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107. 自慢の使い魔たち

 翌日、朝食の席でアルフさんが宿屋の主人からマルテスコートの王城から届いたという連絡の手紙を受け取った。中を見てちょっと驚いた顔をする。


「訪問者は城に寄る必要はない――私には寄って欲しいようです。街に劇場のようなところはないけれど、お城で音楽会のようなものを開催することはあるから希望するなら手配するので連絡が欲しい、それから城下町に訪問者の親子が永住することになっているが、現在は城に滞在しているため訪ねるには及ばない――城下町での宿泊先は手配する、ということです」


 かなり淡白だ。


「訪問者の親子に会えないのは残念だけど、挨拶に行かなくてもいいなら、楽でいいね」


 わたしはほっとして言ったけど、アルフさんは思案顔だ。


「マルテスコートの王室には十五歳の男女の双子がいます。 ヴェッラさんにもタイガさんにもぜひ会っておきたいのが心情だと思ったのですが……永住する父娘がいるとはいえ、こんなにあっさりしていると逆に心配です」

「たぶんお前のゲーロ効果じゃないか? 迂闊に接触したら俺にゲーロにされるんじゃなかって思ってるんだろ? 俺たちの方があの剣士みたいにロクデナシだって可能性もあるし――少なくともいい年頃の女性が二人いるのに、二人も王子がいるドッレビートにはどっちも残らないんだ。慎重になってる可能性は高い。宿は手配するってことは、ばれないようにこっそり様子を見に来る気かもな」


 それはあるかも。


「タイガ、城に楽器吹きに行くか?」

「僕の演奏は音楽会向けじゃないので、流しの楽師で酒場巡りの方がいいです」


 タイガくんもあっさりしてる。


「わたしもそっちがいい。だけど、ここってクラシックをやる機会ってホントなさそう……相手がいないとリフトもしてもらえないし。コンテンポラリーとか民族舞踊ばっかりになりそうだなぁ。トゥシューズの持ち腐れだ」


 ヴェッラはため息だ。

 確かに、バレエって技術がいるし、音楽も場所も選ぶイメージがある。


「いっそ、会場を作ってくれそうな職人を探した方がいいんじゃないか?」


 イザムがちゃかした。


「大工さんとか? ……力ありそうだし、リフトは余裕でしてくれそうだけど。この世界ってポンと劇場を立ててくれそうなお金持ちとか、いないのかな」

「だったらそれこそ王室にバックアップしてもらえよ。王様の横槍がなかったらヘンリックだって悪くない選択だったんだろ?」


 ヴェッラが鼻の上にしわを寄せた。


「イザム君、それ、ヘンリック様にもわたしにも失礼。わたしは後援は欲しくても、身売りしたいわけじゃない――結婚相手はいらないの。あの王様が求めてるのはそれでしょ? 王様としては国のことを考えてるんだろうし、贅沢を言うつもりはないけど、それでも踊り子にあの舅はないでしょ」


 まあ、そうだよね。


 タイガくんが静かに頷いて、アルフさんが申し訳なそうな顔になった。


「行先に変更はないんだし、出発しようか。訪問者の父娘に会って、こっちに残る方法とか、実際のところの話を聞きたかったんだけどな。さっさと進めば明日中には着くぞ――イアゴがまだ来ないから、俺とアイリーンで先に行って街の様子を窺いつつ情報収集してもいいけど、どうする?」

「宿のことを考えれば、一緒の方がいいです。ヴェッラが一人になるのは心配だし、寝起きが悪くて」


 タイガくんが眉を寄せると、イザムが「ああ、そういえばそうか」って言った後で、「別の方がいいんじゃなくて?」と小声でタイガくんに確認した。


「毎日やられたら理性が持ちません。それにドアが開くまでが長くて」


 憚ることもなく口にしたところを見ると、ヴェッラが寝ぼけたままドアを開けるのは恒例行事らしい。


「イザム君の転移の魔法ってわたしたちのことは運べないの?」


 ヴェッラが不思議そうな顔をした。


「自分の使い魔ならいけるけど、人は難しいんだよ。全然違うところに飛んでっちゃうことがあるからお勧めできない。馬車も転移させるのは無理だし」

「じゃあアイリーンは何が違うの?」


 わたしをちらっと見て、すかさず聞く。


「それは秘密。だけどアイリーンだって転移酔いするから、多用はしてない」


 イザムが肩をすくめてごまかす――秘密、なんて言っても、要はわたしも使い魔と変わらないってことだと思う。ここに連れてくる方法と同じで、立場は付属品的な感じなんだろう。


 さっきの食玩が頭に浮かんだ。おまけ、か。


 みんなでまた馬車に乗り込んで、アルフさんは今日は愛馬にまたがった。


 最初にイザムとタイガくんが御者席に並んだので、わたしとヴェッラが荷台に座ったら、ちょっと心配そうな顔をしたヴェッラが小声で聞いた。


「アイリーンも使い魔だったりしないよね?」


 違うけど、いい線いってる、と、ちょっと思う。


「ないない――あ、ヴェッラは使い魔って見たことない?」


 頷くヴェッラに、自分が知っている使い魔についてを説明することにした。


「イザムの使い魔って、動物の形でいることが多いんだ。それで、人になっても面影っていうか、ちょっと見た目が残ってる感じなの。

 今度合流する予定でいるのはイアゴ。鷲の魔物なんだけど、茶色の羽を広げるとこーんなに(両手を伸ばした)大きいんだよ。嘴と爪がすごくとがってて、猛禽類って感じで怖いんだけど、家の中にいると飛べないからぴょこぴょこ跳ねながら移動するのがかわいいの。ときどき人間の形になるんだけど、見た感じは小学校の高学年か中学校入りたてくらいの男の子で、髪が艶のあるくせっ毛で、目がくりくりっとしてて、利発で。ちょっとカルくて、甘えん坊な感じもあるんだけど、気さくで人懐こくて、いい子だよ。

