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本拠地さえ見つけてしまえば、潰してしまうのは容易い。


幼い能力者を攫って手駒にするというのは、裏を返せば賛同者は少なく力の足りていない弱小組織、という事だ。


なかなか捕まらなかったのは、案の定、予知能力者がいたかららしいが、元々身体の弱い人物に無理をさせていたらしく、現在昏睡状態になっていたそうだ。


結果、今回の作戦がばれる事なく、成功したのは僥倖だった。

というか、その人物の意識があれば、他組織の要の人物の子供に手を出そうなどと無謀な行動は起こしていなかっただろう。

その人物の最後の予知が、「力の強い子供が産まれる」というものだったそうで、尚更ハルに固執してしまったらしい。


攫われていた子供達は、無事、家族の元へ戻り、残っているトラウマはユックリとケアしていく事になるそうだ。

辛い思いをした分、家族に思い切り甘やかしてもらうのが1番の薬だろう。

能力的な補助も、和海さんの所が今後やっていくそうだ。




「まぁ、収まるところに収まった感じ?」

リビングでハルを遊ばせながら、和海さんに聞いた所をザックリと大成に説明すると、少し冷めてしまった紅茶を口に含んだ。


「ふぅん?全員捕まったのか?」

皿に盛られたスナック菓子を口に放り込みながら、大成が首をかしげる。

「主謀者は、ね。ただ、末端の方の何人かが逃げたみたいだね。一応、残党狩りもするみたいだけど、あんまり追い詰めるのもヤバいみたいで迷う所らしい。

後、何人か行き場の無い子供がいるみたいで、そっちは組織の方で引き取るってさ」


眉間にしわが寄ってしまうのは仕方が無いだろう。

無理に攫われたわけではなく、孤児や能力のある子供を扱い兼ねた親に『売られた』子供もいたそうなのだ。

そういう子達の方が力が強かったのは、まぁ、お約束だそう。


感情で暴発しやすい力は、知識の無い親には扱い兼ねたんだろう。

夜泣きの度にポルターガイスト現象起こされたら、親がノイローゼになるのもしょうがないだろ?と、憤る俺に和海さんが困った様な顔で教えてくれた。


和海さんの言いたい事も判る。けど、感情が追いつかないのは、俺がまだ子供だからなんだろうな。

『親』が『子供』を『捨てる』現実を認めたく無いと思うし、嫌悪感を感じてしまう。


不満そうな顔の俺に、困った顔の和海さんはなだめる様にポンポンと頭を撫でてくれた。

「それでも、抱きしめて守ろうとする親だっているんだから。そんな、悲しい顔はするなよ」


「そう、ですね。その子達だって、これから幸せになれば良いんだ」

自分に言い聞かせる様につぶやく。

人の幸せの量は決まってるっていうし、その子達はきっとこれからたくさんの幸せが訪れるはずだよな!


「な〜んか、よくわかんないけど、親元に帰れない子たちは和海さんのとこで世話するんでしょ?じゃ、安全は約束された様なもんじゃん。小さい子いるなら、ハルの良い友達になるんじゃね?」

大成ののんびりした言葉に目からウロコが落ちた気分だ。

そうじゃん。同じ能力持ちの子供ならいつ力がバレるか、なんてビクビクしなくて良いし、ハルも分かんない事とか聞けて良いだろうし。

うん。

なんか、いっきに楽しみになってきた。


「あう?」

自分の名前を呼ばれたとおもったらしいハルが、おもちゃから顔を上げ、こてん、と首を傾げた。

「ハル、お友達出来るかも、だぞ。楽しみだな?」

「あい!」

多分よくわかってないんだろうけど、ハルから良い返事が返ってきて笑ってしまう。




脳裏に浮かぶのは、何の感情もうつさない暗い目をした子供達。

あそこから抜け出すのは、きっと大変だろうけど。

これからは、守ってくれる人も導いてくれる人もいるから、きっと大丈夫。



さぁ、幸せになろう!






お兄ちゃんを攫ってきた日。

それが、組織が存在していた最後の日になった。


あれから、僕達はやってきた大人達に『保護』された。

迎えに来た家族と泣きながら抱き合う元『仲間』達を僕と3番は部屋の隅に座り込んで眺めていた。


僕に迎えに来てくれる家族なんて居ない。

この組織に連れてこられる前の事を僕は薄っすらと覚えていたから、僕はその事を知っていた。

そして、それは3番も同じだったから。


そもそも、僕たちのせいでここに来た子供だっていっぱい居るんだ。

恨まれこそすれ、受け入れられるなんて思えるわけも無い。


だから、俯いた視線の中に、誰かの靴先が見えた時も、きっと組織の大人達と同様断罪される為に連れに来たんだろうって思ってた。

懐かしい声が耳に入るまでは。


「未来。勇気。迎えに来たよ」

優しく響くその声は、もう2度と聞くことが出来ないと諦めていたものだった。

信じられなくて、固まる僕たちに目の前に立つ誰かは膝をつき手を差し伸べた。

成人した男性のものにしては白く華奢な印象を与えるほっそりとした手。


「………1番?」

恐る恐るという様に、3番がつぶやく。

「名前で呼んでって言っただろ?達也だよ」

困った様に訂正する言葉はかつて何度も繰り返されたもので、数年前、失ってしまったはずのものだった。


「ごめんね、遅くなって」

ある日任務に連れて行かれたまま帰ってこなかった1番。

そういう事だろう、と諦めていたのに。

「なんで……」

思わず漏れた言葉の意味を正確に理解したんであろう1番から苦笑が返ってくる。

「うん。失敗して死にかけて、おまけに頭うって記憶まで失ってたせいで戻れなくなってたんだ。海に落ちたから、組織の人間も死んだものと探しもしなかったみたいだね。

過疎化の漁村で拾われて、そこの老夫婦にお世話になってた。

暫くして思い出したんだけど、ね」


「生きてたんだ」

じわじわと喜びが湧いてくる。

俺たちより少し年上の子供。

自分の名前もわからない子供に名を与え温もりや情を与えてくれた人。


抱きついたのは僕が先だったか、3番が……勇気が先だったか。多分、ほぼ同時だったんだと思う。

飛びつかれた達也は、勢いに負けてバランスを崩し尻餅をつきながらも笑ってくれた。


「約束しただろ?ここを出たら一緒に暮らそうって。迎えに来たんだ。

何もない田舎だけど、良いところだよ」

「行く!達也と一緒なら、どこだって行くよ!」

優しい声に速攻で返せば、隣で勇気もブンブンと首を縦にふっていた。

それに、達也がふんわりと笑う。


「うん。一緒に行こう」


その日、僕は憧れ続けた優しい場所を手に入れたんだ。



読んでくださり、ありがとうございました。


超能力を使っての戦闘シーンなども考えないでは無かったのですが、この作品で描きたいものはあくまで日常だよなぁ〜と、サラリと飛ばしてしまいました。

物足りないと感じた方がいらっしゃったらごめんなさいm(_ _)m


1番(達也)は最後まで悩みましたが、2人の幸せには必要不可欠な存在なんだろうなぁ、と生き延びて貰いました。

組織の情報提供者は彼です。

記憶が戻った後、どうにか2人を救えないかと動いている時に和海くん達の存在を知り合流しました。



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