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そう。これは全部本当の事。
子供を奪われた親達は、必死で行方を捜し伝手を頼って何組かが和海さんの所属する団体にたどり着いた。
それで、能力者の子供達が誘拐されている事件が発覚し、和海さん達は何年もその組織を探していたそうだ。
だけど、予知能力者でもいるのか、いつも後少しのところで逃げられ、煮え湯を飲まされていたらしい。
どうにか捕まえたと思ってもまるでトカゲの尻尾切りの様に末端のみだったり。
だから、今回の最終手段が取られた。
遊園地に誘いに来た大成。
狙われていると分かっているのに、ホイホイとその誘いに乗って家の外にハルを連れて出かけた俺。
全てはそこから始まってたんだ。
俺とハルの体に見えない特殊なペンで刻まれた和海さん特製の陣は追跡と攻撃無力化。その他諸々。
狙われてると分かっているなら、素直に攫われて本拠地まで運んで貰えば良い。
で、その痕跡を追って一網打尽。
つまりは、囮捜査だ。
もちろん、能力を封じられる様な、なんらかの手段がなされているかもしれない。
危険はあるだろうから、ハルは連れてきたくなくて、直前で脱出させたんだ。
ハルにも俺にも同じ陣が描かれていると分かっていたからの強行手段。
上手くいって良かった。
だって、最悪ハルだけが連れて行かれる可能性もあったんだぜ?
ありえない。
最初、この作戦を聞いた時、強硬に反対したもんな。
だけど、結局協力したのは、子供を奪われ嘆く家族の様子を知ってしまったから。
自分達の身に彼らと同じ事が起きたらと思うと他人事とは思えなかったんだ。
今、この場に来て心からおもう。
ハルがこんな目にあってたらと思うだけでブチ切れそうだし、見知らぬ子供達だとしても、こんな目にあって良いわけが無い。
「て、わけでみんなも逃げる準備しよう。……俺の荷物、あるかな?」
背負ってたリュクがあるならベストなんだけど。
流石に取り上げられてるかな?と思いながらも聞けば、首を横に振られた。
ま、そりゃそうか。
むしろ、1人隔離されずに子供達の部屋に放り込まれただけ御の字だ。探す手間が省けたんだから。
荷物を取られるのは想定内。
靴下を脱いでひっくり返すと二重になってた底を破く。
その中にはビニールに包まれた薄い金属片が幾つも入っていた。
紙くらいの薄さの1cm×0.5cmの小さな欠片。
それが今回の秘密兵器だ。
実はある人から教えられて子供達が道具で能力を封じられているのは予想がついていたんだ。
更に、その道具のサンプルすらあった為、外す為の対策が研究・開発されていた。
「手、出して」
少年の手にリストバンドの様にピッタリと嵌められた金属の腕輪。ソレの一見つなぎ目の様にしか見えない薄い隙間に金属片を差し込む。
すると。
カチリ、と微かな音の後、無粋な腕輪は2つに割れて少年の華奢な腕から落ちた。
「……外れた?」
余りのあっけなさに、少年が呆然とつぶやく。
自分達の能力を縛り、管理していた腕輪があまりにあっさりと取り除かれた事に驚くと言うより、目の前の現実が信じられなくて思考がついていかない。
……そんな感じ、だろうか。
一瞬の静寂の後、わっと歓声が上がり、子供達が自分も外してくれと詰め寄ってくる。
その目はさっきまでのなんの感情も映さないガラスの様なものとはうって変わり、キラキラと輝いていた。
嬉しさを感じつつ、次々と腕輪を外していく。
喜びはしゃぐ子供達。
ぴょんぴょんと飛び跳ねたり、中には宙に浮かんで宙返りしてみせる者までいた。
そんな中、自由になった手首をさすりつつ最初にあった少年が不思議そうに首を傾げているのが見えた。
「どうした?なんか変な所があるか?」
痛みでもあったのかと心配になって近寄ればそうじゃ無い、と首を横に振られた。
「こんなに騒いでるのに、誰も来ないから。普通なら、誰かが飛んで来て静かにする様に脅したりするのに」
心底不思議そうにしている少年に苦笑する。
「あぁ、それは「ゆぅ〜!!」
想定できる理由を話そうとした瞬間、腕の中に慣れた温もりが突然現れた。
反射で抱きしめたのは、満面の笑みのハル。
「ハルまで来ちゃったのか。だめじゃん、和海さん」
思わず呆れた様につぶやくのとほぼ同時に、格子窓のついた白い扉が開かれた。
「しょうがないだろ。泣き喚いて大変だったんだよ」
そこには疲れた様な笑顔の和海さんが立っていた。
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