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Ⅰ Demon's dance

登場人物


ジェイ

私立探偵 戦闘のエキスパート


クレア

捜査1課の若き刑事


ケイ

ジェイの助手 戦闘用ロボット


 市街地から少し離れた公園の一角に人が死んでいると通報があったのは、夕方になってからだった。

 捜査1課の警察官、クレア ノートンは現場検証に当たっていた。

 被害者の男性は20代半ば。実弾式拳銃で心臓を一撃されていた。少なくとも20メートルは離れた場所から撃たれており、プロの仕業と思われる。

 簡易なバリケードの外側には少しずつ野次馬が集まりだした。できれば早く終わらせたいところだが、焦りは禁物である。

「それにしてもクレア刑事、見違えるほど立派になりましたなあ……」

 鑑識課の古株、フレディは被害者の倒れていた周辺の地面を念入りに調べながらクレアに声をかけた。

「いえ、私なんてまだまだです。未だに死体を前にすると脚がすくみます。」

「それでいいんです。人の死に心が動かない刑事にだけはならないでくださいね。」

 フレディはもうすぐ定年を迎える。現場で何度も仕事を一緒にしてきたが、いつも警察官として大切な事を教えてくれる。クレアにとっては先生のような存在だ。

「ありがとうございます。フレディ先生。」

「先生はやめてください。ただの話好きの年寄ですよ。」

 フレディは笑いながら応えた。

「さて、少し休憩しますか。」「はい。」

 そう言ってフレディは立ち上がった瞬間、その身体が前のめりに倒れた。

「フレディさん……フレディさん!」

 フレディは心臓に一発喰らい、そのまま帰らぬ人となっていた。

「きゃあーーーーー!」

 誰かが悲鳴をあげ、野次馬で集まった一般市民はパニックとなった。

 クレアは素早く拳銃を取りだし、辺りを冷静に見回した。そして犯人の位置を探った。そして公園の植樹の陰に一人の男を見つけた。

 その男は緑のベースボールキャップに黒いジャンパー、そしてクレアにとって見慣れた体格をしていた。

「ジェイ?」

 キャップで目元は見えないが、下半分はジェイそっくりだった。

 男はすぐに立ち去った。

「フレディ先生……どうして……」

 目の前で親しい人が殺され、クレアの心は張り裂けそうだった。

 そしてガブリエルが到着するまで、クレアの涙は止まらなかった。



 市街地のメイン通りから少し離れた裏道の一角にある5階建ての古い雑居ビル。ジェイの探偵事務所は4階にある。

 その上の階はジェイの住居になっていて、仕事が終わると大体そこにいる。

 ジェイはそこでゆったりとベッドに腰掛けながら缶ビールを開けた。

 そこへ急に電話が鳴った。

 一瞬出るのをためらったが、ジェイは電話に出た。

「誰だこんな時間に……」

『ジェイ?』

「クレアか?どうした?よいこはもう寝る時間だぞ?」

『……』

「何があった?」

『これから、そっちに行ってもいい?』

 クレアの様子からして、なにか訳がありそうだというのはすぐに分かった。

「構わんよ。」

『ありがとう……10分位で着くから……』

 そう言いながらクレアが到着したのは、電話があってから20分過ぎた頃だった。


「ごめんね……こんな時間に……」

 クレアは5階のジェイの部屋に通された。

