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て、訳で。
やってきました、遊園地。
山の斜面を削って作ったそこは幼児が楽しめるゆるい乗り物から大人も絶叫するハードなモノまで幅広く、秋晴れの日曜日とあってなかなかの賑わいを見せていた。
「高速使って正解だな。すごい人だ」
開園時間より少し前に着いたってのに、門のところには既に列ができていた。
これに並ぶのかと少しうんざりしたけど、優待券様々だ。入り口が別に設けられていた。
しかも、30分早く入場できたそうで、既に列はなくスルリと入れる。
「混む前に、人気あるの行っとくか?」
「新しい奴、乗りたい」
大成にふられ、思わず挙手して主張する。
まだ出来て一月立たないくらいだし、絶対人が並ぶに違いない。
「あ〜、あれなぁ」
「ユキって絶叫好き?」
微妙な顔の大成に、意外そうな顔の隆太。
「ひたすら連チャンで乗っても平気なくらい好き、だな」
あの、頂上までゆっくり登っていく時のドキドキ感がたまらない。後、重力から解放されたふわって感じもだ。
「前来た時は、フリーホールひたすら乗せられて吐くかと思った」
その時を思い出したのか、大成の顔色がいささか悪い。
「今回はハルいるし流石にそこまではしないよ。1回だけ」
両手を合わせれば、苦笑と共にみんなが頷き、ぞろぞろと歩き始める。
みんな考えることは一緒なのか、少ないはずの入場者が結構な数並んでた。
当然ながらハルは乗れないのでお留守番になる。
と、優成さんがさりげなく俺の手からベビーカーを受け取り列から外れた。
「俺が見ててやるから行ってこい。そこの木陰にいるから」
チョット迷ったけど、優成さんはあんまり絶叫系好きじゃ無かったのを思い出し、ありがたくハルを預かってもらうことにする。
「ハル〜、チョット行ってくるな〜」
手を振れば、笑顔で振り返してくれた。
並んでるって言っても一回分待てば直ぐに順番がやって来る。
ラッキー1番前だ。
3人揃って横並びに椅子に座る。
ちなみに今回乗ってるのは吊り下げ型のジェットコースター。つまり、足の下には何も無い。
安全バーを係りの人が確認して、ゆっくりとコースターが動き出した。
宙吊り状態で下を見ればダイレクトに地上が見える。
これはなかなか……。
下の方にハルと優成さんがいるのを見つけて手を振ってみれば、向こうも気づいていたらしく手をふり返された。
ドライブの時に仲良くなっているので、人見知りは発揮してないみたいだ。良かった。
無口同士、通じるものがあるんだろうか?
肩車して貰いご機嫌みたいだ。
ハルの成長が嬉しいような寂しいような……。
微妙な気持ちを味わっているうちに頂上に到着したみたいだ。
カタン、と一瞬の停車の後。
コースターが一気に降りだした。
後は慣性の法則のまま振り回されるだけだ。
「イヤッホゥ〜〜!!」
両手を離し、俺は存分にスピードを楽しんだ。
コースも半分くらいを過ぎた頃、それは起こった。
ガタンッと、激しい音と共に突然コースターが止まったのだ。
突然の停止に体が肩から胸にかけて降りていた安全バーに押し付けられ、息が詰まった。手を離していたせいで全ての重力を胸で受けてしまったのだ。
さっきまでの楽しそうな悲鳴とは別の苦痛の悲鳴があちこちから聞こえた。
胸を押さえつけられた反動で詰まった息は激しい咳き込みと共に戻って来る。
「只今機械トラブルによる停車が起こりました。直ちに点検致しますので、お客様は落ち着いてその場でお待ちください」
咳き込む耳が淡々としたアナウンスを捉える。
「大丈夫か?ユキ。大成も」
「な……なんとか」「おなじく」
隣から気遣う声に片手を挙げて応えると大成からも無事を伝える声が上がった。
「なんか初っ端からついてないなぁ」
足を宙にぶらぶらさせながらボヤく。
推定15メートル程の高さで椅子に座った状態で宙ぶらりん。高所恐怖症の人にはたまらんだろうなぁ。
……って、そもそもそんな人はコレに乗らない、か。
「貴重な体験って意味ではラッキーかも」
呑気な大成の言葉に肩の力が抜ける。
「お前なぁ……」
呆れたような顔の隆太に、なんだか笑ってしまった。
まぁ、どことなくほのぼの空気を醸し出していたのは最前列の俺たちだけで、後ろからはすすり泣く声や罵声が聞こえてくる。
こんな所で暴れたってしょうがないと思うんだけどなぁ。
ため息をつきそうになった時、脳裡に「ゆ〜」という声と共にハルがおいでおいでする姿が浮かんだ。
……これは、ハルが呼んでるんだろうな?
なんか、そろそろハルのする事に驚かなくなってきたぞ。
ハルならなんでもあり、みたいな。
(ハル。もうちょっと待ってな〜。これ動かなくなって戻れないんだよ)
そぅっと心の中で囁いてみる。聞こえてるといいなぁ。
一瞬後。
カタン、と音がして、ゆっくりとジェットコースターが動き出した。
「キャァー」と悲鳴が上がったが、ジョジョにスピードを上げたそれはなんの障りもなく残りの行程を走り抜けた。
ハルが動かしたのかな?
シューッ、ガタンッ!
滑らかな動作で停車するといつもの倍以上の職員が駆けつけて来て、一人一人に体調不良や怪我などの異常が無いか確認しながら安全バーを解除していく。
結局、停まっていたのは5分程度だったんでは無いだろうか?
希望者には休憩室の用意があるとのことだったけど、特に問題もなかった俺達は、速やかに退却した。
出口で一応、と、名前と住所を書かされる。今日のトラブル原因の詳細を書面で送ります、とのことだった。
「あ〜う〜」
ハルが優成さんの腕の中から両手を伸ばして抱っこを要求してくるのに答えてやる。
顔を覗き込み、頬ずりすれば、嬉しそうな笑い声が上がった。
「じゃ、次はハルの楽しいところに行こうか?」
スタートからハプニングに見舞われたけど、1日はまだ始まったばかりだ。
気を取り直していこう!
読んでくださり、ありがとうございました。




