3(とても遠い?)
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魔王討伐の勇者パーティーってのは、王国主導であちこちに告知されて、まぁ行く先々で大抵は親切にされました。一部で。なんせ手配書みたいで。懸賞首みたいで。ウォンテッド!
他のみんなはかなりそっくりだったけど、全身甲冑のあたしは……なんで想像図だったんだろう、泣けてくるよ。甲冑の絵は良し。まぁ良し。
王都から近くはそれなりに似てるんだけど、だんだん離れていくほどに伝言ゲームかってくらいに変ってくる。だいたいが良く描かれている。カッコよく描かれている。そしてあたしはヒゲダルマとかしか言えないような出来になって、「勇者さまを騙るとは何事か!」
泣いたね。心から泣いたね。みんながいてくれなかったら折れてたよ。
「ずっと甲冑姿でいいんじゃね?」ルイジ、軽く言う。蹴ってやった。ユーミが間に入ってくれなかったらトモエさんと二人で手加減なしにボコってたと思う。ボム爺さん? たいてい笑ってる。そう言う人なんだ、あのお爺ちゃん。
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「この旅が終わったら、吟遊詩人になるつもりです」と、遊び人は言った。
「そのようなことは、全てが終わってから語るものじゃ」老魔法使いがやんわりと諭す。
「いいんでね?」と応えたのは盗賊だった。「おめー、いい声してるもんな。楽器できるし」
遊び人は少し顔を赤くした。
「ならば、さっさと魔王を倒さねばなりませんね」女騎士が微笑む。
「ねぇ」ふと、勇者が疑問を口にした。「魔王城まで何マイル?」
「マイル?」なんじゃい、と魔法使い。「食べ物か」うまいのか。お前の世界の食べ物か。「いいのぅ」特に響きが。「うまそうだのぅ」食べてみたいのぅ。
勇者は爺さんのボケをかわし、「どのくらいかかるのかなぁって」
しかし、うっとりとする魔法使いの顔を見て、ボケでなくマジかもしれないとなんだか困った。
「そうですね」と吟遊詩人志望の遊び人は、人差し指を顎に当て、んーと唸る。「とても遠い?」
「分からないのじゃよ」ほっほっほ、と魔法使いが笑った。
「……ダメでしょ、それじゃ」
「いやぁ、どうかなぁ」と盗賊が笑う。
「どうなんでしょうね」遊び人も笑う。
「仕方ないのです」女騎士は嘆息する。
「時が来れば、自ずと道が見える」老魔法使いがキリッと言い切る。「と、伝えられている」
いいのか、それで。
勇者は思う。やっぱ不安しかございません。
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旅は基本、サバイバルなキャンプ生活だった。食材は現地調達。トモエさんとボム爺さん、それからルイジが中心だった。
盗賊のルイジは野草に詳しく、だからパーティー入りだったのかと納得。料理も上手い。ユーミは盛りつけ専門。お皿洗いしてたかな。
魔物って言うけど、普通に食べれなくもない。お腹の中にマガタマがあって、それを取り出せば、牛か豚かみたいな感じだし。ニワトリに似たのもいた。ダチョウかよってのも。お魚の見た目が悪いのはこっちも同じ。捌いてマガタマ取れば(ちっちゃいけどね)、美味しい白身が食べられた。ルイジが香草を採ってきて、ユーミが華麗に食卓を彩る。
こういう旅って、食べることが大事なんだよ。食が楽しくないと、直ぐクサっちゃう。食事の結果は聞くな。花を摘んで雉を撃つ。これもキャンプだ野宿だサバイバルだ。生きるってのは──そんなもんだ。逆に、町にいると、そういうことが気になるんだ。野に出たら、当り前とそうでないことが引っ繰り返る。ただね、おトイレは注意しなきゃいけないことはある。ニオイで居場所が辿られることがある。笑い話じゃないんだよなぁ。動物の足跡を、糞にみるってのがあるんだよね。たとえば絶滅動物って目撃がない場合、足跡や糞が最後に発見された時からカウントするんだって。
あたしたちは、檻のないサファリ・パークにいたようなもの。夜盗山賊愚連隊。人間相手ならどうにでもなった。多勢に無勢でも、あたしたちには加護でゲタ履いてたし、正体分かったら向こうから頭下げてくる。たまにお宝置いていく。ガメたルイジからボム爺さんが口八丁で欲しいものだけ自分のローブの中に隠しちゃう。トモエさんは渋い顔で、「持ち主が見つかるまでの一時的な保管」って。ユーミも怖い顔して、
「その通り」って。真面目! ルイジとボム爺、ああそうだそうだ、保護だ保管だこれはあくまでも一時預かりじゃ、って。ホントにどっちが泥棒なんだか。あははは。
あたしがぐーすか寝てた間にも何度かあったらしいけれど、誰も話してくれなかったから、あたしが知らなくていいことなんだと思う。魔物も、習性を理解してれば面倒引き起こすことはぐっと減るんだな。と言うか、こうなった今は、「魔物」って考え方に違和感は拭えないかも。違った生態を持つ猛獣……だけとは限らないな。どれもこれもが人間と見れば襲ってくるって訳でもないから。
こっちの生き物は、身体の中のマガタマの有無で二分されると思う。進化系統樹の根っこに近いほうで分かれたみたいな。脊椎か無脊椎かみたいな。
ちょっと変った野生動物なら幾らでもいる。ただの「知られていない動物」なら、そりゃ見た事も無いから、「化け物じゃ」、「魔物じゃ」となってもおかしくなかろうもん。
あっちにね、コモドドラゴンっているんだ。でっかいトカゲ。目撃情報だけで、存在が「確認」されるのに百年くらいかかった。それまでは幻の動物だったろうけど、見方によっては魔物あるいは化け物だったんじゃないかな。シーラカンスだって地元の人はみんな知ってた。でも、偉い先生だとかに「発見!」されないと、「幻の生き物」なんだよ。「伝説の生き物」なんだよ。
幽霊の正体見たり枯れ尾花。あたしの世界のことわざ。本当の姿は、実はそんなに怖いものじゃない。無知が恐怖を作るんだ。先に言うとね、これ、魔王城に辿り着いた時の話に繋がるんだ。




