崩壊
Sは相変わらず、群れようとも誰かと話そうともしなかった。
私はそんなSを気に入っていた。
落ち着くし、気を遣わなくていいからすごく楽だった。
そんなある時。
Sが自分から“ちゅん”と呼ばれている女の子に話しかけに行くのを見た。
別にそれがどうしたってわけでもないのだが。
ちょんはすごく天然で私は苦手としているタイプだった。
でもSはもともとコミュニケーション能力が高かったのかすぐに仲良くなっていった。
私は二人の世界に入ることはしなかった。
否、出来なかった の方が正しい。
「S、最近ちゅんといるけど仲良いの?」
自席で小説を読んでるSに話しかけた。
Sは相変わらず冷めた目で私を一瞬見て答えた。
「仲良くなかったら話したりしない。」
まぁそうだよね 当たり前の答えが返ってきて納得した。
「ちゅんといる方がいい?」
私は勝手にSの隣は自分のものだと思っていた。
それをとられて嫉妬したのか、思ってないことがスラスラ口から出た。
「ちゅんといた方が楽しい?」
「お前何言ってんの、そんなこと言ってないっしょ。」
呆れて冷めた目を向けて、面倒くさそうにため息を吐くS。
「どうしたの?お前変だよ?」
心配してかのぞき込むようにしているSに向かって
「別に、何でもない。」
素っ気ない一言が出た。
「あ、そう。」
Sはそのまま、小説に目を戻した。
♣︎
Sに謝ろう。
さっきはめんどくさい事を言った。
謝らなきゃ。
授業が終わったら話しかけよう。
そう思っていた。
しかし、
「S〜!ご飯食べよ〜!」
ちゅんがSと二人でご飯を食べるようだった。
「おぉ、ちゅん。いいよ、こっちおいで。」
Sは私には見せないような笑顔で、優しい口調で、優しく愛おしいと言うような目をして話していた。
あんなSの顔、見たことない。
私はショックだった。
自分が一番そばにいる。
自分が一番知っている。
自分が一番心開かれている。
そう思っていたのに。
「でもS?Mはいいの?」
ちょんが私の知りたいことを悟ったのかなんなのか知らないが、聞いてくれた。
「あー...よく分からん。前の休み時間は避けられたし嫌われたんじゃね。」
違う、誤解だよ...。
「そっかぁ〜。じゃあさ!今日一緒に帰ろーよ!」
待って、いつも私が一緒に...
「わかった。Mには私から伝えておく。」
いや、ちょっと待ってよ...
Sが席を立ちこちらに向かってくる。
「今日ちゅんと帰る。嫌いなら嫌いと言え。二度と話しかけたりなどしない。」
いつもより冷めた視線を私にくれた。
そのまま私に背を向けた。
「ちゅん」
Sはきっと嬉しそうな表情をして、ちゅんの元へと足早に向かっていった。
♧
次の日。
Sは遅刻ギリギリに来て、1限が始まる前に寝始めてしまった。
“嫌いではない。”そう伝えたかった。
「S〜!トイレ行かないー?」
ちゅんの甲高い声が響く。
Sは嫌な顔ひとつせず
「うん。行こ。」
すぐに起き上がり、ちゅんとトイレへ向かった。
私が話しかけた時はそんな顔しないでしょうに。
「...嫌いに、ならないでよ。」
私のつぶやきは教室の騒がしさに紛れた。