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櫻咲く  作者: 林崎 ゆみ
Prison
4/11

004  Sakura in full bloom

桜が舞う…。

薄紅色の華が舞う…。

綺麗なんだけれど、それが酷く脆く思えた…。

母が昔、この華について、何かを言っていた…。



何だったかな………?

忘れて、しまった――――――――……





 祖父母の相手を終えた灯はふらふらとした足取りで玄関に向かった。玄関には学校へ行く準備を全て終えた優が灯を見てにこやかに微笑んだ。



「灯、お帰り!」

「ただいま……」



 たかが家の中の祖父母にあっただけだと言うのに、この疲労感は一体何なのだろうか?ぽふっと優の肩に軽く体重をかけた灯。優は少しだけよろけて後ろに行ってしまい、背中にある壁により支えられた。世の中で言う壁ドンである。



「あ、あかり……?」



 普段と様子が少しだけおかしい弟を心配してか、優は不思議そうに首を傾げる。「何でもない」と言いたいのに、声は出なくなった灯は「――――――」と声の無い声と出し、唇を噛みしめた。



(体は、拒絶してる訳か…)



 疲れただけだ。祖父母と話して、少し脅しに力を使って……。



「優……」



 弱弱しい声で言う灯。不思議そうに眼を丸くして優は黙ってそれを受け入れる。



「もう少しだけ、このまま―――」



 登校時刻までは残り四十五分ほど。このまま家を出ても、少しぐらい大丈夫だろう……。



「分かってる。灯の好きなように、すればいい……」



 自分よりも小さな背が、大きな背を優しく包み込んだ。それが非常に居心地が良くて―――灯は全てを忘れた様に、瞼を落した――――……。








「灯―、ほらほら! 自転車出して― 鞄は持ったからさ!」



 玄関が開いており、その先には笑顔で二つの鞄を持つ優。

 愛しい姉の姿に灯は軽く笑み、少しだけ機嫌を戻してポケットからキーを引っ張り出す。



「今行く」



 優に対してしか見せない。 灯のその笑顔――――――…。











◆ ◆ ◆











 しばらく立てば、灯は満足した様に優から顔を放した。



「もういいの? 灯」



 恐らく自分がもう少し長く触れていたのでは無いかと予測していた姉は心配そうに首を傾げる。まだ触れていたいと言う衝動に駆られながらも、灯はゆっくりと震えながら頷いた。何度も言うが、もしももっと触れていていいならずっと触れていたいのだが、そろそろ行かないと遅刻してしまう。

 こんな日ばかりが学校でしかも登校時間と言うのが何ともムカツク…だが、イラツキを見せない様に灯は静かに離れて鞄を軽く持つ。



「行くぞ、優」



 甘えん坊な弟はこれで終いだ。学校では、甘えたくても、甘えられないから…。



「うん、行こうか。灯」



 柔らかく微笑む姉を見て、やはり(きょう)も思う。

―――俺の帰るべき“家”は優の元(ココ)だと……教えられる…。





 自転車を車庫から引っ張り出し、傍に居た優の鞄をひったくる様に持ち、籠の中に乱暴に入れ込む。ヘルメットはめんどくさいからしない。だから安全運転で行く。



「乗れ、優」

「うん」



 無愛想に自転車の尻の方を向けて来る灯。ヒョイッと手馴れている優は軽く登り灯の肩に手を置く。



「いいよ、灯。安全運転でよろしく」

「……坂の所は座れよ?」

「分かってるって」



 そう言えば灯は軽くペダルを踏んで漕ぎ出す…。シャーッと流れるタイヤの音が少しだけ懐かしくて、優は眼を瞑った。











◆ ◆ ◆











 国立息吹野高校。これが息吹野高校の正式名称だ。正式名称はあまり知られていないと言うか、知る人を知る、超名門校なのだが…。



「でも、どうして私なんかが入学できたんだろうね、灯」

「…………さぁな」



 シャーッと平地をチャリで滑りつつも灯が思った事はたった一つだけ。

 その一つが実に現実的である為何も言えないのだ。



(優が受かったって事は…絶対仕組んでただろ……)



 家に帰ってから優に聞いた問題は自分と一緒だったから分からなかったが、一緒に受けて受からなかった委員長系のがり勉野郎が優に滅茶苦茶文句を言って退場となっていた。

 何故自分は勉強をバリバリしたのにしていない此奴が受かったのか!と学校に抗議したのだが、ハッキリ言って優は何も悪くない。何も知らないのだから。

 まぁ、優の耳に届く前に根源を灯が潰して根絶やしにしたのだが誰かの口からぽろりとでてしまうかもしれない。いっそ記憶でも改ざんする言う手もあるが…それはかなりめんどくさい為、止めて置いた。しかし、いざと言う時はそれにしようと軽く頭の中で頷く。



「不思議だよね~九九何かが書いてあったりして」



 その言葉を聞いて灯は思わず急ブレーキをかけた。キキキーッと言う甲高い音が聞こえ、そして優は不意打ちをしてしまった為か軽くぶれ、灯に思わず抱き着いてしまう形になる。



「優、何であの時言わなかったんだ…?」

「え、あ…違う、違うの灯! 面接あったでしょ? あの時に軽く九九の問題解かされて…」

「俺の時は漢文だったが…」



 ランダムでやっているのか…それともあの場で名前を見て合格者不合格者を決めているのかもしれない…うかつだった…!

