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櫻咲く  作者: 林崎 ゆみ
Prison
5/11

005  Past Classmate

 “幻童家”とは。

 古くから能力者を輩出し、主に(まやかし)系の能力を操る家系であり、家名もそれが由来している。幻術(げんじゅつ)とは脳に直接作用する能力であり、その気になれば頭をイジる事も可能とされる恐ろしい術である。出来る者は希であるが。そしてそのような事が出来る者は〈記憶消去〉や〈記憶混入〉などが可能であり、政府の失態の取り消し消滅消去を主な仕事としていた。

 この能力の()()()()()は特に無いとされるが強いて言えば何故か()()発生する事は無い能力となっており、代々女しかこの能力を使用できないとされている。

 故に昔は女は大事にされたが、今は昔ほどその様な〈記憶混入〉や〈記憶消去〉などは求められておらず、むしろ戦う武器の方が求められるため、幻童家の地位は危うくなっているのが現実である。

 そしてそんな力を求める政府が生み出した学校こそが国立息吹野高校である。特殊な能力を持つ者を政府が管理する為の学校であり、その学校を卒業した生徒は将来を約束されたも同然とされている。

 しかし、その学校の裏の名……又の名を〈監獄〉である。例外が居るとはいえ、どんなに拒絶してもその学校は寮暮らしが義務づけられており、家族との連絡もほぼ皆無に等しいぐらい制限されている。

 家族と喋りたければ、放したければ政府の番犬になる様な事をしなくてはならない為、そこに通う生徒からは口々に「監獄」と言う言葉が口にされるのである。



「ほら、灯。 さっきまでは小さく見えていたのにもうあんなに大きく見えるよ!」

「…………そうだな」

(………なんか灯…… 何時もよりも素っ気無い…)



 優の中で灯が素っ気無いのはまぁ当たり前と言う様な物だった。人のいない所、部屋や家なんかでは甘えん坊であるのだが外や学校なのではあまり会話を弾ませない。

 それでも、さりげない気遣いは紳士を思わせるし。何かを話せば軽く頷くか軽い口答えが帰って来る。何時もより素っ気無いと言ってもこういう時もあるだろうと優は自分の中で勝手な結論を出して納得させた。



「どんな人たちが居るんだろ? 楽しみだね! 灯っ」

「………そうだな」



 軽い間ののち、灯は軽く柔らかく笑って頷いた。

 灯がこういう場所で笑うと言うのは滅多に無い。人がいないとは言え、このようにふわりと笑う場合は皆無と言うか極希なのだ。



祖父母(クソども)が選んだ高校……)



 優が入る気満々だから入ったが、やはり気に入らないと言う部分もある。灯は軽く眼を細めた…。



(別名、“監獄”……能力者を監視する為の学校(システム)… 酷な場所に何も知らずに入学させるとはな……)



 だから恐らく、人数も少ないだろう。これが幸運かはたまた不運なのか…。



(決めるのは…)



 自分達自身―――……。






◆ ◆ ◆






 学校の敷地に入ればガヤガヤと軽い声が聞こえて来た。時計を見てもまだ登校時刻ギリギリと言う訳では無い。

 灯は取りあえず、優を乗せたまま自転車置き場に自転車を止める。まぁ、自分達の自転車しか無いのだが。



「楽しみだね、灯」



 何度も何度も聞かされたような話であるが、灯は静かに頷いた。返事をする気力がなくなったと言う訳では無いのだが、何と言うか…あまり声を出したくないのだ。



「クラスメイトかぁ~ どんな人たちなんだろ?」



 ギュッと鞄の持ち手を握る優。口元が緩んで軽くにやけてしまっているのがちょいと残念だ。




 クラスの表を見て優は少しだけ驚いた様に眼を丸くした。予測してた灯は無表情だったのだが、何となく嫌な予感がするのは気のせいでは無いハズだ。

 そして、学校内を歩く二人……。












「それにしても、ココにはどんな人たちが居るのかな? あ、そう言えばマシロ君もこの高校だって言ってたよ」

「なに……!?」



 その言葉に眼を大きく開き、反応する灯。

 真白と言えば、あの真白しか思い浮かばなかった。



「真白って… 氷燕真白(ヒョウエンましろ)か!!?」

「う、うん…… そーだよ…」



 ふと思い返してみれば、中学卒業の時何故か気分がよさそうだった。 イヤ、かなり浮かれていた。

 二学期くらいには「優ちゃんと離れちゃう―」と泣きわめいて優の膝の上に飛び込もうとした変体が…!!



