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目が覚めたら真っ白い部屋に転がっていた。


「あ、起きた」

ヒョイっと少年が覗き込むとにっこりと笑う。

「ダメだよ、お兄さん。ズルして赤ちゃん逃しちゃうなんてさ。おかげで3番、任務失敗でお仕置き部屋行きになっちゃったよ?」


唇を尖らせ、まるでカードゲームのズルを咎めるような軽い口調だけど、なんか不穏な単語が無かったか?

お仕置き部屋ってなんだよ。


思わず眉間にシワが寄る。

体を起こそうとして、だけどめまいと共に再び撃沈する羽目になった。

「まだ、無理だよぅ。偶にね、合わなくて乗り物酔いみたいになっちゃう人が居るんだよ。お兄さん、それが酷かったみたい」


そろりと小さな手が額に当てられる。

子供の手にしてはひんやりと冷たく、ぐるぐると回っていた視界が少し落ち着いた気がした。

ソッと、その手を捕まえる。


「きみはひどい目に合わなかった?」

お仕置き部屋、なんて不穏な言葉に不安がつのる。

子供を無理にさらうような組織がまともなはず無い。


「………うん。僕は弱いから、下手にお仕置き部屋に入れられたら本当にダメになっちゃうし。死なれたら困るみたいで、滅多にひどい目には合わないんだ。ご飯抜かれるくらい?」


少し困ったように教えてくれる様子に胸が痛む。

子供に食事を抜くなんて、それだって充分ひどい行いだと思う。

俺が騙したせいで、ひどい目に合わせる事になったんだ。

「ごめんな」


謝り、少年の色素の薄い髪をそっと撫でれば、嬉しそうに目を細められた。

「ぼくね、ずっと見てたんだ。お兄さんと赤ちゃんの事。で、赤ちゃん、良いなぁって。ごめんなさい。本当はお兄さん、ここに連れてくる事無かったんだけど、僕が3番にワガママ言ったから」

しょんぼりと顔を俯ける。

「赤ちゃん、抱っこされてて気持ちよさそうで、それで、お兄さんにここに来て欲しくなったんだ」




少年の言葉に視線をゆっくりと巡らす。

真っ白な広い部屋。

そこにはバラバラに座り込んだり横になった少年と同じ年頃の子供達がいた。

皆、一様にガラスのような眼をして、ピクリとも動かない。

このくらいの子供が3人も集まれば、走り回って大騒ぎになってもおかしく無いのに。


閉じた世界。

おとなしすぎる子供達。

よく見れば皆、首や手に枷の様な物をつけられている。

そうして、目の前の少年は、今はいないもう1人の少年の事を『3番』と呼んでいた。


きっと攫われて道具の様に使われているんだろう。

逆らえば罰として痛みを与えられ、名前すら奪われて番号で呼ばれる。

それを、幼いがゆえに抵抗する手立てを見つける事すらできず、諦め、受け入れていくしかないんだ。




「お兄さん?」

少年が不思議そうに首を傾げる。

その姿が滲んで見える事で、ようやく自分が泣いている事に気付いた。

彼らが余りにも憐れで、彼らにそう強いているこの組織の奴らに腹がたって。


衝動的に起き上がると、目の前の少年をキツく抱きしめていた。

目眩が襲ってくるけど、そんな物に構ってられない。

『抱っこされていた赤ちゃん』が羨ましいといった彼は、そんな記憶も無いくらいに独りだったのか。

未だこんなに小さな子供を、抱きしめてくれる大人は誰も居なかったのか?!


突然の事に驚いて固まっていた少年が、おずおずと俺の背中に腕を回してしがみついてきた。最初はそっと。徐々に強くなる力に、愛おしさが湧き出てくる。


「……思った通りだ。……あったかくて良い気持ち」

少年の口から、小さな声。ウフフ、と幸せそうに笑う姿にまた涙が溢れそうになる。


と、トントンと誰かが腰の辺りをつついた。

振り返れば、小さな女の子がジッとこっちを見上げていた。

伺う様な視線に少年を抱きしめていた片手を解き、少女の頭を撫でる。


くしゃりと少女の顔が泣きそうに歪んだ後、勢いよく抱きついてきた。

受け止め、抱き寄せれば強い力でギュウギュウとしがみついてくる。


「マァ〜マァ〜」

小さな声で母を呼びすすり泣く。

その声に引き寄せられる様に、部屋の隅に転がったり座り込んだりしていた子供達が1人、また1人、と近づいてきた。


子供達だけの部屋の中、突然現れた大人(おれ)

忘れようとしていた抱擁(ぬくもり)にタガが外れたんだろう。


ぐずぐずと泣きながらもくっついてこようとする子供達に取り囲まれ、俺はこの子達をこんな目に合わせた奴らを絶対に殴ってやろうと心に誓っていた。

そうして、この子達を絶対に家族の元に帰してやろうと。


「無理だよ。あいつら強いもん。コレもあるし」

少年が顔を上げてつぶやく。

心の声に反応され、一瞬驚くけれど、ここにいる子達は『そういう子達』なんだと思い出す。


「お家、帰りたいよぅ」「ぼくも」「私だって……」

次々とつぶやかれる言葉は、だけど諦めを含んでいて、それが叶うなんてみんなコレッポチも信じていない事を伝えていた。

そこに、子供達の深い絶望を見て切なくなる。


「大丈夫。直ぐに助けはくるよ。そのために、お兄ちゃんはここに来たんだからね」

ニッコリと笑ってそう言えば、子供達の顔がキョトンとする。


「お兄ちゃんが、助けてくれるの?」

「そう。みんなの家族から、助けて欲しいって頼まれてて、ずっと探してたんだよ」

不思議そうな少女の頭を撫でながらそう言えば、少女の顔がまた泣きそうにくしゃりと歪む。


「嘘だよ。だってマリアが悪い子だからここに入れられたんだって。いらない子だから、誰も迎えに来ないんだって言ってたもん。お手紙書いたのにパパもママもずっと来てくれないもん」


少女の言葉に卑劣なやり口が透けて見えて怒りが湧いてくるけど、それを無理に押し込めニッコリと笑顔を向ける。

「それは、ここの人達が嘘をついてたんだ。パパ達にお手紙は届いてない。みんな、マリアちゃんが何処にいるのか分からなくて、迎えに来れなかったんだよ」


目を見てゆっくりとそう伝えれば、少女の目が驚いた様に見開かれる。

「ほんと?本当に?パパもママも、マリアの事嫌いになったんじゃ無いの?!」

「もちろん!2人ともとても心配してるよ。ずっとマリアちゃんを探してる」

俺は、自信を持って頷いて見せた。




だって、これは事実だから。




読んでくださり、ありがとうございました。

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