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ああああああああああああああああああああああああああああ

「えぇー、それでは出陣にするにあたっての我ら第十騎士団の役割を説明する。あまり期待はされていないが、他の隊にも影響する大事な役割だ。決して怠けることの無いように気を引き締めてほしい」


王国をぐるりと囲む立派な壁に取り付けられた頑丈な扉の前で、集められた百人ほどの兵が整列することなく自身の装備の点検をしている。

端の方で大きな声をあげて説明しているのが我ら第十騎士団の団長である。

彼の近くにいるものはしっかりとした姿勢で目を見て話を聞いているが、しばらく後ろの方に下がると周りをキョロキョロ見回して話を聞いていないものが現れ始める。


「おい、そこのガキンチョ。初めて見る顔だが本当に兵士か?」


「ん?あぁ俺のことか。今日からこの騎士団に入ることになったんだ」


騎士団の後ろの方でソワソワしながらも静かに立っていると、無精髭を生やしたおっちゃんが声をかけてきた。


「そうか。お前みたいなガキも珍しくはねぇがどう見ても兵士には見えねぇな」


「こっちもこんなことになるとは思ってなかったもんでな」



俺は王宮の間でアルバートに啖呵たんかをきった後、後ろにいた鎧の男に連れられてここで待つよう言われた。

なんでも最近隣の国といざこざが有り、そこに出兵する人員が不足していたとか。


まさか剣もろくに振ったことが無い俺がこんな面倒ごとに巻き込まれるとは。

なんとしても生きて帰り、彼女に…ミィナ王女に再び合わなくてはな。



「おい、聞いてんのかガキンチョ!」


「あぁっすいません。ちょっと緊張していて。ヘヘヘ」


おっちゃんは手に持ったスコップを俺の顔に向けていて、俺が返事をするとスコップを下げて背中のホルダーにしまった。


なんでスコップ?とも思ったが、周りの兵もあまり見かけない道具を背負っていたりしたので追求はしなかった。

俺も木剣を持ってるし、人のことをどうのこうの言えたもんじゃ無い。


「それにしても珍しい鎧つけてんなぁ‼︎そんな布切れでちゃんと守れんのかよ?一応被り物も付いてるみてぇだが、普段は狩人でもやってんのか?」


おっちゃんは俺の着ているフードの付いたパーカーを珍しい鎧だと勘違いしたらしく、実際に触って厚さを確かめたりフードをめくってみたりした。


周りの兵士がガシャガシャと重い鎧を着ているなか、こんな目立つ色した青いパーカーを着ているやつがいたら声を掛けたくなるのも当然である。

剣で刺されたら確実にザックリいくだろうし、何より俺を狙えと言わんばかりの派手さ。

おそらく狩人はこんな目立つ色を森の中で着ようとは思わないだろう。


どう考えても場違い。

あの鎧の男も気を利かせて装備ぐらい支給してくれてもいいのに。

ったく使えねぇやつだ。


「これは異国で手に入れた最新型の鎧でな。軽くてよく伸びる、そして何より着心地がいい」


「そりゃあすげーや。この戦いが終わったら俺にも着させてくれよ」


おいおい、今の発言はフラグが立っちまったんじゃねーか。

出陣前なんだから気をつけて発言してくれよ。


「あ、あぁ。もちろんだとも」

引きつった笑いをしながら俺は目線を斜め上に向けた。


「俺はフラッグだよろしくなガキンチョ‼︎」


「こちらこそよろしく!俺は」


「それでは我ら第十騎士団の勝利を祈って‼︎出陣‼︎」


「「ウオオオオォォォォ‼︎‼︎」」


フラッグに差し出された右手を握る前に号令がかかり、周りの兵が一斉に動き出した。

人の波に飲まれ、またも名前を名乗る前に会話が途切れてしまった。


生きて帰れよな、おっちゃん。



目的の場所を目指して大柄な大人たちに混じりながらまっすぐ歩き続けた。


「なぁ、これはどこに向かってんだ?ひたすら歩き続けてるけど、着くのにどれくらいかかるんだ?」


「おわっ‼︎なんだおめぇ、珍しい格好してんな」


俺は隣を歩いている虫網を背中に挿した男に声をかけた。