 あと、常に人型の、シュヴァルツさんっていう蝙蝠系の魔物がいるんだけど、王都のお屋敷で執事をしてくれてて、そこがディズ〇ーのホーンテッドマンションみたいなところで、雰囲気がぴったりでね、しかも黒ずくめのスーツと銀縁の眼鏡とがすっごく似合ってて、クールでかっこいいの。いつも冷静沈着。ちなみにこっちでのマナー全般はシュヴァルツさんに教わったの。趣味が人間観察で、ものすごく有能。

 その妹のクロちゃんは領地の館にいて、人型になったところを見たことはないんだけど、ちょうどこのくらい(手でおわん型を作る)で、真っ黒でふわっふわしてて、やわらかくて艶々してて、すっごくかわいいの。ころころしてて。羽があって、いつもはたたんでるんだけど、頷く仕草とかもう、最高。もうちょっと大きかったら抱いて寝るんだけど。

 あとね、シルバー。主に警備担当の狼系の魔物なんだけど、ものっっっすごくかっこいいの。銀の毛皮でピッカピカの艶っ々。抱き心地最高。牙が鋭くて見た目はかなり怖いんだけど、中身はけっこう優しくて、人になったところは一回しか見てないんだけど、あれ見たらヴェッラ、絶対惚れるよ! すっごいんだから。視線で殺せそうな感じ。なのにふっと表情が緩むと、全く違って、包容力にあふれた大人って感じで、あれには絶対勝てない。群れのリーダーだからハーレムがあるって聞いてるけど、即納得する。

 それから、白猫のベルがいるんだけど、本っ当に真っ白で、ふわふわ。使い魔なんだけど、本人は飼い猫のつもりらしくて、ずーっと寝てるんだけどね、この白さとクロちゃんの真っ黒具合がまたよくて。でも最初はクロちゃんが毛玉か何かに見えちゃってたらしくて、前足でぽん、ぽんってしてたのが、一緒にいるうちに慣れて、自分のついでに毛づくろいまでしてあげるようになって、最近では一緒に寝てるんだけど、もう悶えちゃうくらいかわいくて。一緒に寝てるとあったかいし柔らかいし、もう幸せ度マックス! 人になると……最近なってないけど目のおっきな女の子。洋館が似合いそうな、お人形さんって感じなの。

 ……つまり、使い魔ってたぶんみんな人型になったら美男美女なんだと思う。わたしなんて無理無理」


 つい熱が入って力説した。


「アイリーン、なんちゃってだけど、ドラゴンが抜けてる。あと、アイリーンはかわいいよ」


 御者席から振りかえったイザムが追加しながら訂正した。

 そういえば、ドラゴンが入ったんだっけ。馴染みがないせいで忘れていた。


「ドラゴンも、男の人の方はすごくかっこよかったし、女の人の方は美人だった……どっちが使い魔になるのかわからないけど……魔物ってみんな美形なのかな。……あと、どんなに褒められても絶対バニーは着ないよ」


 さらりと誉め言葉を入れてくれたけど、よくよく考えたら、この体も顔も、設定したのイザムだよね。

 かわいくないって言われても、困る。


「くそ……ヴェッラのせいだぞ。この前までちょっと照れてくれてたのに」

「イザム君が黙ってたせいじゃん。人のせいにしないで」


 ヴェッラに言われて、むむ、と黙った後でイザムの顔がぱっと明るくなった。何か思いついたらしい。


「じゃあ、アイリーン、俺も誉めて」


 嬉しそうな顔で突然そんなことを言われた。


「イザムを? どこを? 顔ならかっこいいよ? みんなと同じくらい」


 何だ、急に。


「……そうじゃなくて。俺が顔、誉められるの嫌いなの知ってるだろ。その使い魔を束ねてるのが俺なんだから、俺が一番すごいだろ? 誉めて」


 なんだ、そういうことか。


「あ~、そうだね。うん。イザムもすごいよ」


 あっさり流したらイザムの横でタイガくんが吹き出した。


「あいつらの誉め言葉と差があり過ぎないか? 俺は一言だけって酷くない?」


 かなり不満そうだけど。


「……それは、仕方ないんじゃない?」


 すごいっていうより、怖いんだよね、たぶん。イザムはそうは思っていないみたいだけど。


「その制服のせい? まだ怒ってる? でもそれは――」

「違う違う、これは仕方ないってわかってるし、いつまでもこだわるタイプじゃないから、服のことは忘れて。ただイザムの場合はすごいとこと怖いとこが被ってるから、誉めていいのか警戒するべきなのかがすごく微妙なの」


 イザムが情けない顔になった。隣ではヴェッラがわからないって顔になっている。


「何で、顔は誉められたくないの? せっかく異世界設定でそれだけハンサムになってるんだから、存分に誉めてもらって喜べばいいのに。そのつもりで設定したんでしょ?」


 イザムが返答に困った。


「イザムはいい加減その顔に慣れたらいいんじゃない?」


 あっちではひたすら隠してるんだし、こっちでくらい誉められたら喜べばいい。


「ああ、ふっと鏡見た時とか、すごく自分じゃない感じ、しますよね。イザムさん異世界ここ長いのにまだ慣れないんですね」


 タイガくんの言葉に、イザムがちょっと笑った。


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