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よろしくお願いします

「う〜ん。腹苦しくて動きたくねぇ」

「食い過ぎたよ、バァ〜カ」

自陣のテントに向かいながら呻いている大成に呆れた目を向けながらため息をついてやる。

午後一で動かなきゃいけないってのに、母さん達に勧められるまま、際限無くバクバク食ってたからな。


「だって、手作り弁当、美味かったんだもんよ」

唇尖らせたって可愛くないから。

それで腹抱える羽目になってたら意味ないだろ。

「保健委員のテントで消化剤貰ってこう。何もしないよりマシだろ」


唯の応援合戦と侮るなかれ。

なかなかアクロバティックな殺陣満載で、結構な運動量だ。

満腹状態でやったら絶対なんか出てくる。


「うぅ……。ユキの優しさが染みる」

「やっぱバカだろ、おまえ」

泣き真似しながら肩を組んでくる大成に笑いながら歩いていたら、視界の隅に何かが映った。

「危ない!避けろ!!」

それとほぼ同時に誰かの声が響き、反射的に大成を突き飛ばすように横に飛んだ。


倒れこんだ足先スレスレに何かが落ち、派手な音に少し遅れて土煙が上がった。

「イッテェ〜。何が起こったんだ?」

突然突き飛ばされ、半ば俺の下敷きになっていた大成がのそりと身体を起こす。

つられて体勢を起こした俺は、自分達目掛けて降ってきた物の正体を知って青くなった。


それは、屋上のフェンスの一部だった。

落下防止の為に貼られていたフェンスが丸っと1枚分。些かへしゃげた形で落ちている2×1.5メートル程の鉄製のそれは結構な重量がある。

しかも5階分の高さから落ちてきたとなれば、まともに当たればシャレにならないことになるのは確実だ。


「「……あっぶな!」」

異口同音の言葉は落下音に駆けつけてきた生徒や先生達の声でかき消された。

「大丈夫か?怪我は?!」

叫ぶような確認に体制と顔を魔合わせた後立ち上がる。

「大丈夫です。ギリギリで避けれたので。、倒れた時の擦り傷くらいです」

ペコリと頭をさげるとホッとしたような顔になった。

まぁ、体育祭の真っ最中に怪我人や死人はごめんこうむりたいよな。


「なんだってこんな物が。老朽化してたのか?」

改めて確認しながら首を傾げている先生は取り敢えず現状維持のみして、原因究明は後回しにする事にしたらしい。

人が触らないようにロープを張りながら、野次馬で集まってきた生徒を解散させている。


「2人とも、一応保健の先生のところで見てもらってこい。後で話し聞くことがあるかもしれんから、その時はよろしくな」

そんな言葉と共に解放され、大成と再び顔を見合わせた。


「って、言われてもなぁ。話す事なんてないと思うんだけど」

「だな。歩いてたら落ちてきたってだけだし……」

もともと向かう予定だったし、素直に救護テントへと向かいつつも、なんだか釈然としない気分だ。


ふっと、視線を感じた気がして後ろを振り向く。

屋上に目をやれば、ポカリとフェンスに空いている空間が見えた。

「まぁ、当たんなくて良かったよ」

胸のモヤモヤを吐き出すように口に出す。

唐突にグイッと肩を抱き寄せられた。


「助けてくれてありがとな」

ニカッと至近距離で笑う大成の顔になんだか照れくさくて、腕を振りほどくとたどり着いた救護テントへと大成を蹴り込んだ。


「せんせい。患者連れてきました!」

「はい。この紙に名前とクラスと書いてね」

危ないだろ!と騒ぐ大成を無視して、擦りむいた部分を消毒してもらい、最初の予定通り胃薬も貰ってテントを出た。


「ヤッバイ。集合時間過ぎてんじゃん!」

大成の言葉に慌てて走り出す。

着替えてたらギリギリ演技の時間に間に合うか?最終打ち合わせは聞く暇なさそう。

「七瀬先輩からの説教確実だな。逃げんなよ、大成」

嫌そうな顔してるけど、俺だってイヤだし、1人で説教聞くのもゴメンだ。


2人してギャァギャァ騒ぎながら着替える頃には、モヤモヤしてた気持ちなんて吹き飛んでいた。




応援合戦の演舞時間は1組15分。

演舞の完成度、工夫、どれだけ統制がとれていたか、見学者の反応、などから点数が付けられる。

けど、実際点数は一律で対局に変化は無いのだが、予算は1番取られている。

まぁ、見た目華やかだし要するに客寄せパンダ的な物だ。

実際、これを楽しみに来ている見学者も多いらしい。


で、我が青組は何かというと太極拳をモチーフに作られた中華風な物だ。

ゆっくりジャン、と侮ることなかれ。

アレ、かなり筋肉使うんだぜ?

勿論、それだけじゃつまらんってことで、スピードアップさせて緩急つけてるけど。

あの一連の動き、スピード速くすると、普通に組手っぽくなるんだよ。


服装は光沢のある青系の記事でチャイナ服っぽい物。

ちゃんと一人一人の体型に合わせて作ってあるため、体に沿っているのに動きやすい。

しかも、微妙にデザインや小物が違ってるんだから、芸が細かい。

2日前に手渡された時は、コレに負けないような演技をしよう!とみんなテンション上がったもんな。


ちなみに俺のは紺に龍のモチーフがつき、裾が長く小物で付け毛が付いている。

大成は薄い青で同じく龍で裾が短いタイプ。で、小物は眼帯。

チャイナ風の刀を持っている姿はどこか山賊の様だ。

隆太は、ラメの青にフリンジがつき、なぜか細い銀縁眼鏡付き。大成が「腹黒眼鏡」って笑って殴られてた。


「徹夜して仕上げてくれた衣装部隊に恥じない様に真面目にやれよ!」

待機場に滑り込んだ俺たちの耳に、七瀬先輩の声が飛び込んできた。

どうにか間に合ったみたいだ。


ホッとしていると、前に立つ七瀬先輩がチラッとこっちを見た。

はい、あの目は説教確定ですね。

てか、説教だけで終わると良いなぁ。

遠くに飛びそうな意識を、どうにか引き戻すとキュッと唇を噛み気合いを入れる。


裁縫なんてロクにしたこと無い俺でも、この衣装1枚作るのにすごい苦労がされていることは何となく分かる。

七瀬先輩の言う通りだ。

頑張ろう。


紅組の演舞が始まったのを横目で見ながら、頭の中で段取りをおさらいしておく。

紅組は和風で攻めてた。

見たいけど、自分のやる事が吹き飛びそうなんで我慢。

和海さんのビデオを楽しみにしとこう。

そんな事を思っているうちに、紅組の最後の声が響き演技が終了した。


「青組〜〜準備!!」

「「「「おう!!!!」」」

七瀬先輩の声でグランドに走り出す。


さあ、本番だ!


読んでくださりありがとうございました。

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