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君がいる奇跡  作者: トウリン
探し、求めた、その先に

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拉致

「え、ヒビキ、コンビニバイト辞めるの?」

 パスタをきれいに巻き上げながら、ナナが首をかしげて訊いてきた。

 今日はこの間心配させたお詫びも兼ねて、ナナとバイトの合間に待ち合わせて昼食を一緒にしている。

 彼女と響がいるのはランチがお得なイタリアンのお店で、天気が良いからテラス席を選んだ。


「そうなんです」

 (ひびき)は口に入れてしまったパスタを飲み込んで、頷く。

「専門学校の入学金、(なぎ)さんに出してもらうことにしたので」

「そうなんだぁ。じゃ、前より一緒にいられるじゃん」

「あはは……」

 嬉しそうなナナのその台詞を聞いたら、(りょう)はムッとするかもしれないな、と思いながら、響は笑ってごまかした。


 祖父母に会いに行った翌日に、響は凪の元を訪れた。そうしてお互いにもう一度自分の気持ちを伝え合い、これからのことを話し合って、専門学校の入学金の援助を受けることに決めたのだ。

 その為にお金を貯める必要もなくなったから、深夜のコンビニバイトは辞めることにした。


(本当は、辞めたくないんだけど)

 響はそっとため息をつく。

 あのアルバイトは、凌と出逢った場所。

 彼女にとっては、とても特別な場所だ。

 でも、思い入れのあるバイトだけれど、これはいい機会なのかもしれない。


 あの頃の響と今の響は、『違う』から。

 新しく一歩を踏み出した今、過去にしがみついたままでいるよりも、これからの凌との時間に目を向けるべきなのだろう。


 響はそう思って、決断した。


 それに、もう一つの問題がある。

 虎徹(こてつ)だ。

 最後に会った時の彼の眼差しを思い出して、響は小さく身震いする。


 手を止めた彼女に気付いて、ナナが眉を上げた。

「ヒビキ、どうかした?」

「あ、いえ、なんでも――」

 ない、と言いかけて、響は細められたナナの目に気付く。

「えっと、コテツさんのことがあったから……」

 正直に話した彼女に、ナナはしたり顔でうなずいた。

「そうだよね。アイツには気を付けた方がいい」

「はい。リョウさんも心配してますし」

「当たり前じゃん。アイツのタチの悪さ一番知ってんの、リョウだもん。なのにぐずぐずしてさ。ホントは、もっと早く辞めさせなくちゃいけなかったんだよ」

 ブツブツ言うのとパスタをパクつくのを同時に進めるナナに、響はこっそりと笑った。

 ナナは、凌がどれだけ響の深夜バイトを辞めさせたがっていたか、知らないから。


 一時、響のバイト活動に口出しすることを止めていた凌も、虎徹の事があってから、前以上に深夜のバイトは辞めるように主張してきた。

 多分、以前の響だったら、やっぱりそれを聴き入れなかっただろう。

 けれど、肩ひじを張る必要のなくなった彼女は、それを受け入れた。

 響の為に、と言ってくれることを変に勘繰ったりしないで素直に受け止めようと、決めたのだ。

 甘えることは響にとってまだ難しい事だけれども、少しずつでも、ひとに寄りかかることもしようと思っている。多分、それは信頼する気持ちを伝える方法の一つなのだろうから。


 店長にはもう伝えてあって、次のバイトが見つかればおしまいになる。

 急なことだったので申し訳なく思った響に、店長は笑顔で返してきた。

「いやぁ、実を言うと、雇ってから、やっぱりちょっと心配になったんだよね。若い女の子をあんな時間に外をうろつかせるの」

 そう言って。

 もう二、三人面接をしているらしいから、多分今週中には辞められるだろう。


 今までは、自分が誰にも頼らずやれることを証明する為に、必要以上に意地を張っていたような気がする。

 少し前までの自分を振り返って、響はそう思った。

 それはつまり、ニコニコと笑顔を振りまきながら、心の底では人を突っぱねてしまっていたということなのかもしれない。自分の底の浅さを知られたくなくて、無意識のうちに深い付き合いは避けてしまっていたのかもしれなかった。


「まあさ、ヒビキみたいなのはあんな時間にあんまウロウロしない方がいいよ」

 深夜に平気で徘徊している自分のことを棚に上げて、ナナはそんなことを言う。

「それは、ナナさんだって同じですよ」

 唇を尖らせてそう言うと、彼女は小さく肩をすくめた。

「アタシはいいんだよ。慣れてるもん」

 響よりも一足早くセットのデザートまで食べ終えたナナは、コーヒーのカップをソーサーに戻すと首をかしげて響を見つめてくる。


「でさ、あの後コテツは何もしてきてない?」

 眉をひそめてそう訊いてきたナナは、テーブルに少し身を乗り出して、続ける。

「リョウにずっと一緒にいてもらった方がいいんじゃないの?」

 自分を心配してくれる彼女の言葉にくすぐったさを覚えながらも、響は苦笑を返す。

 あの書類の出所が虎徹だということを伝えた時、凌は当然付きっ切りで彼女の傍にいると言い張った。けれど、ようやく彼の仕事も軌道に乗り始めたというのに、そんなことをさせるわけにはいかない。さんざんやり合って、ようやく彼を説き伏せたのだ。