(うかつだった……!)



 頭の上に重たい石が乗っかった気がした。

 この高校は少なからず頭のいい高校だ。 一般入手はまず落ちるに決まっている。

 しかし、あの真白でさえ一応は能力者なのだ。 入りたいと言えば政府が喜んで入れてくれるだろう。 マジで迂闊だった…!!



(こんな事なら、受験前に調べとくんだった……!!)



 おかしいとは思っていたんだ。 性格はともかく、成績が上々の灯に推薦が来るのはまぁ、ソコはあるかなとは思っていたからいいんだ。 しかし!!

 優には悪いのだが、あれだけ頭が悪い… 下の中ぐらいに頭が悪い優に推薦が来るとは思っていない。 成績態度が良くても、来るなんて思わない。 しかも、それが同じ高校と来た!! 作文と面接だけでいいと来た!!



(絶対何か裏があるって思うハズだろうがぁあああああ!!)



 絶対に黒幕は祖父(クソジジイ)祖母(クソババア)に決まっていやがる。

 自分の失態に頭を抱えつつも、このまま引き返すと言うのは赦されない。 優に行ってしまったのだ、行くって。



「マシロ君、元気かなぁ~?」



 元気に決まってるだろーが! 灯は内心突っ込みしつつ、ちょいと回想を入れた。

 氷燕真白と言えば、優のストーカーだったハズだ。(灯の中では)

 何か外人とのクオーターらしいんで、クラスの女子から一応モテていたが優以下だったハズだ。 (アレ)はハーレム体質だからな。

 元気か聞くもなにも、あの真白(バカ)に元気かと言う労いの言葉をかける事さえ、間違っているのだ。 あのバカに体力ゲージと言う物は無く、そして何より中学の裏のあだ名が―――――― “腹黒”と来た。

 下の名前が“真白”なのに対して、このあだ名は正反対だなと軽い気持ちで思っていた頃もあった。

 たしかあれは――――――中学の初めの頃――――――。




























◇ ◇ ◇









「初めまして、ボクの名前は氷燕真白。 気安く真白って呼んでいいから… えっと――― 幻童さん」

「あ、初めまして。 マシロ君。 私の名前は、幻童優って言います」



 親切に頭を軽く下げる優。

 真白と名乗る男は、どう見ても外人との混血らしく髪は老人の様に白髪だ。 彼曰く、産まれつきらしいのだが、案外コンプレックスらしい。 瞳は深い(ブルー)



「白い髪? あぁ、ちょっとぶ…」

「綺麗!」

「へ…?」

「白い髪でしょ? 漫画とかでよくあるじゃん!! とっても綺麗だよ!! 初めて見た!」



 キラキラした様な眼で見る優。

 優は案外、珍しい物に眼が無く、買うとか自分の物にしたいとかそんなんじゃ無くて、ただ単に傍にあるのならば遠慮がちに見るだけなのだ。

 キラキラと眼を輝かせて、でもちゃんと相手の気持ちを考えて行動をしている己の姉を遠目で見る灯。 運悪く、優との席がかなり離れてしまった。 席替えした担任を何度焼き殺そうかと思った事か…。 実行しようとした際に優に止められてしまったが……。 何故かこういう所の勘だけは鋭い姉なのだ…。



