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あああああ

いつものように人が人で潰し合う山盛りのお弁当箱みたいに窮屈な電車に揺られながら今日も退屈な学校へと向かっていた。


「うぐぅぅ」


一瞬でも気を緩めれば無重力の世界に放り出され、再び両足が地面に着く頃にはきっとすごい体勢で人に寄りかかっていることだろう。

世界はこんなにも広いと言うのに、どうして一箇所に集まりたがるのか。


全くもって不思議な世界だ。


そんな世界に今日もつまらなそうに生きている自分が一番不思議でならない。


出来ることなら、もっとよく分からないハチャメチャで頭のおかしい世界に生きてみたいもんだと太古の昔から願っているが、未だに叶う兆しすら見えない。

ちなみに、俺にとっての太古とは20年前のことだ、それより前は知りようが無い。

兎に角、この弁当箱から一刻も早くこのひ弱なトマトを取り出していたただきたい。

潰れて周りのおかずに滲みてしまっては申し訳ないからな。

これは世界の安寧を左右する最優先事項だ!



そんなことを考えながら扉に寄りかかっていると、ようやく人が減り始めポケットに手を入れられるようになった。


ポケットからスマホを取り出し、流れるようにまとめサイトを開く。

面白い記事がないか流し見していると一つの記事を見つけた。


知っている名前ってのはしっかり読んでなくとも目に止まるもんだ。


俺は記事をタップしてリンクを開きその見出しに驚いた。

一気に腕に力が入らなくなり手のひらからスッとスマホが落ちていく。


ゴンッという鈍い音が車内に響き渡り、周りの人が不思議そうに俺の姿を覗き見ていた。

もはや周りの目などどうでもいい。


「はははっ…こんなん草も生えねぇよ」


前述通りの、やっぱりこんな世界



        「つまらねぇ」




大学に着き、疲弊しきった体でどうにか教室までたどり着くことが出来た。

俺の姿はさながらはぐれゾンビである。

魂を風船の紐のように身体に括り付け、ゆらりゆらりと進んで行く。

席に着いて倒れるように机に突っ伏すと、それを待っていたかのように飛び込んでくる人影が。


「なぁ!例の記事見たか‼︎」


出来ればここで『へんじがない…ただのしかばねのようだ』とゲームさながらのテキストを視界内にぶち込んでやりたいが、現実はそうもいかない。

だが俺はもはや生者せいじゃでは無い、亡者もうじゃが体力を気にしてなんとする。


「なんだい。おはよう太郎くん」


「いや太郎って誰だよ。名前知ってるだろうが。いや、そんなことはいいんだよ。見たのかよ例の記事を。なぁ‼︎」


なんて目を輝かせながら楽しそうに話しかけてくるのでしょう。

俺の今の姿を見れば答えなんてとっくに分かっているだろうに。


『コロセ…ヤツヲコチラガワニヒキズリ…』


なんだっ!誰が俺の頭の中にっ‼︎

なんて、頭の中で茶番を繰り広げるくらいには気が触れている。

ヤレヤレだぜ。


「なんのことかね次郎くん。僕はそんな記事知らないねぇ」


「いや、次郎でもねぇよ。とぼけても無駄だぜ!その様子をみれば聞かなくても分からな‼︎」


自分で言っちゃったよ。

分かってんなら聞くなよ。


「何を言ってるかよくわかりません」


「しょうがねぇな。なら読んでやろう。「『悲報』人気女性声優にーーーーー


「やめい‼︎」

思いっきり手を払うと奇跡的に彼のスマホを握っていた手に当たり、彼のスマホは宙を舞い鈍い音と共に壁へと衝突した。



「のわぁぁーー‼︎なんてことすんだ!物に当たるのは最低な人間がすることだぞ!」


「ふんっ」


俺のスマホと同じ末路を辿れ!

