崩壊Ⅱ
「嫌いなら、嫌いって言ってよ!!」
Sに向かって私は叫んだ。
Sは心底嫌そうなムカついたような顔をした。
初めて見た。Sの顔があんなにも感情を表現しているのを。
♣︎
私はやっと、Sに話しかけることに成功した。
「話したいことがある。」
Sは頷くだけで、小説から目を離さなかった。
「今すぐがいい。」
Sが私の言葉を聞いて動きを止めた。
音を立てて本を閉じ、机にそれを置いて私へアイコンタクトをした。
私の後ろをSがついてきた。
「なに、話したいことって。」
Sは相変わらず無表情で冷たい。
普段と何ら変わらない態度だったはずなのに
その時の私にはひどく冷たく感じた。
「そんなに、私のこと嫌いなの。」
「は?いつ嫌いなんて言ったよ。」
Sは首を傾げ、訳が分からん と言わんばかりに眉の形を変えていた。
「私のこと嫌いなら、もっと傷つければいいじゃん。」
「いやだからさぁ、...」
「...い、.......ら、.....ってよ.....、。」
「ん?聞き取れない、何?」
Sは耳を傾けた。
私は息を吸いこみ、叫んだ。
「嫌いなら、嫌いって言ってよ!!」
冒頭へ戻った。
Sは顔を歪めていた。
感情を露にし、憎きものを見ているような目。
いつもの綺麗なSの茶色の目が濁っていた。
「...あぁ、わかった。.....私は今のお前が心の底から大嫌いだ。」
Sに言い放たれて、気づいた。
口にしてはならないことを言った。
「お前の望み通り、さよならだ。」
いつもよりも心做しか冷たく見える表情。
氷と言うよりはもう絶対零度と言った方があっているだろう。
それほどまでに冷たく見えた。
あの冷ややかな目を私は忘れることはないだろう。
Sは私から離れ一足先に教室へと戻っていった。
♣︎
「M!大丈夫だった??」
私が教室に戻ると、いち早く声かけてくれたのはSのことを相談していた“委員長”こと“Y”。
背の高くて美人なY。
Sと同様に大切な友達。
「Y...、S怒らせた。」
「あー...そっか、私がSにMのこと聞けたらいいんだけどね…」
YはSを嫌ってる訳では無い。
ただ話しかけていいかがわからないらしい。
「ううん、大丈夫だよ。」
多分何も思ってないはず。
だって、もう本を読み進めているからさ。
「Sは何も思ってないと思うよ。」
私は精一杯笑った。
♧
それから1ヶ月。
何も無かった。
避けられたり とかそんなことは無かった。
ただ存在がないかのように、知らないと言うように生活していた。
それはSも同じだった。
お互いがお互いを無視する。そんな生活が続いた。
しかし、私は自分勝手だが耐えきれなくなった。
ついに私は勇気を振り絞って、Sに話しかけた。
「S、話がある。」
「私はない。」
見向きもされなかった。
初めての拒絶をされた。
“お前が望むなら私もそうしよう。”
そう言っていたSはもういない。
「お願い、話を...」
「二度言わせるな。お前と話すことなど何も無い。」
遮られた。
自分から拒絶しておいて、自分勝手に仲直りを...なんて、虫が良すぎたのだ。
「頼むから、聞いて...」
「黙れ。自分勝手にも程がある。」
“一度離れた心は二度とくっつくことなどない。”
いつか見たような、そんな言葉が頭を流れた。
私は今日、大切な友を失った。