「そ、そうかな… あ、ありがとう…」



 ポリポリと恥ずかしそうに頬を描く彼を見て、周りの女子が騒めいた。



「見て見て、まーたサトちゃんが落としたのかも!」

「言えてる―。 サトルちゃんって名前のわりには可愛いもんね!」

「そうそう、本人は自分は皆以下だって言ってるんだけど… でも、あの背丈――― やっぱり、お人形みたい……!」



 着物と長髪のカツラでも付ければ完璧なリアル日本人形になりかねないと思ってしまう灯。

 まぁ、優が似合うならば何でもいいのだが、それでもお持ち帰りされそうな格好は断じて却下なのは事実だ。

 周りの女子は優に対して嫉妬を抱くどころか応援する始末だ。 主に男の方を。

 優が誰かに対して恋心を抱く事は無く、「誰が好き?」と女子が聞いても即答でこう帰って来る。



「あかり!」



 嬉しい事なのだが、それは絶対性的に見てでは無く、感覚的に見てなのだろう。

 優にとっては灯がずっと居た大切な家族。 だから好きと言う一般的な幼稚園児の方程式が成り立っている。

 それでも、嬉しい事に変わりはないのだがあの真白と言う男。 優に軽くノックアウトで惚れてしまったらしく、次の日から優に言い寄って来るようになったのだ。



「あ、サトルちゃーん! 今日一緒にお昼、どう?」

「キャ―――――ッ!」


「あ…… はいっ。 髪にゴミが付いてたよ」

「ありがと、マシロ君」

「キャ―――――ッ!」


「重たいでしょ? それぐらい、持ってあげるよ」

「え、あぁ… 悪いよ…」

「いいのいいの、サトルちゃんは女の子なんだからさ」

「でも……」

「どうしてもって言うんなら、キスのお礼でチャ……」

「優。 先生に呼ばれた、行くぞ」

「あ、灯!?」



 何処ぞで甘い空気漂わせて。 優は気づいていないが。 周りの女子はトキめいて… 護衛が無意味になって……。

 流石に我慢できなくなった。 と言うかキスのお礼ってそれは恋人なんかがするもんだろ!と頭の中でブツブツと怒りつつも灯は優の手を取って腕の中に優をすっぽりと入れてしまったのだ。



「何かな? アカリ君」

「何かな? 紳士ズラすんのもいい加減疲れたんじゃねーのか? クソ野郎」

「クソ野郎とは心外だな。 僕にはマシロって言う名前があるんだ」

「テメーにはクソ野郎でじゅーぶんだ。 黙って見ていりゃ調子に乗りやがって」

「黙って見ていた? アレがかい? 殺気だって今にも殴りかかって来そうだった。 アレがかい?」

「殺気立ってただと? だったらオレの本気の殺気でも受けてみやがるかぁ?」



 バジバジッと二人の間に電流が走った。

 中央で線香花火がはじける中、優がそれをとある一言で収めてしまう。



「マシロ君。 悪いんだけど、先生に呼ばれたみたいだからそのプリントはお願いしていいかな?」

「ん? あ、あぁ… 任せてよ、ユウちゃん」

「ユウ……?」

「そ、『優』(サトル)って言う字は『優』(ユウ)っても読めるでしょ? だから、ユウちゃん」

「ん――― まぁ、あだ名見たいな物だよね。 いいよ、ユウでも」

「それは良かった」



 へらりと笑った真白に笑い返す優。 そんなちょっと甘い雰囲気を気に食わないと黒い殺気を漂わせる人物が居た。 そう―――――灯だ。

 彼は優の双子の弟でシスコンと言われてもいいほどの姉が大好きなちょっと変人扱いされてもおかしくないほどのシスコン、優を狙う者からすれば『優の犬』と言うあだ名で通っている。

 『優の犬』と言うのは、その名の通り優にへばりつく邪魔な虫を取り除く番犬のごとくべったりと傍に居るまさに犬である。



「行くよ、灯」

「…分かった」



 サトルに声をかけられ、灯は瞬時に殺気を仕舞い込み優の傍に立つ。

 背丈の差もかなりあり、尚且つどちらも美形であり、顔もかなり似ていいない。 その為、知らない物が見れば仲うつましいカップルの様にも見えた。



「あ、サトちゃーん! ちょっといい?」

「あ、(かおる)先輩! どうしたんですか?」



 優に薫先輩と呼ばれた女。

 彼女の名は霧野薫(きりのかおる)。 優の一個上の灯にとっても先輩にあたる人物であり、優を愛でる会の会長を務めている。

 因みに『優を愛でる会』と言うのはその名の通り、優を愛でる会である。何をしているかは灯の中ではイマイチ良く分かっておらず、会の行う事もイマイチピンと来るもの、灯の中で警戒心を逆立てする物は今の所無かった。



