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あああああああああああああああああああああああああああああ

「おっちゃん…」


土煙が落ち着き始め、ようやく視界がクリアになった。

ゴホゴホと咳き込み口に入った砂利を吐き出す。


「戦況は一体どうなっ…⁉︎」


戦況なんてものは一目瞭然だった。

先ほどの爆発により我が軍の前衛はほぼ壊滅、残った者は自身の加護で守ったかもしくは爆炎の外にいた軽傷で済んだ者だけ。

いくさ初心者が見ても圧倒的戦力差があることは理解出来た。


「今ので前衛はほとんどやられちまったぁ!俺たちはいったい次どうすればいいんだ!」


「俺あいつらのこと聞いたことあるぞ。どの戦いでも最初の一撃で相手の戦力を根こそぎ喰らうと噂のイエリオの第二騎士団‼︎」


「そんなバケモン達とどうやって戦えっていうんだ!団長は、団長は何処にいっちまったんだよ‼︎」


敵の戦力を知った兵はもはや戦意喪失、握っている武器を下げる始末。

おまけに、騎士団長が先ほどの爆発に巻き込まれたらしく軍を立て直すことも難しい。

指揮系統が崩壊した軍隊など、もはやプレイヤーのいない陣取りゲーム。

それぞれが自由に動き回る最悪のバッドエンド。


こうしている間にも敵は容赦なく攻め込み、戦場は阿鼻叫喚。

前衛は後衛まで引き下がり、巻き込まれるようにサポート役が抵抗する間も無くやられていく。

自軍の旗は倒れ、攻め立てる敵軍と逃げ惑う自軍に踏みつけられている。


これは戦いでは無い。

見世物だ。

人の命があっという間に消えていく様を誰かに提供しているにすぎない。

タチの悪い冗談。


「詰んだ…」

今まで麻痺していた感覚が解け、途端に体が震え始める。


「まだこの世界に来て一日目だぞ⁈こんなところで…」


今初めてピンチになったわけでは無い。

全ては最初からおかしかったのだ。

神に会ったのも、異世界に飛ばされたのも、王宮で処刑されそうになったのも、全部今に始まったことじゃない。


違うとすれば、今までは他の人が自分以外の人がいい感じになんとかしてくれていたということ。

何一つ自分の力で解決出来ていないというのに。

なんとかなったと勘違いして。


そんな俺がこの世界に来て初めて自分だけでなんとかしなくてはいけない場面に出くわしたら一体何が出来る?

一体何なら可能だというんだ。


「考えろ‼︎」


考えたところで答えなんてものは最初から分かっていた。


「剣を抜くか、ただ死ぬかだ‼︎」


俺は立ち上がって剣を構えた。

剣の握り方も構え方さえも知らないのに。

ただ、まっすぐ前に構えた。


「おいおめぇ‼︎手ぇ空いてるんならおいらに加勢してくれ!」


虫網をブンブンと振り回す姿が目の前に見えた。


あいつまだ死んでなかったのかぁ!


「俺はまだ死にたくねぇんだ!うおおおぉぉぉぉぉぉ‼︎」

雄叫おたけびを上げながら彼の援護に向かう。

震える足を無理矢理にでも動かして前に出す。

身体は前のめりにしていれば、重心さえ後ろに無ければあとは勝手に前に進んだ。


「この野郎ちょこまかと小賢しい‼︎」


虫網が敵の視界を邪魔しているらしく、思うように動けていなかった。

俺は後ろから回り込んで木剣を構えて飛び込んだ。


「くらえぇぇ‼︎‼︎」


ガキンッ!


勢いよく飛び込んだものの所詮は木で出来た剣、鉄で作られた鎧には傷一つ付きやしなかった。

弾かれた攻撃は木剣を伝わって手へと振動を伝えた。


不味まずい、剣を離し…


「このガキィ‼︎」


「なっ⁉︎ゔぁくふ‼︎」


敵の持っていた鉄鎚が俺の身体の中心を捉えた。

腹部にめり込むように服にシワを立たせ、身体が「く」の字に曲がる。


「うおらぁぁ!」


身体が浮き上がり、五メートルほど後方に吹き飛ばされた。

背中を強打し、手のひらが地面に擦れる。

地面を転がり終えると腹を押さえて悶え苦しんだ。


「カッ…カハッ‼︎」


痛てぇ!苦しい!腹の中掻き回されたみたいだ‼︎

呼吸が速くなりヨダレが止まらない。

身体中が熱い‼︎


ガシャガシャと足音が近ずいて来て、腹を押さえてうずくまる俺を大きな影が覆った。


死ぬっ


勝てっこない。

装備の時点で太刀打ち出来ないのに、その上このいかつい野郎が強い加護なんて持ってた日には俺が十人いようと勝ち目が無い。


なんで、なんで俺がこんな目に遭っているんだ。

一体俺が何をしたって…


振り上げた腕の隙間から太陽が差し込み、敵の表情を隠した。

それと同時に一瞬だけ周りの音が聞こえなくなった気がした。


なぁ、お前は一体どういう気分でそれを振り下ろすんだ。


「待てっ!おめぇを殺させるもんか‼︎」


「なにっ⁉︎」


虫網が敵の頭部を覆い、完全に視界を塞いだ。


今だっ‼︎

俺はまだ生きるんだ‼︎


装備の無いところなら関係ないはず‼︎

このチャンスを逃したら次は無い!

俺は敵の喉元を狙って飛びかかった。


「くたばれぇぇ!」


刹那、背中に激痛が走った。


「アンタら背中がお留守だぜ!ヒヒッ」


「なっ⁉︎…んだと」


バタンッ


血が溢れ出し時が止まったように身体が空中で停止する。

目の前の敵に夢中になりすぎて背後にいた敵に全く気付くことが出来なかった。

鋭い剣先が俺の背中を服ごと切り裂き、振り返るとニンマリを笑みを浮かべる敵の姿があった。


俺はその場に倒れ込み全身に寒気を感じた。

血が抜けていくのを理解できた。

この場から逃げるために立とうにも腕と足に力が入らない。


「致命傷で終わらせるなよ‼︎こいつらゾンビどもはしっかりとどめを刺さねぇと何度でも戻って来やがるからな!」


「分かってるよちゃんと殺せばいんだろヒヒヒ」


こいつらなに言ってんだ。

もう死ぬかもしれない俺にまだ剣を突き立てようってのか。

…まぁいいか、どっちにしろ死ぬんだ。


「やめろぉぉ‼︎」


「ったく危ねぇな!ちゃんと倒しとけよそんな雑魚」


「すまない」


「やめろって言ってるんだぁぁ!うぉりゃぁ‼︎」


「ちっ‼︎邪魔だなそいつ。後ろに回るから抑えとけよ」



虫網のにいちゃん…早く逃げ……ろ。


薄れゆく意識の中、懸命に俺を守ろうとする彼の声が凄く温かかった。

まだ会って間もないのにそんなに人のことを。

あんたはいいやつだ。


けどすまんな、俺はもう無理だ。


「うごっ!ばふっ‼︎」


「やっと大人しくなったか。おい、周りみろよ!こいつで最後だったんじゃねぇか?こりゃ縁起がいいぜ!」


全滅か。

はぁ、夢オチって事になんねぇかなぁ。


最後にもう一度彼女に会いたかったなぁ。


「おい、こいつまだトドメ刺してなかったな。んじゃ、これでラ〜ストっと」


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