先ほど車内で落とした時、微かに画面の端にヒビが入ってしまっていた。


「これじゃあ動画とか綺麗に見れないじゃ無いか!」

盛大にヒビが入ったスマホを抱えながら睨みつける。


「どうせメッセージのやり取りなんかする相手もいないんだから、家に帰ってパソコンかテレビで見ればいいだろ!俺を馬鹿にしようとした自業自得だ」


「お前だってやり取りする相手いないだろ‼︎」


「お、俺は迷惑メールをブロックするためにしょっちゅう使ってます〜。知らない相手から凄いペースで送られて来ますー」


もはやなんの自慢にもなっていないが、スマホをネット専用の端末と一緒にされるのは釈然としなかった。


「それはやり取りとは言えないのでは」



「はぁ、俺の恋が終わっちまったぜ」

ヒビの入ったスマホを取り出しながら大きなため息をついた。


「会った事もないのに恋って。プププ」


口を押さえながらクスクスと笑う彼に少しばかり怒りがこみ上げて来た。

だがそんなもの今の悲しみに比べたらなんてことはない。


「俺にはいつになったら彼女が出来るんだろうな」


「来世に期待だな」


「ふっ、ほんとつまんねぇなこんな世界」



チャイムが鳴り、教師が教室の扉を開けて入って来た。

彼はスマホを大事そうにカバンにしまうと隣の席に座った。


「来世は美少年に生まれるといいな」


俺はお前も人のこと言えたようなもんじゃないぞと思いながら少し睨みつけた後ゆっくりと目を閉じた。




「おーい、起きろー」


聞きなれない声が俺の目を覚まさせた。

今さっき眠りについたはずだから、まだ寝れるはずだ。

きっと近くの席の奴が誰かを起こしているに違いない。

そう思い、目を開けることなく再び眠りに入ろうとした。


「おーい、起きてってばー」


まだやってんのかよ。

早く起きてやれよ。

段々とイライラし始めていた。


「おーい、起きなくていいのー」


なんで疑問形?

誰だか分からんが早く起きてやれよ。


「おーい、起きないとぶっ殺すよー」


⁈⁈⁈


随分と物騒だなぁ

一体誰を起こして…


口の悪い声の主が気になり、ずっとつぶっていた目をようやく開いた。


「ん⁈」


目を開くとそこは教室では無かった。

隣には変な奴も太郎も次郎もいないし、さっきまで寝ていた机だってない。

かと言って何かがあるわけでは無く、何も無い空間がただそこにあった。


俺はただ呆然としながら立っている。


「一体ここはどこ」


周りを見回すとようやく自分がいかに危険な状況にあったかを理解できた。

なんと上を見上げると鋭い槍が額の真上で停止しているではないか。


「うわぁぁーー‼︎」

俺は思わず尻餅をつき、尚且つお尻をするようにしながら後ろに下がった。


「やっと目を覚ましたか。あまりに遅いから殺しちゃうところだったよ」


穏やかじゃないなぁ。

後ろを振り向くと、大きな椅子に座って踏ん反り返る少女の姿が。

少女の姿を端的に表現するなら金髪ロリ幼女である。いや、少女である。

よくある例のアレだ。

先ほどの声はおそらく彼女のものだろう。


頭上の槍をクルリと引き戻すと、自分の膝の上である椅子のひじ掛けの間に寝かした。


「えっと。どなたですか?」


「私か?私は神だ‼︎」


「なるほど」


やべーなこいつ。

度を超えてやべーやつだ。


「お前信じてないな。しょうがない、まずはお前が信じるところから始めよう。私も忙しいのでな。テキパキ進めていくぞ」


彼女は指をパチンとならすと、突然彼女を囲むように光り輝く置物や高そうな家具に丁寧に装飾された武器が現れた。

彼女は俺の驚いた顔を見ると満足げにニヤリと笑った。


「これでとりあえず低俗な人間と一緒ではないことを理解してもらえたかな」


「はぁ、まぁそうですね」

もはやどのタイミングで驚けばいいのか分からない。

とりあえずずっと口を大きく開いておけばいいのだろうか。


「私が言うことはことは二つだけだ。お前の質問は一切聞くつもりはない」


俺は返事の代わりにより一層大きく口を大きく開いて見せた。


「まず一つ目、お前がここにいる理由はお前が退屈な世界を変えたいと願ったからだ。ちょうど私もそんな人間を探していたのでこうして呼ばせてもらった。利害は一致していると言えるだろう」


