要領のいい、お譲ちゃん
「あのう、あそこにある『キラ●チ』って、おいくらですか?」
書店のレジに立っているおれに、そう声をかけてきたのは小学校4~5年生くらいの女の子。
ふつう本には値段が表示されている。
彼女が訊ねてきた『キラ●チ』にも当然。
でもまあ、そんな忙しいわけじゃなかったし、レジを出て店頭にある『キラ●チ』を持ち、ひっくり返して値段を確認、680円ですね、と答えると。
「ありがとうございますっ!」
と、かわいくお辞儀をし、
「そうだ、これ、すみませんけど捨ててくださいます?」
差し出されたのは、マクド●ルドのビニール袋、中に入っているのは食べた後のハンバーガーの包み紙とかナプキンとか、そういうもの。
……きさま、真の目的は、それだったか。
そんなもん、街角のゴミ箱へ捨てろや!
と、もしも虫の居所が悪かったら、こういう言い方はしないまでも、そういった趣旨のことを伝えたと思うが、まあ、このときは精神的にニュートラルだったし、断るのも却って面倒だったんで、まあいいか、と出された袋を受け取ると、
「あっ、あの、よかったらこれも」
と次に差し出したのは、もう一方の手に持っていた紙コップ、フタとストロー付き、まあ仕方ないか、と受け取ったらけっこう重い。
中身まだ入ってるんじゃねーの、これ、と気づいたときは遅し。
やろう、逃げ足はえーな、おい。
フタあけてみたら、やはり氷が入っている。
ちくしょー、やりやがったな!
と歯軋りしたが、あとのまつり、フタをいったんはずし、中の氷を排水溝へ捨ててから、ビニール袋へコップを入れてゴミ箱へ。
そらおそろしいガキだ、おめーそんな要領だけで世の中わたっていけると思うなよコラ今回は幸いにもおれがはからずも甘やかすかたちになったがそのうち痛い目みても知らんぞ、と心中で悪態をついたものの。
まあ、そのへんの道端にポイしないだけ百マシか、と思い直し、無理やりにでも溜飲をさげてやったさ。