「実はね― 今日のお昼、ちょっとまた撫でさせて」



 ピクリと灯の耳が動いた。 殺気をジワリとにじませるが、そこで灯は殺気を仕舞い込もうとする。

 相手は先輩であり、尚且つ今は女だ。性別転換などしてないから優に対して危険は無いし、何よりも女に囲まれていれば優の安全は確実と言える。

 灯はその事を頭では分かっている為、殺気を無理矢理仕舞い込もうとする。



「? 別にいいですけど―――わたしなんか撫でてもご利益なんてありませんよ」



 薫の言葉に不思議そうに首を傾げて問いかける優。しかし、薫は驚いた様子で軽く優を叱りつける様に迫る。



「何を言ってるの?! あるに決まってるでしょう?!! もうっ、こんなんだからサトちゃんは何時まで経っても男の子を捕獲(ゲット)する事が出来ないのよ!」

「げ、ゲット……? わたしには灯が居ますし―――」



 薫の摩訶不思議な言葉に疑問符を大量に浮かべる優。彼女はある意味恋に対しては鈍感な方で告白されてもお馴染みの「何処に付き合えばいい?」と言う感じで終わらせてしまう方なのだ。そして、「恋愛対象です!」と相手が告げたとしてもタダの嘘だと思ってしまい、相手にしないと言うある意味タチが悪い()なのだ。 



「ちーがーいーまーす! お付き合いの方よ! でもまぁ…… あ、サトちゃん」

「は、はい?」



 そんな優にカツを入れる薫。優は顔はいいし家事全般も出来る為、いいお嫁さんに慣れると思っている。しかし、鈍感であるが故に女の子の夜のお話の定番と言える「恋バナ」が出来なくなっているのだ。薫としては、優は何処にも往ってほしくないのだが、恋バナはしたいと思っている為、ある意味中間地点をウロウロとしている様な物なのだ。



「いい事? 誰かと付き合う事となったまず最初にアタシに報告するのよ! あ、アカリちゃんの次でもいいわ」

「誰がアカリちゃんだ」



 そして何故か付き合った後についての事になっている。因みに「アカリちゃん」とは灯の名前がどうしても女の子らしい為、前にその名前を吹っ掛けた時に男子生徒が「アカリちゃんかぁ~」と言ったのがきっかけだ。今では灯をからかう為に使う他、喧嘩を売りに来る命知らずな連中が使って来る言葉であり、当の本人である灯もちゃん付けは気に入っておらず、嫌な顔で拒絶している。



「貴方の事よ? 幻童灯」

「フルネーム呼びする気ならば最初からちゃんを付けるな」



 灯の突っ込みに不思議そうに告げる薫。手の平を返したようにクスクスと笑う彼女。完璧に灯が遊ばれている。



「いいじゃないの、あなたあだ名は女帝だし、髪も伸ばしてるし… 女装すればきっと立派な女の子に慣れるわ!」

「誰が女などになるかっ!!」



 ニッコリ。と笑顔で笑う薫。ココで頷けば完璧に女装させられると分かっている灯は男の意地としても流されない様にしながらも突っ込みを入れる。



「でも、サトちゃんと一緒にお風呂入れるわよ? 胡散臭いい男湯になんて入らなくても済むし―――」

「胡散臭くて悪かったな」

「でもまぁ、灯ちゃんもサトちゃんの前では丸くなるしね―」



 無性に今、この先輩を殴りたかった。優に怒られるのは嫌だが、それでも殴りたいと言う気持ちは変わらぬ気がしてならない。

 ふるふると握り拳を作り、歯を噛みしめて必死に殴らない様に努力する。だが、それでも周りから見れば今にも灯が薫を殴りかかりそうでひやひやとした状況だった。



「あれ?サトちゃん、何処だ?」

「…………」



 不意に腕の中を見れば確かに優の姿が見えない。静かに拳を下ろした灯は辺りを見渡す。そして、一点の方向でとある人影を見つけた。

 そこに居たのは二人の男女の人影。ニッコリと笑いながら話し合っており、とても仲が良さげでたまに男の方が女の方にちょっかいを吹っ掛けており、女の方は笑いながらも避けたりしていた。タダの男女の光景ならばいい。別にリア充を見ても特に何も思わないのが灯だ。しかし、しかし、あの光景は流石に堪忍袋の緒が速攻で切れた。



(あらら…)



 灯が見ている方向に何があるのか気付いた薫。その先に居たのは真白と優で仲良さげに話し合っている。話している内容は能力を使わくとも見当はつく。大方、下らない世間話でもしているのだろうと思われた。