 時刻は夜11時を回っていた。

「コーヒー飲むか?」

 クレアはこくりとうなずいた。

 コーヒーメーカーにセットしながら、ジェイは缶ビールを呑み始めた。

「やっぱり、ビールもらおうかな……」

 ジェイは黙って冷蔵庫から缶ビールを持ってきた。

「ありがとう……」

「聞いたよ、フレディが殺されたって。」

 ビールを少しづつ呑みながらクレアはフレディが撃たれた状況を話した。

「さっきまで一緒にいて、笑ってた身近な人が目の前で殺されて……私、こんな事覚悟の上で選んだ警察官なのに、いざとなったら全然ダメで……」

「それが当たり前だ……気にするな……」

「でも……」

 クレアはたまらず泣き出した。

 そんなクレアを、ジェイはそっと抱き締めた。

「ジェイ……」

 ジェイの胸に顔を押し付け、クレアは思いきり泣いた。

 そして精神的にも肉体的にも疲れていたのか、やがてクレアはそのまま眠りについてしまった。

 そんなクレアを、ジェイは自分のベッドに寝かしつけた。

「やれやれ……」

 クレアのあどけない寝顔をながめると、ジェイは灯りを消し部屋を出ようとした。

「ジェイ、チャンスよ~、そのままクレアちゃんを襲っちゃえ~!」

 いきなり出てきたケイの頭を、ジェイは思いっきりぶん殴って部屋を出た。



 朝の陽射しが差し込んだ頃、ジェイは目を覚ました。

 5階の自室のベッドにクレアを寝かせつけたので、ジェイは4階の事務所のソファーで寝ていた。

 時刻は7時を少し過ぎた頃だ。

 4階は出入口に事務所として使っているリビングルーム、一番奥にキッチンがあり、その間にカウンターテーブルとスツールがある。

 ジェイがキッチンで顔を洗っていると、クレアが降りてきた。

「ジェイ、昨夜はごめんなさい……突然押し掛けて、ジェイのベッドまで占領しちゃって……」

「よく眠れたか?」

「うん、ありがとう。」

 クレアは照れ臭そうに笑った。

「これから朝食だが、食べていくか?」

「いいの?」

「構わない。それよりシャワーは?」

「あ、いいわ。一旦自分のアパートに戻るから……着替えもしないといけないし……」

 ジェイはクレアに近づき、そして耳元で言った。

「汗臭いけど、俺は気にしない。」

「やっぱりシャワー借ります!」

 クレアは顔を赤くして、5階にあるシャワー室に駆け込んだ。

 その様子を見ながら、ジェイは自然に笑みがこぼれた。



「あっ、このクロワッサン、シリウスベーカリーのでしょ?」

「よく分かったな。」

「私もよくそこで買うの!やっぱクロワッサンはそこが一番よね!」

 朝食はミルクとサラダ、ベーコンエッグ、クロワッサンとシンプルだ。しかしクレアが楽しそうに話しているのを見ながら、ジェイは思った。

 一緒に食事をして、一緒に話をして、一緒に笑う。

 こんなに楽しい朝食は何年ぶりだろう。

 地球にいた頃、養父ロイの元でリンダと3人で食事をした時以来だろうか。

 しかしその時の楽しさとも違っていた。

 クレアは特別な存在だ。

 一緒にいる時間が、他とは違う特別な時間になっている。

「そういえばクレア、昨日の事件だが……」

「そうだ思い出した!」

 クレアが真剣な目でジェイを見つめた。

「私、犯人らしき男を見つけたの!」

「本当か?」

「それがね、ジェイそっくりだったの!」

 バシャッ!

