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よろしくお願いします。
「幸人、これコピー3枚取ってきて。で、1枚佐藤先生に渡してきてくれ。よろしく」
「あ、コピー行くならついでにこれも。各10枚ね」
「コレもヨロシク。みんなに配るから、余裕もって35ね」
次々と手に書類が積み上がっていく。
それを見て、俺は盛大にため息をついた。
何をしてるかって?
体育祭運営委員会のお手伝いである。
なんでそんな事になってるかって?
………なんでだろう?
初回の説明会でぼぅっとしてて先輩方に目を付けられて数日。
すっかりパシリと化してますが、なにか?
「先輩方、とりあえずで良いのでミス防止の為にも毎数指定の付箋くらい貼ってください。後、こっちの書類、ここの敬語が二重になってます。
それから七瀬先輩、どさくさに紛れて変な物混ぜないでください。俺の人間性が疑われたらどうしてくれるんですか」
パラパラと渡された書類をめくり軽く確認すれば、案の定イタズラ書類が紛れ込んでいた。
前に確認せず、予約コピーで一気にやったところ、ひどい目にあったのだ。
図形の多い書類のフリをしたそれは、よく見ればエロ本の内容だったりする。
こんな物作る時間があるなら仕事してくれ。
委員会のメンバーがどっとわき、「あっさりバレてんじゃん」「なな、へたくそ〜」だの、ヤジが飛ぶ。
だから、あんたらみんな仕事しろよ。
最初のうちは「ジュース買ってきて」だの「タオル取って来い」だのだったのに、気がつけば委員会の仕事に巻き込まれてるこの現状。どうしてこうなった。
「まぁまぁ、一緒に行ってやるからそう怒るなよ」
どさくさに紛れて七瀬先輩が一緒に会議室を出てくる。別に怒ってないし。呆れてるだけで。
てか、サボりじゃないですよね?
「今日の分の仕事は終わらせてるからそんな顔すんな」
オォ、心を読まれた。
苦笑いとともに髪をくしゃくしゃにされる。
まぁ、おふざけも多いけど、やる事はシッカリとやるんだよな。
そこら変のバランスの良さが人気の秘訣か?
しかし、距離感が近い。
乱れた髪を直しながら、さりげなく半歩離れる。
「う〜ん、なかなかなつかないなぁ」って小さな呟きはスルー。俺は野良猫か何かか?
コピーを取って職員室を出ると、どこかに消えていた七瀬先輩が戻ってきた。
手にジュースが沢山入ったふくろを下げてる所を見ると、休憩用の物資を補給に行ってたんだな。
丁度いいや。
チラリと時計を確認してから、コピーしてきた書類の束を押しつける。
「すみませんが、ここで失礼します。あそこに戻ると、抜けにくくなりそうなんで」
もともと俺の存在は好意での手伝いって事になっているので義務も拘束も発生しない。
そもそも、応援団の一一般団員なだけで、目の前の先輩に引きずり込まれただけだしな。
「あぁ、用事あるんだったな。コレ、持ってけ」
あっさりと頷くと、書類と引き換えにジュースの缶を渡された。
最近お気に入りの銘柄によく見てるなぁ、と素直に感心する。
「なに?惚れそう?」
にっと笑われて肩をすくめる。
「なにいってんですか。お疲れ様です」
すかさずふざける先輩を軽くかわして、頭を下げると速やかに退散。
ここで下手に関わると、また時間を食ってしまう。ジュースは今日の報酬としてありがたくいただいて行こう。
さっさとその場を後にした俺は、だから先輩が俺の背中を見ていた事も「本当につれないなぁ」と、小さく呟いた後、どこかに連絡していたことも全然気づかなかった。
「ただいま〜、ハル」
「あい!」
両手を広げて笑顔のお出迎えに心が癒される。
本日仲良し夫婦はデートだそうで、夕方からハルを預かる約束だったのだ。
「じゃ、行ってくるわね〜」
気合い入った格好で、姉貴が入れ替わりにいそいそと出かけていく。
仕事が終わった和海さんと外で待ち合わせするそうだ。
「行ってらっしゃい」
ハルを抱き上げて見送れば、腕の中でバイバイと手を振っていた。
「すごいな、ハル!いつの間にバイバイできるようになったんだ」
新しい仕草に驚けば、キョトンとされた。
いや、だって今までは俺が手を持って振ってやってたから、自分でできるようになってたなんて知らなかったんだよ。
「ゆ〜、あっあっ!」
感動に打ち震えていると、ハルが俺の頬をペチペチと叩いてからリビングの方を指差し、あっちに行こうと誘ってくる。
「はいはい。なにして遊ぶかね〜」
逆らわずリビングに足を向けながら、表情はだらしなく緩みっぱなしだ。
「あうっ!」
遊ぶの言葉に反応したのか、ハルのおもちゃ箱から積み木がふよふよと飛んできた。
三角や四角のカラフルな積み木が隊列を組んで空を飛ぶ様子はなかなかにメルヘンだ。
思わず、窓の方に目をやれば、シッカリとレースのカーテンが閉まっている。
最近買い換えた少し厚手のそれは、ミラーカーテンになっていて、風や光は通すけど外からの視線は遮断してくれる頼もしいヤツだ。
よし、セーフ。
ハルに腕輪をつけるのを拒否してから、俺たちは徹底的に自衛に回ることにした。
とにかく、家の中への視線をブロック(雨戸閉めるわけにはいかないから、例のカーテンやブラインドを駆使)
外に出る時も、絶対にハルから目を離さず、力を使いそうな予兆を見逃さない。
本当は家の中にこもってる方が良いんだろうけど、ハルの今後の成長を考えれば絶対に外遊びは外せない、と思うんだよ。
お日様の光は大切。
後は、分かってなくても地道にハルに言い聞かせていくしかない。
お外で力を使わない。
家族以外の前で力を使わない。
そのうち、理解してくれると信じよう。
こう言うと、大変そうに聞こえるけど、意外とそうでもないんだよ。
なぜなら、ハルは人見知りだから。
公園行っても、知らない人が近くにいると、絶対側から離れないし、近寄ってきても俺の後ろに隠れようとする。最悪、しがみついてベソをかく。
良いのか、悪いのか……微妙なところだけど、まぁ、現状助かってるので良しとしよう。
母さんいわく、これくらいの人見知りならする子はいっぱい居るし、成長とともに収まる、との事なので、気長に見守る事にしてる。
人見知りしなくなる頃には、能力を隠す意味も分かってくれてるだろう。
目下最大の問題は。
念動力で上手に積み上げられた積み木の前に座り、ハルも降ろす。
「ハル、手を使って作ろうな」
「あだぁ」
積み木を1つ小さな手に握らせると、にっこり笑って首を縦に振った。
読んでくださり、ありがとうございました。
体育祭……何してたか記憶が遠いです。
夜凪のうっすらとした記憶と妄想によって書いてますんでツッコミ不要でどうか。
プラス、ハルくん教育の回。
手でやるよりも力使った方が早いため、力に頼りがちなハルくんに大変みたいです。