番外編〜幸せな日常②
2番3番と呼ばれてた少年たちのその後です。
「勇気〜、ご飯だよ〜。どこ〜?」
自分を呼ぶ声にぼんやり海を眺めていた意識が引き戻される。
あの日。
迎えに来た達也と共に飛んで来たのは、老人ばっかりが住む小さな漁村だった。
突然現れた俺たちを不審がる様子もなくあっさりと受け入れた懐の深さは、流石大怪我して流れ着いた達也を村の一員として受け入れた村、と言うべきか。
単に子供がいる事が嬉しかっただけの気もするけど。
皺くちゃの手が嬉しそうに頭を撫でてくるのも、オヤツだとお菓子を握らせようとするのも、戸惑ったのは最初だけですぐに慣れた。
何よりも、真っ直ぐに俺たちを見つめて細められる目が、なんだか温かいものを伝えてきて、すごく心地よかったのだ。
そうして、ひと月も経つ頃には、俺たちはすっかりこの場所に馴染んだ、と、思う。
少なくとも、ふいにこちらに伸ばされる手に怯えることはもう無い。
「また海見てたの?寒くない?」
堤防に腰掛けていた俺を見つけた未来が、少し危なっかしい足取りで隣に来て腰を下ろす。
「うん。夕焼けが綺麗だった」
「………そっか。見たかったな」
ほとんど目が見えない未来も強い光なら感じる事ができる。
今はもう日がすっかり沈んで、夜の闇が訪れようとしていた。
冬の日はあっとゆう間に沈んでしまう。
「明日、一緒に見たらいいさ」
「………そうだね」
何気なく呟けば、未来がクスリと笑った。
その笑顔に、少し首を傾げて、俺も笑う。
明日の望みをなんの気負いもなく口にする事ができる。
そんな当たり前のことが出来るようになった自分達に気づいて胸の奥から温かいものがこみ上げてくる。
「な、今度の勉強会の後、ユキ兄の所遊びに行こうぜ」
ふと思いついて言えば、未来が嬉しそうに頷いた。
物心つく頃から組織の中の狭い世界しか知らなかった俺たちは「常識」が欠けているって事で、2日に1回、俺たちをすくい上げてくれた組織の中で勉強させられているんだ。
そして、春になれば学校に行くことになってる。………らしい。
テレポートで飛んでいくから、別にこの島で生活しながらでも大丈夫。
自分の力を初めて嬉しく感じた瞬間だった。
それ以外にも、俺たちは定期的にユキ兄やハルに会いに行くようになっていた。
いつ行っても、あの家は温かく俺たちを迎え入れてくれる。
特に小さなハルはとても可愛い。
まだ力の使い方がよく分かってないからたまに変なことをして慌てさせられたりするけど、それだって可愛くって笑ってしまう。
そんな風に自分より小さな子を可愛く思うようになるとは思っても見なかったけど。
「そうだね。ハル君も大きくなったかなぁ?」
「1週間前に会ったばっかりじゃん。そんなに早く変わんないだろ!」
にこにこと笑う未来におかしくなって笑ってしまう。
「ええ〜?赤ちゃんの成長ってすごい早いじゃん」
唇を尖らせて文句を言う未来に適当に相槌をうって立ち上がらせる。
「今日の夕飯、なに?」
「シマお婆ちゃんがくれたカボチャの煮付けと干物だよ」
「また魚!たまには肉喰いたい」
文句を言いながらも手を繋いで家路を辿る。
未来の顔はずっと笑顔で、多分、俺も同じような顔、してるんだと思う。
今日の続きに明日があって、明日のしたいことは自分で決めることが出来る。
そんな当たり前のことが俺たちには幸せで、でもいつかそんな幸せを幸せだと感じなくていい日がくれば良いなあなんて、贅沢なことをぼんやりと思う。
少し歩けば、すぐ家が見えてくる。
玄関の前に立つ人影が俺たちを見つけて手を振ってきた。
俺たちは顔を見合わせた後、同時に走り出す。
玄関の明かりを背に立つその人の顔は影になって見えないけど、どんな表情を浮かべてるかなんて分かってる。
「ただいま!達也」
大きな声で叫んで、俺たちは広げられた腕の中にとびこんだ。
読んでくださりありがとうございました。
彼らは、お年寄りのおおらかな愛に包まれて、常識を勉強しながら、ハル君の良いお兄ちゃんしてます。
イロイロと抑圧されてきたので、感情のコントロールが課題です。




