうんだっけ。逃げられた最後の一匹以外はもちろん全部毛皮にした)と同じ目に遭わされたくなかったら、二度とわたしをバニーにしないで」


 くしゃ、と手の中の長耳を握りつぶす。


 その目に何が映ったのかわからないけど、ひ、と小さな声がしてイザムが手で口に蓋をした。わたしから目をそらしたところを見ると、今後のバニーガールの回避に成功したようだ。

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