 アレではどれだけ頑張ろうが、あのがり勉野郎が合格できる確率は皆無だ。優以下だ!ぷるぷると肩を震わせ、灯は家に居るであろう祖父母を軽く怨んだ。



「だが、入学してしまった物は仕方が無い…」



 遠目で言う灯に優はマジで首傾げ。

 何でも無いと言う様にそっぽを向いて自転車をこぎ始めれば優は何も言わずに眼を細めた。



「なぁ、優」



 少しだけ時間が経ったのち、灯は不意に話を切り出した。「なに?」と静かに声を返せば灯は静かに言う。



「俺、バイクの免許取ろうと思う」

「バイクの…? 16歳で取れるけど…大丈夫なの?」

「ん?あぁ、免許の方は正式に取るがバイクの免許とったら冬でも自由に走れるだろ?」



 バイクの免許は基本的に16歳からで二人乗りが出来る様になるには一年かかる為、灯が今からバイクの免許を取ったとしても17までは優を待たせる事になるのだが…。



(免許取ったら祖父母(クソども)脅して政府公認許可書でも発行させればいいだろ)



 優達、幻童家はそれほどまでに政府と関わりが強かった。

 十二年前の悲劇の、おかげで―――――……



「っ」



 電撃が走った様に頭の中で()()()()()フラッシュバックする。

 何も知らないでのうのうと母の元へ歩み寄る優の姿が映り、映像の中の優は自分に笑いかけて来た。何も変わらない優、むしろ変わったのは―――自分だけだろう。

 まるで己を嘲笑う様に、灯はペダルを思いっきり漕いだ。



「灯、灯! 見て見て、ほらほら! 綺麗な桜だよ!」

「ん……?」



 中々反応しない灯を見てか、優はガタガタと軽く自転車を揺らす。走行の邪魔では無いのだが、ちょっと気を抜くと落ちそうに感じる。座っていたハズなのに桜が綺麗で思わず立ち乗りに切り替えてしまったのだろう。肩に圧迫感があり、優の細い指が自分の背に痛くない様に軽く食い込んでいた。

 立ち乗りだから、桜が手を伸ばせば届きそうな距離であるが「わぁ~」と口を広げ、笑うだけの優。灯の安全運転でも片手を離せば危ない為、手を放すと言う危ないオイタはしなかった。



「優、頼むから落ちるなよ…?」



 今にも落ちそうと言うか、手を伸ばしたい様なキラキラとした眼をする姉に対して苦笑しつつも灯はちょっぴり笑い交じりに言う。



「分かってるもん! そんなオイタはし・ま・せ・ん―――っ!」



 ムッとなって言い返してくる優は相変わらず子供っぽい。そう言う所が近所のガキ(こども)扱いされる原因の一つである事を、優は未だに知らない。



「でもさ、灯! 綺麗だと思わない?」



 軽くスピードを下ろし、ゆっくりとブレーキをかけて止まる自転車。足を地面につけ、ゆっくりと見上げれば母が良く見ていた薄紅色の桜が散っていた。風に吹かれ舞う桜は何処か儚げで…当時の母を、思い浮かばせた。



「…………あぁ、そうだな…」



 少しだけ寂しげに言う灯に気付いた優は静かに落ちて来た桜を二輪捕まえた。とんっと軽く自転車から降り、灯の鞄と自分の鞄に器用に取り付ける。



「恥ずかしかったら取っていいから、お揃い。ね!」



 ニッコリと笑う優。無性に抱きしめたくなったのだがそれでは自転車が倒れてしまう為出来なかった。もしもバイクだったらそんなオイタは出来ただろうが、今回は無理だ。



「学校に行ったら外す…帰りにまた……捕まえてくれ」



 ゆっくりと柔らかく笑んだ灯を見て優は思いっきり頷いて特大の華を咲かせて笑った。それにつられる様に軽く小さく笑みを作る灯―――彼の笑顔は、彼女の前しか現れない……。



「行くぞ、優。そろそろ行かないと遅刻だ」

「あ!? た、大変っ!!」



 慌てて自転車に乗っかる優。灯は軽く笑い、静かにペダルをこぎ始める。































母が大好きだった華。





昔、教えてくれた脆い華
















































「桜って綺麗だと思います?はーい、バリバリ私もおっもいまーす☆ ってな訳で?でも、桜って寿命が短いですよね―あ―。あれです、あれ。綺麗な物は壊れやすいって奴です! え?言葉が違うって…? いいんです、それは! だって――――――それが、彼女の導き出した、答えだから…」



 突然現れたかと思えば消える()()()

 全てを見ていた様に、彼女は語り消え去る者… ()()()()()()彼女こそが―――()()()()()では無いだろうか…?




















































『この華はとても綺麗。 でもね、脆くて…儚く消えてしまう華なの…。 三日ぐらいしか持たないから…… でも、綺麗だと思わない……?』





































『綺麗な物こそ…… 壊れやすい、って…… 良く言うじゃない』































脳裏に焼き付いた、あの人の言葉。

何処かで誰かが笑い、そして誰かを欺いた。

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