「俺の許可はもはやいらないんだな」


「うるさい。そして二つ目、お前の仕事は特にない。こちらでお前の行動は全て把握しているので報告とかも特にいらない。自由に生きろ。以上」


「以上?」

もう質問してもいいのだろうか。


「あ」


「うるさい。それじゃああちらの世界に飛ばすので衝撃に備えてください」


ダメだった。

だが、まだ大事なことを聞けてない。


「つまり、これから異世界に飛ばすので自由に生きろと言うことでいいのでしょうか‼︎」


「そうだ。もういいな」


はやいはやい。

どんだけ急いでんのさ。

話についてこれてる俺をとりあえず一度褒めるべきだ。


「こう言う展開だと、ラノベやアニメみたいなチートスキルはあるのでしょうか」


「甘えるな!あるわけないだろ。そんな予算はない。…っふふ、ラノベやアニメって…ふふふ、これだから豚さんは」


散々怒鳴った後、とても楽しそうに罵ってくれた。


えぇー。

あれ、予算で決まってるんだ。

それより、酷い言われようだな。

俺の性癖がよじれてしまったらどうするつもりなんだ。

危うく…フヒッ…おっと危ない危ない。


「さすがに知らない世界に生身だけで生きていくのは不可能だと思われます‼︎」


「甘えるな!まぁ、一日目で死んでくれても一向に構わないんだけどなぁ。しょうがない、これを持っていけ」


本日二度目のダメ出しをくらうと、彼女は周りにあった一本の剣をふわりと浮かして俺の持たせた。


「この剣には一体どんな力が…」


剣先から光の斬撃が出たり、触れたものを一撃で仕留める呪いがあったりするのか?

ワクワク。



「いや、ただの折れない剣だ」


「えっ⁈ちょっ!それじゃ生きていけないんじゃ」


「はいはい飛ばしますよー」


体がふわりと浮き始め、頭上に魔法陣が描かれ始めた。

足がつかない!やべ、俺飛んで…地面だいすきぃぃ‼︎‼︎


「あのっ!一回っ‼︎一回下ろしてもらえません?」


「もう始まっちゃったし無理だね」


いや、無理だねって。

非情な返事とは裏腹に、彼女のとても楽しそうな笑顔にとても腹立たしさを覚えたが、もうすでに満員電車のように足が一度地面から離れてしまったので今更どうすることも出来なかった。


「せめてこう言う時は、全てを薙ぎ払う剣や伝説の剣の持ち主は無敵の力を得て世界を救うとか実は魔法が使えて剣術も一流だったりとか、そんなラノベのテンプレみたいな展開を期待してもいいんじゃないでしょうか。いくらなんでも折れない剣ってチートの剣はもともと折れるような描写ないですし、あっちの世界に行ったらほとんどただの剣ってパターンじゃ、ってかこれ抜いて見たらただの木剣じゃん。もはや魚すら切ることも出来ないってそんな異世界主人公ありますか。折れない木剣ってお土産やさんにあるやつと見た目変わらないし、ほとんど使わないから折れないだけで実際使ってみたらすぐ折れたりして、こんだけ装飾には凝ってるのにいざ抜いてみたら木剣は流石に笑いのレベルが高すぎて相手も笑わないんじゃ、ってか最悪気づかない可能性すら微レ存で…」


「はよ行けし…。あと早口すぎてキモい」


「キ、キモい…」


結局最後の最後まで心を抉られながら魔法陣をくぐることとなった。

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