 しかし、たまに話の流れ的にか、大胆な行動に出ている真白に灯はマジで嫉妬しているのだ。殺気が込み上げており、一般人も居るというのに彼が持つ能力が滲み出ている。



「こら、灯。イラつくな、とは言わないから()()は止めなさい」



 薫の言葉でようやく己が何をしようとしていたのか気付く。舌打ちを打ちつつも渋々と言った様に灯は己の能力を仕舞い込んだ。優と一緒に居れば漏れ出す事は無いのだが、感情が高ぶると嫌でも出てしまうのが灯の変な癖だ。だから怒らせればそれ相当の力が帰って来る。それを知る者達はなるべく灯を怒らせない様にしている。まぁ、優が居る時に近づけば問題ない為、彼女の事は不必要(きらい)でも安全性を考えれば安い物だ。



「……悪かった」



 確かに一般人の前で能力を使うのはマズい。止めてくれた薫に感謝しつつも、灯は急いで優の元へ向かい、抱きしめる。いい所を邪魔すんな、と言う様な眼を真白に向けられた為か彼等の仲はとてつもなく悪い物になっていた。見た目は似ているのだが、性格だけはどうも似ていないらしい。






◇ ◇ ◇






「今思うと懐かしいね~灯」



 クスクスと笑いながらも告げる優。まぁ、確かに懐かしい話だった。しかし、同じ高校に真白(ヤツ)が居るのならば話は別。クスクスと思い出し笑いをする優。そんな優とは裏腹に、灯からは燃えたぎる闘志の様なモノが見えていた。

 幸いな事に、それに気づいているモノは居ない。そして、灯は心の中で誓う。



(幸いにもあの学園は()()()()()()()()を扱ってる。アイツをぶっ殺す(たたきのめす)事も十分可能だな)



 心の中で物騒な事を考える灯。しかし、これも全て愛すべき姉の為。小さく笑みを浮かべた。バチリ、と灯の手から小さくまた電流が走る。しかし、それに気づく者は居なかった――…。



「楽しみだね、高校生活!」

「あぁ、楽しみだな」



 優の笑顔につられて笑った灯。色んな意味で―――楽しみだ。

 そんな事を考えているとも知らず、優は気分ルンルンのままで高校に足を踏み入れた。











「何も変わらない。何も変わらない。変わる事の無い日常。」






 とある場所で、また、あの人が笑った。






「実に滑稽な話ですね!そんなモノは存在するハズの無いのに!」






 そう言うのはお馴染みの“中立者”と名乗る存在。

 ケラケラと笑いながらも全てを“見”ていた。






「彼女だって平凡を望んだ。しかし、それは叶わない。平凡って言うのはそれを願う者ほど、得られない物なのさ」






 平凡何て人其々。考え方の違いでいくらでも産まれるモノ。

 だから、平凡何て存在しないんだ。その中の日々がその人の平凡。

 その人の毎日が、その人にとっての平凡な毎日。何かが変わればそれは平凡とは言わない平和では無い日々。






「あの娘は足を踏み入れた。彼女――…あぁ、もうこんな時間。毎週欠かさず見てるドラマを見なきゃ~!」






 とってとって。と歩く中立者、最後にニッコリと笑う。






「息吹野高校、通称監獄。“能力者”が集められ政府に“監視”される為の学校。その学校では全てが彼等の意のまま、何を思い、願ったとしても…全ては彼等の手の中に在る。ではでは~また、次回まで……お楽しみくださいませ~☆」






 ケラケラと笑う中立者。

 大きく見える美しい碧眼は静かに閉じられた。












 もしもあの日、あの場所に居なければ。

 もしもあの日、あの場所に往かなければ。

 もしもあの日、貴方に出会わなければ。



 普通に楽しい、平凡な毎日だったのかもしれない。



 誰も悲しまず、誰も苦しまず、誰も泣かない。



 そんな日々だったのかもしれない。



 学校の日々の中、とある隔離されたような場所の中で、彼等は一体何を思うのか。



 もしもあの日、貴方に会わなければ。

 もしもあの日、貴方に告げなければ。

 もしもあの日、あの場所に居なければ。

 もしもあの時、私が断っていれば。



 貴方には、出会わなかった。

 出会う事は、無かったでしょう―――…。

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