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「遊園地行こうぜ!」
体育祭からしばらく経った日曜日、突然訪ねて来た大成が高らかに宣言した。
「いや、ハルのお守りあるし、無理」
足元にしがみつき威嚇しているハルを示しつつきっぱりと断ってみる。
姉夫婦はデートだそうで、昨日からハルをあずかってるのだ。
てか、仲良いよな〜。
「大丈夫だって!連れてけば良いじゃん。ハルだって、お外遊び行きたいよな?」
大成が、にこにことハルに誘いをかける。
あ、ハルが『お外』に反応した。
いそいそとリビングに向かい、帽子をかぶり、自分のオムツなんかが入ったデッカいバッグをズルズルと引きずって戻ってくる。
「あい!」
俺にバッグを差し出し、サァ、行くよ!と言わんばかりに玄関に座り込み足をパタパタさせた。
「おぉ、ハル、準備万端じゃん!」
小さな足に靴を履かせだした大成に、俺は諦めてため息をついた。
まぁ、ハルがその気になった時点で俺に勝ち目は無い。斜めに被られた帽子をちょいっと直してやると踵を返した。
「準備してくるから、ちょっと待ってろ」
「あい!」「お〜」
よいこのお返事を背に受けながら、俺は急いで準備をするべく中に入っていった。
「で、隆太は予想してたけど、優成さんまで居るんですね」
外に出れば、車にもたれるようにして長身の姿があった。
「足が必要だと引き込まれたんだ」
少し苦笑しつつトランクを開け、ベビーカーを乗せてくれた。
「チケット提供は隆太だよん。付き合いの広いご両親に感謝だな」
さっさと狭い後部座席へと自ら乗り込んで笑う大成にヒラヒラとチケットを見せられる。
車で1時間ほどの遊園地の1日後招待券でフリーパスまで付いているやつだった。
「凄いな。貰っても良いのか?」
「親と行くような年でも無いしな。ここならハルくんでも楽しめる遊具も多いし良いだろ?ただ、期限がヤバくて急な誘いで悪かったな」
ちょっと申し訳なさそうな笑顔の隆太に首と手を横に振ることで否定する。
「イヤイヤ。遊園地なんて久々だし誘ってくれて嬉しいよ」
小遣いで全てを賄っている高校生に取って遊園地は中々に高嶺の花なんだ。
あそこ、新しい絶叫マシンが入って、気になってたんだよな。
「時間も無いし、高速使うぞ。シートベルトしろよ」
優成さんの一声とともに、車は滑らかに発車した。
男だらけで更に赤ちゃん連れって、かなり浮く気はするんだけど……ま、良いか。
只チケットありなので文句は言うまい。
「楽しみだな〜、ハル」
「アッキャ〜!」
多分、訳分かってないんだろうけど、ハルがご機嫌な奇声をあげた。
まぁ、楽しい気分って伝染するよな〜。
「今、期間限定でミニ動物園も来てるみたいだから触りに行こうな、ハル」
背後から身を乗り出すようにして顔を出してきた大成にハルがコテンと首を傾げている。
動物園の意味が分かってないんだろうな〜。
「ぴょんぴょんやメーメーががいるんだよ。なでなでしに行こうな」
ハルにもわかるように言い直せば、ニッコリと笑顔が返ってくる。
「うっうっ」
手を頭にやって指をヒラヒラと動かしてるけど、手が短すぎて耳になってない。せいぜい奄美の黒ウサギだな。
可愛すぎる仕草に笑いが込み上げる。
「そうそう。ぴょんぴょんウサギだ」
笑いながらも同じように頭に手をやり耳を作って動かして見せれば、キャッキャッとはしゃいだ声が広がった。
カシャリとシャッターを切る音に顔を向ければ助手席から振り返るように隆太が写真を撮っていた。
「ほら、可愛い」
見せられた画像は、ハルと俺が顔を突き合わせうさ耳つくって笑っているところで。
「ハルはともかく、俺はフレームから切ってくれよ」
「良いじゃん、思いで、思い出」
子供っぽいところを証拠に残され思わず赤くなって抗議する俺を大成が背後からポンポンと肩を叩いて慰め(?)てくる。
「あ、後でそれちょうだい」
台無しだ。即効ねだるな。そして、なんでお前が欲しがるんだよ。
思わず胡乱な眼差しで眺めれば、笑顔でごまかされた。
いや、ごまかされないから。
そして、隆太。なんでそこで「わかった」と頷いてるんだ?
まぁ、1日の最後にチェックして都合悪いものは消せば良いか。
ハルの可愛い表情、しっかり撮っといてくれよな。
久しぶりの主人公と主要キャラ登場。
やっぱり幸人が、親バカ風味、です。




