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今日も2人はラブラブです(笑)
「ただいま〜」
「あうぅっ!」
家に帰れば、相変わらず玄関でお出迎えしてくれるハルの姿。
なんか最近これが普通になってきたな。
いないと寂しい気がする……、いかん、これじゃ姉貴の思う壺か?
ニコニコ笑顔で抱っこをねだるハルに癒されながらも、遠い目をして自問自答してしまう。
と、いつまでも抱き上げない俺に焦れったくなったらしいハルが、よいしょっと立ち上がり足元に抱きついてきた。
「あだうっ!」
そうして気を引いた後、次の瞬間胸元へと出現したハルを慌てて抱きとめる。
「実力行使とは、やりおるな、ハルめ!」
「きゃぁぁ〜〜」
ギュッと抱きしめて額同士をぐりぐりするとキャッキャと楽しげな笑い声が響く。
「玄関先でなにやってるのあなた達」
喜ぶハルが可愛くてそのまま高い高いしたりぐるぐる回って遊んでいると、呆れた声がして我にかえる。
リビングの扉から母さんが顔だけ出してこっちを見ていた。
「………ただいま」
「お帰りなさい。早く入ってらっしゃい」
呆れた顔が痛いです、お母さん。
何となく肩身がせまいような気分を味わいつつ、ハルを連れてリビングへと入ると、姉だけじゃなく旦那の和海さんまで座ってお茶を飲んでいた。
「あ、いらっしゃい」
「いや〜、本当に2人は相思相愛だね。ハルも君が玄関を開ける3秒前に突然玄関に飛んで行ったからね。なにで察知してるのかなぁ?」
にこにこと無邪気な笑顔に、気が抜けてしまう。
「さぁ?足音とかですかね?」
なんとなくヘラリと笑いかえしながら、首をかしげる。
そもそも、そんな行動とってたなんて今日初めて知ったし。
玄関に居るのも、大体の時間を覚えて、ずっといるんだとばかり思ってたからな。
「不思議よね〜。なんか、独特の波動とかを察知してるのかしら?」
「波動って……」
同じく首をかしげる姉貴に、ふと腕の中のハルを見ると、同じように首を傾げていた。真似っこかな?かわいいなぁ。
「と、本題を忘れるところだった。今日は幸人君に相談があってね」
不意に笑顔を引っ込めて真面目な顔になると、目の前のソファーに座るように促された。
真面目な顔に何事だろうと少し緊張しながらも促されるままにソファーに腰を落とした。
「前にハルの能力をそのままにしておいて良いのかと聞かれたことがあったよね。
答えはNOだ。
感情のコントロールが出来ない赤ちゃんが持つにはトラブルを呼び込みかねない力だ。本来なら、こちらの話をシッカリと理解できる年齢まで封印できるのが望ましいんだ」
真剣な表情のまま話し出した和海さんは、そこで困った様に一度言葉をきった。
「だけど、従来の方法では封印出来ないほどこの子の力は強くてね。最終手段として、こんなものを渡されたんだよ」
そう言って、目の前のテーブルにコトンと小さな腕輪が置かれた。
「これって……」
シンプルなシルバーの細いそれは、良く見れば内側に何かが彫られているみたいだった。
「暗示の力を強化補助してくれる道具と思ってくれて良い。ただ、副作用として感情の起伏が著しく制限される物なんだ」
「……感情の起伏って、泣いたり笑ったり、ですか?」
恐る恐る手に取ったそれは驚くほど軽く、例え小さな赤ちゃんの手につけたとしても、その動きを妨げる事などなさそうだった。
それなのに、心の動きを妨げるなんて……!
脳裏にようやく見せてくれる様になったいろんな表情が過る。
嬉しそうな顔。はしゃいでいる様子。びっくりした顔。やりたい事が上手くいかずベソをかいた顔や癇癪を起こした顔だって可愛いのに。何より、心から安らいだ幸せそうな寝顔は、見てるこっちまで幸せな気分になってくるんだ。
いくら、安全の為だといったってそれら全てをなくす事になるなんて、そんなのありえないだろ!!
明らかに強張った顔つきで見つめてた、と思う。
そんな俺をジッと凝視した後、和海さんはにっこりとほほえんだ。
「うん。君なら反対してくれると思ったよ。もともと、感情が外に出にくい子にこんなのつけたくないよね」
和海さんの言葉に姉貴もウンウンと横で頷いている。
「だけど、このまま放っておいて万が一力が暴走したり、衆目の元に晒されたらマズイのも事実なんだ。
そうならない為のフォローを今まで通り、手伝ってもらえないかな?」
顔は笑ってるけど目が笑ってない和海さんは少し怖い。
きっと、いま俺に迫られているのは強い決意。
今後、なにが起ころうとも、ハルを護っていく同志になれるか、という。
机の上の得体の知れない腕輪をジッと見つめる。
お気楽な生活しか知らない俺には想像もできない様な世界が垣間見える気がした。
だけど、これをつける事で、人形の様になってしまうハルを見るくらいなら、きっとどんな事だって乗り越えられる。
だから。
「そんな、当たり前の事、今更確認しないでくださいよ。俺は、ハルの事が大好きなんです」
そう答えると、俺は自分にできるめい一杯の笑顔で和海さんを見つめ返したんだ。
そんな俺を腕の中から見上げていたハルが、嬉しそうににっこりと笑う。
「ありがとう、ユキくん」
姉貴が、いまにも泣きそうな声で小さく呟いた。
読んでくださり、ありがとうございました。
たぶん幸人は子供で、まだ見えていない物がたくさんあって、でも、だからこそ純粋でいられるんだと思います。
だけど、自分でも分かっていないことは分かっているので葛藤するし悩むんです。
青い春ってやつですよ。
そんな微妙な機微が表現できたら最高なんですけど、ね。
……頑張ります。