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さて。
お約束の借り物競争が始まろうとしているわけだが。
なんだかイヤな予感がひしひしとする為、現在家族のテントへと逃亡中なんである。
だって、大成とか七瀬先輩とか参加してんだぜ?
絶対理由こじつけて引っ張り出される気がするんだよ。
体育祭に勝手なことして良いのか?
大丈夫。
ちゃんとグランドには居るわけだし、なんかあったら駆けつけられる距離だ。
まぁ、和海さん曰く、このテント他人から認識されにくくなってるらしいから、向こうから発見されることは無いだろう。
非常識万歳。
冷たい麦茶を飲んでる俺の膝の上には、しっかりハルが鎮座していたりする。
最近お気に入りの音楽がなる絵本を片手にご機嫌だ。
なんと小さいピアノまでついてるんだぜ。
最近の絵本って凄いよな〜。
幸せなら手を叩けだの足鳴らせだの、指示出してくる童謡に合わせてハルの体を動かしてやれば声をあげて笑って、もっとと強請ってくる。
こんだけ幼児と戯れてても誰も注目してこないんだから、お義兄さん様々だな。
てか、本当にあの人何者なんだろう。
大成が出るからとカメラを回している後ろ姿に眼をやると、視線を感じたのか振り返って手を振ってくる。
とりあえず、ハルの手を持って振り返せばにっこり笑ってカメラの方に戻っていった。
その姿は、どこにでもいる子煩悩なお父さんにしか見えない。
だけど、普通のお父さんはこんな怪しげな術は使わない、よなぁ。
よく見ないとわからないくらい薄いインクで、ハルの手の甲に書き込まれている不思議な模様をマジマジと眺める。
幾つかの図形とアルファベットで構成されたそれは、漫画とかで見る魔法陣っぽかった。
効果の程は、人の目から外れたこのテントが証明している。
だって、さっき同じクラスの奴らがすぐ目の前通ってたのに、声もかけずにスルーしてったんだぜ?
視界の中に入ってたはずなのに。
……けして、俺が嫌われてて無視されてるとかでは無い!
だって、俺たちの噂してたし。
応援団の殺陣カッコよかったな〜とかだけど。
「あにゃにゃぅ?」
どうも、考えに没頭して手が止まってたらしく、不思議そうな顔のハルに頬をペチペチと叩かれた。
「ゆ〜。あにゃななう〜。あっだだだぁ〜」
なにやら一生懸命喋っているが、最初の俺の名前以外ちんぷんかんぷんだ。
だけど、とりあえず可愛い。
「あ〜。大丈夫。元気だよ。次はどの歌にする?」
とりあえず、頭を撫でながら適当に返事すれば納得したのか再び前を向いて絵本を眺め出す。
「あっ!」
ピシッと出した小さな指で力強くボタンをおし、次の曲が流れ出す。
流れ出した童謡に体を揺らしてノリノリなハルを眺めてほっこりしてたら、目の前に人影が立った。
……にっこり笑顔の大成だった。
「ここにいると思った。潔く一緒に来てもらおうか」
「和海さ〜ん、見えてんじゃん」
思わず愚痴れば、「だって大成くんは幸人探してんだから当然じゃん。透明人間になる魔法じゃあるまいし」と、姉貴から呆れ顔で返された。
「ほら。ハル連れたままで良いから早く」
グイッと腕を引かれ立ち上がらせると、そのまま有無を言わさず動き出す。
「ちょっ、靴くらい履かせろ!」
慌ててスニーカーを引っ掛けたけど、踵まで押し込んでる余裕はなさそう。
諦めて踵を踏みつぶし、腕を引かれるまま走り出す。
「てか、お題なんだよ」
マジでハルを抱っこしたまんまなんだが。
走ってるスピード感が楽しいらしく、声出して笑ってるけど。
「10歳以下の幼児」
「それ、ハルだけで良いじゃん!」
俺、いらなく無いか?
返ってきた言葉に思わず叫べば、大成がニヤリと笑う。
「ハルだけ抱っこして走ったら、速攻逃げられるだろう。注目の中消える赤ちゃん、なんてことになっても良いならそうするけど」
あ〜、それはダメだ。
そして、確かに大成がハル連れて行こうとしたら、そんな未来しか見えないな。
「あっきゃう〜〜!!」
走る俺の腕の中でご機嫌ハルが雄叫びを上げた。
読んでくださり、ありがとうございました。
蛇足設定
認識阻害→.そこに居るのは分かるけど、注目されない。意識に残らない。
街中ですれ違う人をいちいち顔認識しない感じ。
隠匿→しっかり隠されてるため存在自体が見えなくなる。透明人間さん出来上がり。
テントにかけられてるのは認識阻害の方。
隠匿だと、通りすがりの方がガンガンテントを通過、及びぶつかられることになります。
よって、個人を強く想ってるとバッチリ見えたりします。




