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最初に『視た』のは、王様に言われたから。
小さな『赤ちゃん』が王様の『剣』かもしれないから、『能力』があるか見張れと言われたんだ。
見せられた写真のイメージを探して目を閉じる。
家の中の様子は、結界に阻まれて靄がかかったみたいになって見れなかったけど、そこから外に出てきた時にはなんとか『視る』ことが出来た。
小さな赤ちゃんは、いつでも誰かと一緒にいた。
大切そうに抱っこされ、たくさんの笑顔を向けられているみたいだった。
たいていの場合、若い女か男が一緒にいた。
資料からそれが『母親』と、『叔父』であることを知った。
「いいなぁ」
ポツリと声が漏れる。
どんなものを『視て』も揺らぐことのなかった心が『赤ちゃん』とその周辺を『視て』いると微かに動いた。
それはほんの少しだけ。
なんだか温かいような気持ちで、それを感じることはとても気持ちよかった。
だから、いつしか命令された時だけじゃなくこっそりと『視る』ようになっていた。
『母親』も好きだったけど『叔父』を『視る』方が好きだった。
だって、いつでも楽しそうに見えたから。
夏の日の水遊びやベビーカーでの散歩。
お出かけして疲れて眠ってしまった『赤ちゃん』を大事そうに抱っこしている様子。
いつでもその瞳は「大好き」だと『赤ちゃん』を見つめていたから。
屈託なく伸ばされた手を、彼は当然のように受け止める。
その姿はなんだかキラキラと光って見えた。
「いいなぁ、……僕も」
あんな風に抱っこしてもらったことなんてない。
あんな風に笑いかけてもらった事も。
甘やかすようにご飯を食べさせてもらったり、歌をうたってもらった事だってない。
それは、どんな気持ちなんだろう。
それは、どんな感触なんだろう。
僕の周りにいるのは、無表情でほとんど喋らない大人達。
『任務』に失敗した時は罰を。成功した時は、お菓子をくれる。
大人ってそんな存在だと思ってた。
真っ白い何もない広い部屋には僕と同じような子供達が何人かいるけど、勝手に喋ったり騒いだりすれば罰を与えられるからみんな静かで動かない。
僕も、『任務』の時以外は壁にもたれてボゥッとしていることが多い。
今日も、そうしていたら、外から帰ってきた子が、僕の隣にきてピッタリとくっついて座ってきた。
『なぁ。あいつらみせて』
触れ合ったところから思念が伝わってくる。
僕たちは普段は『能力』を使えないように制御の腕輪をつけられてるけど、最近では制御よりも『能力(ちから』の方が強くなったのか、少しなら腕輪を付けてても使えるんだ。
僕にくっついてきたのは、よく『任務』でパートナーを組む3番。
他の人が『赤ちゃん』達を見てどう思うのか知りたくて、1度こっそり『視せ』たらすっかり虜になってしまったみたいで、暇があればねだってくる。
今日はもう連れ出される予定もないから『視れ』無くなるまでちからを使っても大丈夫だろう。
僕達は目を閉じて眠ったふりをすると、夢よりも幸せな光景を見つめた。
『いいな、赤ちゃん』
『な、抱っこされるってどんなかな?』
『赤ちゃん、嬉しそうだし、きっととっても気持ちいいんだよ』
笑顔の2人になんだかやっぱり胸がうずうずしてくる。
『今度さ、ここに行くんだ』
『なんで?』
『誰に力があるのか確かめて来いって』
最初は対象は『赤ちゃん』だけだったんだけど、どれが本命かわからない大人達が周り中試してみることにしたらしい。
『そっかぁ、良いなぁ』
『お前も行くんじゃないかな?力があるか『視る』為に』
その声に驚いて顔を上げるのと同時に『視て』いた映像が乱れて消えた。
身体を虚脱感が襲う。
力切れだ。
『大丈夫か?』
3番から気遣うような思念が伝わってきて微かに頷いてから目を閉じる。
力切れしたから、もう、僕からは思念を飛ばせない。
『楽しみだな。ちゃんと俺が『跳んで』連れてってやるから、安心しろよ』
ウキウキとした思念に触れ合う肩を微かに押すことで返事をする。
『じゃ、おやすみ』
力切れを起こすと、体が怠くて眠たくなる。
経験からそれを知っている3番がもう寝ろ、と告げてくる。
もう1度肩を押して、僕は体の力を抜いた。
たちまち眠気が思考能力を奪っていく。
それに身を任せながら、最後に浮かぶのは幸せそうな笑顔。
夢の中でも会えると良いなぁ……。
読んでくださり、ありがとうございました。
ちょっと物語が動きます。
ほのぼの日常に早く戻れるように頑張ります。