 ふたりが振り向くと、頭からミルクをかぶったケイが立っていた。

「ケイ!どうしたの?」

「あ……ごめん、ミルクを買いにいってて……ちょっと力の加減を間違えちゃった……」

 ケイの手にはミルクの紙パックがつぶれていた。

「ごめん……また買いにいってくるね……」

「買い物はいい、それよりシャワーを浴びて着替えろ。」

「えっ?あっ、そうね……」

 ジェイはキッチンの奥からモップを持ち出し、床にこぼれたミルクを拭き取った。

「ケイの様子、おかしくない?」

「そうだな……」



「すっかり世話になっちゃったわね。」

「大した事ではない。」

「ウソ!迷惑だったでしょ?」

 答える代わりに、ジェイはクレアを抱き寄せた。

 クレアもジェイの背中に手を回し抱きついた。

 お互いの温もり、感触、香り、それらを感じられた。

「気を付けろよ。何かあったらすぐ連絡しろよ。」

「うん……」

 昨夜とは違いクレアは笑顔で車に乗り込み、去っていった。

 本当はまだ悲しくて辛いはずなのに、それを乗り越えて笑顔にする。初めて会った時よりクレアはずっと強くなった。その強さにジェイは感心した。

「いやあ~ダンナ!すっかり恋人同士ですなぁ~!」

「お前こそ大丈夫なのか?ケイ。」

 ケイは笑顔で応えた。

「ぜ~んぜん大丈夫よぉ~!」

 いつも通りのケイに戻っていた。

「それより心配なのは、フレディさんたちを殺した犯人よ!」

「ああ、分かってるさ。」

 犯人はプロ、しかもかなりの腕のようだ。ジェイはそちらが気がかりだった。



 クレアは自宅に戻り着替えた後に、署に出向いた。

 そしてすぐにフレディが殺された公園に向かった。

 状況から見て始めの若い男とフレディを殺害したのは同一犯の可能性が高い。そしてクレアは、ジェイによく似た男が関係しているのではないかと思っていた。

 フレディが撃たれた場所に立ち、周辺を見回すクレアの目に、少し高い丘が見えた。

 距離にして約25メートル。あそこから狙撃したかもしれないとクレアが考えていると、丘の上の木陰から男が現れた。

「あれは!」

 そこに例の男が立っていた。

 緑のベースボールキャップに黒いジャンパー、ジーパンとラフな格好の細身で小柄な男は、ゆっくりとクレアに向かって歩いてきた。

「あなたは……だれ?」

 男はキャップを脱いだ。

「!」

 濃いブラウンの柔らかい髪、真っ直ぐで細い眉、小さく引き締まった唇に細くやや丸みをおびた鼻、そして鋭い紺碧の瞳。

 まるで古代ギリシャ彫刻の美少年のような端正な顔つきは、ジェイと瓜二つだった。

 違うのは短く刈られた軍人風の髪型、いやもっと違うのは内面からにじみ出る狂気と殺意だろうか。

 その瞳に宿る冷酷な光にクレアは恐怖を覚えた。

「クレア!そいつから離れろ!」

「ジェイ!」

 駆けつけたジェイは男に銃を向けた。

「フッ……」

 男は薄ら笑いを浮かべた。

「ジェイファーストだからジェイか……なるほどね……」

「貴様……何者だ?」

「……そうだな……ジェス……とでも名のっておこうか……」

「ジェス……だと?」

「ああ、アンタに会いに来たんだ……ジェイ兄さん……」

「何だと?」

「というわけで……女、お前はもう用済みだ。」

 バァーン!