彼はいきなり話しかけたことにか、それとも俺の格好にかは分からないが驚いた様子で少しばかり後ろに飛び退いた。

流石に戦いに赴く際に虫網を持ってくる馬鹿野郎に驚かれるとは思わなかったが、それでも自分が普通だと思えるくらいにはこの世界は寛容なのだろう。


案外この世界の戦いは血で血を洗うことなく平和的に解決されるものなのかもしれないと俺は思った。

いや、そうあっても貰わないと困るからそう思ったのかもしれない。


「おめぇ、さっきの団長の説明をきちんと聞いていなかったな⁉︎これだから新人はダメだよ。おいら達はなぁ、今から一時間ほど歩いたところに進軍して来ているイエリオ軍の足止めをするんだ。分かったか?おいら達が足止めをしている間に他の騎士団が弱いところを叩くって作戦だぁ」


凄く先輩風を吹かしているが、どうにも俺には虫網が視界入ってしまい笑いを抑えるので必死だった。

正直虫網でどうやって敵を倒すのかを見てみたい。


「他の騎士団が弱いところを叩くってことは、俺たちが今から向かうところは勢力的には強いところなのか?」


「いんや、おいら達が勢力的に一番弱いってだけであちらさんの勢力なんて分かりやしないよ。ただ、偵察で分かっているところだけ何処の騎士団が行くか作戦を練るんだ」


「第十騎士団って一番弱いの⁈」


「そりゃそうだべ、十以上の数字なんて言いにくくて作るの面倒くさいだろ。おいら達は言い方を変えれば最後の砦って訳だぁ」


「おーのー」


なんてこった。

やっぱりこの騎士団弱いのかよ。

騎士団の数も意味わかんねぇが、最後の砦前に出て来ちゃダメだろぅが。


「まぁ帰れさえすれば死ぬことはねぇからな。いのちだいじにだよ」


「そうですね!」


なんだよ、帰れさえすれば死なないって。

どういうことなんだ?

なんかの宗教か?信じていればなんとやらなのか⁈

俺は瀕死じゃなくてかすり傷一つ無く帰りたいね。


「見えて来たぞぉぉ‼︎敵の旗だ‼︎各自武器を構えろ‼︎」


先頭を歩いていた団長が大声をあげて隊員に知らせた。

一斉にそれぞれ広がり始め、武器が当たらないようスペースをとった。


俺もとっさに木剣を鞘から抜いた。


「…」


が、すぐに引っ込めた。


ダセェ…

絶望的にダセェ…


出来れば抜くことなく戦いが終わって欲しい。


一応いつでも抜けるように構えてはいるが、振り方も立ち回り方も分からないし兎に角ダセェ。

一瞬握っていた木剣が小刻みに震えた気がして、強く握って確かめてみたがもうすでに震えてはいなかった。


「もしかしてお前も怖いのか?それとも戦いてくてウズウズしているのか」


訊いて答えるはずもないのについ喋りかけてしまった。

それほどにも俺は焦っているのだろう。


「攻撃系の加護は前に出ろ!支援系は後ろから加護で前に出た兵を援護せよ‼︎」


「「うおおおおぉぉぉぉぉ‼︎‼︎」」


「行くぞ‼︎全軍突撃ぃぃ‼︎‼︎」


自軍の青い旗を大きく振り、周りの兵が掛け声に合わせて走り出す。

同じタイミングで敵の黄色い旗が揺れ動き、威勢良く走り込む足音が近づいてくる。


俺も遅れながら前進したものの今だに剣を構えてはいなかった。


「一番乗りだぁぁぁ‼︎」

全体に響くような大声で先頭を走っているのはスコップを両手で構えた男だった。


「おっちゃん⁉︎フラッグのおっちゃんじゃねーか!」


一体どのように戦うのか気になりながら、見逃さないよう必死で追いかける。


ドタッ‼︎


下を見ずに走っていたせいで、足元にあった大きな石に足を取られた。

後ろからは誰も来ていなかったので踏みつけられなかったのが不幸中の幸いだった。


「撃てぇぇぇ‼︎‼︎」


急いで体を起こしていると敵の軍から掛け声が上がり、上空に大きな丸いものが三つ打ち上がった。

打ち上がった物体が降下するとドゴーンッ‼︎という炸裂した音が戦場に響きわたり、突風がフードをはためかせ前線の兵が宙に弾き飛ばされた。


「おっちゃぁぁぁぁぁぁん‼︎」


爆風と土煙が俺の声を打ち消した。

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