2話 隠しキャラ令嬢、状況を整理する 1/2
それから着替えたりご飯を食べたりして、ようやく落ち着き、状況を整理するべく机に向かった。決して勉強をする訳では無い。
とりあえず紙に書いた方が後で見返せるし良いよね。筆箱……はここにあるけどノート的な奴あったかなぁ。……あ、あったあった。
見つけたのはアンティークっぽい鍵付きノート。すっげえ高そう。これいくらだっけ?
まあいいや、さっさと書こう。
簡潔に言うと、ここは乙女ゲームの世界である。
確かゲームのタイトルは『真珠少女』舞台は日本を酷似とした異能力者がいる世界で、内容は突然世界に一人しか持たない聖女の異能力、『聖花月』を発動した主人公・聖 優花が異能力者専用の『涙欧学園高等部』に通い、五人(隠しキャラ一名)の攻略対象と恋に落ちたり恋に落ちたり……あとちょっとだけ冒険する、王道の乙女ゲームだ。
そこで重要なのが、早乙女 蓮乃。
大病院の院長令嬢で、主人公の友達キャラ。毛先を緩くウェーブさせてパールホワイトのメッシュを施したセミロングの黒髪。白く細長い手足に小さく整った顔。上品で洗練された雰囲気。大きな黒い瞳を縁取る睫毛は、画面越しでも分かるほどに長かった。
女子力が高く自分磨きを怠らない努力家で、常に成績は上位。口は悪いが主人公には優しく、虐められている主人公を助けた事もある。異能力名は『鳥籠の妖精姫』詠唱無しで魔法を使える能力だったと思う。
それだけなら、何も問題は無かった。
物心ついた時には彼女の母親は他界していて、小六の時に叔母である天上寺 夜乃が父親に嫁いできた。義母となった母親の妹は、蓮乃を別の存在として愛していた。
この世界の富裕層の人間は中学生になってから社交界デビューするのが一般的だ。そして、婚約者を探し出す。婚約者の理想の条件は家柄の良し悪しは勿論、見目が良く聡明で異能力者で有ること。でも、そんなハイスペックはそうそう居ない。
その点で言えば彼女は理想の令嬢である。些か口は悪いものの、それだけなら改善できるし、その口の悪さも魅力だと受け入れる人も居る。
まるで、若い頃の母親そのものだった。
そんな母親似の姪を側に置きたがった夜乃は、自分と蓮乃しか入れない部屋を用意し、慕っていた姉が恋しくなった時に呼び出し、若い頃の姉と同じ様な格好をさせ、ひたすら慈しんでいた。そして、こうも言っていた。
「本当にお姉様そっくりだわ。まるでお姉様のお人形みたい」
叔母が愛しているのは蓮乃では無く、今は亡き母親である。
その事実に絶望した彼女の前に現れたのが、彼だった。