「あっ……」

「クレア!」

 ジェスと名乗る男は、実弾式拳銃でクレアの心臓を狙い撃ちした。

 クレアはそのまま後ろに倒れた。

「クレア!クレア!」

 倒れたクレアを抱き抱えると、ジェイはジェスに向かって発砲した。

 しかしその瞬間、大柄な男が間に入ってジェスの盾になった。

「何!ロボットか?」

「いいタイミングだ、『エイト』……」

 2メートルは超える巨体に黒いスーツ姿、スキンヘッドの『エイト』と呼ばれた男は無言で無表情だった。

「紹介しよう、こいつはエイト。正式名は『K-8800』……」

「なんだと……」

「だったらアタシの出番ね!」

「ケイ!」

 いつの間にかエイトの前にケイ、正式名『K-6700』が立ち塞がった。

「エイトちゃん!正直アタシの趣味じゃないけど、今日は特別にお姉さんがお相手してア・ゲ・ル!」

「面白い、Kシリーズ同士の対決か……エイト、相手をしてやれ。」

「はーい!鬼さんこちら!」

 ロケットモーターを使って猛スピードで離れるケイを追って、エイトも飛び出して行った。

「さて、決着を着けようか?ジェイ兄さん……」

「クレア……」

 ジェイはクレアを抱き締めたまま動かなかった。

「おいおい、せっかく邪魔者がいなくなったってのに、やる気なしかい?」

「クレア……」

「ジ、ジェイ……」

「クレア?無事かクレア?」

 心臓を撃たれたはずのクレアは苦しそうに目を開けた。

「なんとか生きてるわ……」

 クレアは被害者がいずれも心臓を狙い撃ちにされていたので、念のためにと思って防弾チョッキを着用していた。それが彼女の命を救った。

「よかった……」

「ごめんね……足手まといで……」

 ジェイは首を横に振った。

 クレアは警察の緊急用通信機を取り出した。クレアが使おうとしたのをジェイは取りあげた。

「D地区サウスパークと周辺道路の閉鎖、そして救急車を一台要請する。」

 防弾チョッキを着用していたとはいえ、クレアは大口径の弾丸を至近距離で喰らっている。命に別状はないが、肋骨が折れている可能性がある。話をするのも苦しいはずだ。

「しばらくそこでじっとしていろ。あの馴れ馴れしいニセモノ野郎にお仕置きをしてくる。」

「気を付けて……ジェイ……」

「ああ、終わったらデートしてやる。」

「絶対よ……」

「ああ、今度は絶対だ。」

 ジェイは立ち上がり、ジェスに向き合った。

「ようやくやる気になったようだな、ジェイ兄さん……」

「ジェスとか言ったな、俺を狙う目的は何だ?」

「なあに、どっちが強いか確かめてみたいだけさ。」

 バァーン!

「くっ!」

 撃ったのはジェイだった。

 その弾丸はジェスの拳銃を弾き飛ばした。

「そのために無関係の人間を殺したのか……」

「驚く事はないだろう?今までだって多くの命を奪ってきたんだ……俺も……アンタも……」

 ジェイは拳銃をスーツの下のホルスターに納めた。

「その奪った命が、どれだけ重いか、お前は分からないのか!」

 ジェスはジェイに殴りかかった。ジェイも素手で応戦する。

 同じ体格、同等の戦闘力、互角の戦いが繰り広げられていた。

「アンタこそ、何のために生まれてきたのか分かってないようだな!」

 ジェイと互角のジェス。単に互角というだけではない。格闘のセンス、技のキレ、動きのクセ、まるで自分の分身と戦っているようだ。決着ななかなか着かない。

「おっと、こっちの決着は着いたようだな……」

「!」

 猛スピードでやって来る物体。それはジェスがエイトと呼んでいた『K-8800』だ。そのエイトが左手に掴んでいるものをつき出した。

「ケイ!」

「そんな……」

 エイトがつき出したケイは髪がグシャグシャ、服はボロボロ、全身傷だらけで、まるで車に数回轢かれたような有り様だった。

 そのケイをエイトはゴミでも拾い上げたように無造作に髪を掴んでぶら下げていた。

「ケイ!」

「あ……ジェイ……ごめんね……服をダメにしちゃった……てへへ……」

 ケイは無理に笑ってみせたが、かなりのダメージを受けている。

「スペックではエイトの方が上だから、当然の結果だな……そしてジェイ兄さん、アンタは俺には勝てない。」

 ジェイはポケットからある物を取り出し、放り投げた。

「何!」

 ジェスが放り投げた物。それは対人用手榴弾だ。しかし放り投げた先はジェイではない。

 ジェスが標的にしたのはクレアだ。

「クレア!」

 ジェイはとっさにクレアの上に覆い被さり、盾になった。

 炸裂する手榴弾。

「ジェイ!」

「ジェイ!」

 殺傷力を高めるため、手榴弾には多数の金属片が含まれている。それが爆発と同時に飛び散り、相手にダメージを与えるようになっている。

 ジェイはクレアを守るため、爆発の炎と無数の金属片を背中に直撃を受けてしまった。

「やっぱり思った通りだ……さて、フィナーレを迎えようか……ん?」

 遠くからサイレンが聞こえてきた。警察と救急車が向かっているようだ。

「まあいい、お楽しみは後にとっておこう……エイト、行くぞ。」

 エイトはケイをボロ布のように投げ捨てると、ジェスと共に去っていった。

「ジェイ……ごめん……あなたを守れなかった……」

「ジェイ!しっかりして!ジェイ!」

 後に残されたのは、満身創痍のケイと、泣き叫ぶクレアと、瀕死のジェイだった。



To be continue ……

次回予告


 ジェスとの戦いで瀕死のジェイ。

 そして明かされるジェイとジェスの秘密。

 そしてジェイとクレアの関係。

 次回、「スターダスト コネクション ラストファイル」

 I didn't know what time it was

 愛は 常に 試される

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