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よろしくお願いいたします。
なんだか、何処かに寄り道する気にもなれず、じゃあお弁当のお礼にしようと、大成がシュークリームを大量に買い込んで家に戻った。
「ただいま」
「あいっ!」
玄関を開ければ、満面の笑みを浮かべたハルが両手を広げて待っていた。
まぁ、ビデオの件もあるし、居るだろうとは思ってたけど。
「ヤッホー、ハル」
「あだだぅ!」
俺の後ろからひょっこり顔を出した大成にハルが威嚇している。
結構態度悪いが、実は以外と仲良いんだよな。仲良くケンカしてるネコとネズミみたいな感じというか。
ハル、本気で嫌だったら視線も合わせないと思うし。
「ゆ〜、ゆ〜!」
ボンヤリと立ち尽くしていたみたいで、足をペチペチと叩かれ我に帰る。
「あ〜、ごめん、ごめん。なんかボンヤリしてた」両手を上げて抱っこを主張しているハルの体を抱き上げてリビングに向かう。
「あにゃ?だだだぁう?あだだぁう」
と、ハルが変な顔で俺の髪をグチャグチャにかき乱し出した。
更には耳を引っ張り、穴に指を突っ込んでくる。
「何?ハル?どうした?」
いつにない行動に首をかしげながら、リビングのドアを開けた時、突然。
「いてっ!ハル?!」
首に噛まれた。
前歯部分上下4本 しか生えてないけれど、本気で歯を立てられたら穴があきそうだ。
「あきゃ〜!きゃうぅっ!」
興奮した様に大声で叫び、また齧り付こうとするハルを慌てて引き離す。
「あう!あうぅ。うっきゃぁ!」
腕を伸ばした状態で宙吊りにされ、ハルが不満そうな顔をする。
「そんな顔してもだめ!噛んだら痛いだろ?」
「どうしたんだい?」
机にノートパソコンを持ち出して何か作業をしていたらしい和海さんが、驚いた様に寄って来る。
「分かんないです。いきなりハルに噛み付かれて」
未だに不満そうに腕をバタバタ振っているハルと俺を交互に見て、和海さんがフッと目を細めた。
「……今日、いつもと違った事無かったかい?」
ハルを抱き取りながら聞かれ、首を傾げる。
今日は体育祭でいつもと違う事ばかりです、和海さん。
「歩いてたらフェンスが落ちてきました。後、ユキがうたた寝してた時、妙な痴漢に遭遇したみたいです」
後ろから大成が口を出してくる。
「あぁ、それかな?何か変な気配が残ってて、ハルはそれが気に入らないんだよ」
ちょっとゴメンね、と言うと和海さんが俺の頭から首筋、肩のあたりをスルリと撫でた。
そこは、教室で誰かに触られた跡だった。
触れるか触れないかのギリギリの位置を辿った和海さんの手に、さっきまでモヤモヤしていた何かが拭い去られる。
「あう!」
戻されたハルを抱き取ると、首筋にスリスリされた。
なんか、マーキングしてるネコみたいだ。
「なんかあったんですか?」
大成が興味津々な顔で和海さんに尋ねると、肩をすくめられた。
「たいしたモノじゃ無いよ。何か無いか探ろうとしてただけみたい。だけど、ウチの身内と知ってちょっかいかけたなら、お仕置きが必要、かな?」
………和海さん、なんか、笑顔が怖いです。
うっすらと笑みを浮かべたまま、リビングの外へ出て行く和海さんを思わず無言で見送る。携帯持ってたから、どこかに連絡するんだろう。
何処にかは突っ込まないでおこう。
「ハル〜、だからって噛むなよ。痛いだろ?」
未だスリスリしているハルにそう言って叱れば、チョットしょんぼりとした顔をされた。
「ちゃいちゃいちゃ〜」
おそらく赤くなっている場所を小さな手が撫でる。
ごめんなさいというように何度もなんども撫でてくるハルの仕草にほっこりとしていると、ほんのりとその部分が温かくなってきた。
摩擦熱?ととぼけた事を考えていると、大成が小さく声を上げた。
「すごいなハル。治ってる」
「ア〜」
大成の感心したような視線にハルがにっこりと笑った。
読んでくださりありがとうございました。
犬や猫って飼い主が他の犬猫を触ってきた後って敏感に反応しますよね〜。
ハルくんの行動はおそらくそんな感じ。