「それは無理ですよ。リョウさんも忙しいんですから」

「でもさぁ、何してくるかわかんないよ、あいつ」

「わたしも気を付けてますし」

「ホントにあいつ、シャレにならないんだよ」

「ふふ、心配してくださってありがとうございます」

 そう答えて微笑みかけた響に、ナナはムッと唇を捻じ曲げる。と、諦めたようにため息をついた。

「まったくさぁ、あいつ、リョウに気があるんじゃないの? ヒビキにちょっかいかけてくるのって、絶対、リョウが出てったイヤがらせだよ」

「……リョウさん……? そうでしょうか……」

 響は独りごちた。


 虎徹が彼女を見る目。

 凌に対する嫌がらせのとばっちりなら、もっと違う目をしているのではないだろうか。

 虎徹の眼差し――それは、幼い頃に祖父母が響に注いでいたものと似ている気がしてならない。

 祖父母のことはまだ思い出したばかりだけれど、思い出したからこそ、そう感じる。幼い頃、その目を響の方に向けていても、祖父も祖母も彼女を見ていなかったのだ。響を素通りして、彼女の後ろにいる存在――母を、(かなで)を、見つめていた。


「……だったら、あの人は、誰を見ているんだろう……」

「え?」

 響の呟きを聞き付けたナナが、訝しげに首をかしげた。

 そんな彼女に首を振ってもう一度笑いかけて、響はふと気付いたというふうに腕時計に目を落とす。

「あ、わたしそろそろ行かないと。バイトの時間が……」

「アタシもだ」

 どちらからともなく席を立ち、二人は揃って店を出る。

 ナナはチラリと店内を振り返り、響に目を戻した。


「ここもおいしかったけど、やっぱヒビキのご飯の方がいいなぁ。また作ってよ」

 甘えられると、なんだか嬉しい。響の口元は自然と緩んだ。

「いつでもいいですよ」

「楽しみぃ、じゃあね」

 そう言うとナナは子どものように手を振ってクルリと背を向けた。彼女を見送り、響も夕からのバイト先であるファミレスに行こうと踵を返す。


 が。


 彼女が方向転換し終える前に、誰かの手が右腕を掴んだ。

 顔を上げ、そこにいる人物に響はハッと息を呑む。


「あなた……」

 絶句した響にニヤリと笑いかけたのは、虎徹だった。他に三人、雰囲気の良くない男が付き従っている。通行人は不穏な空気を察したのか、目を逸らしつつ彼らを避けていく。

「よう、迎えに来たぜ」

 楽しげにそう言った彼のその笑みは獲物を前にした捕食獣のもので、響の背筋にゾクリと悪寒が走る。咄嗟に手を振り払おうとしたけれど、万力のように締め付けてくるそれはビクともしなかった。


「放して!」

 声を上げた響を無視して虎徹が歩き出す。周りを三人の男が取り囲み、小柄な響は埋もれてしまっていた。彼女は為す術もなく引きずられていくばかりで、明らかに良からぬことが起きているというのに、通行人の中から咎める声は上がらない。

 虎徹が向かう先にあるのは、路肩に停められた、響が前にも目にしたことのあるバンだった。


 そこに入れられたら、おしまいだ。

 響は、そう直感する。


「いや! 放して!」

 声を張り上げながら足を踏ん張って拒んだ響の胴に腕を回し、虎徹はこともなげに小脇に抱えると、空いたもう片方の手で彼女の口を覆ってしまった。

 響が渾身の力を込めて両手を突っ張っても、虎徹の背中や胸を叩いても、彼の足を緩めることはできなかった。


 どんどんバンが近付いてくる。

 その中に放り込まれる直前に首を捻じって男達の間を覗き込むと、行き交う人にぶつかりながらこちらに駆けて来ようとしているナナの姿が視界に入った。


「ナナさん!」


 彼女の名を叫ぶと同時に、響の身体はシートの上に放り投げられる。そうして、彼女の目の前で、大きな音を立ててスライドドアが閉ざされた。


   *


「ちょっと、もう! 何であの工場にいないのよ!」

 壊さんばかりに叩かれたドアを開けると同時の、罵倒だった。

 前置きなしで頭からバリバリと噛み砕かれそうな勢いでナナに食ってかかられ、(りょう)は眉間に皺を寄せる。

「工場長の都合で、今日は昼過ぎに仕事が終わったんだよ」

「ああ、もう! そんなことどうでもいいんだってば!」

「……」

 髪を振り乱してかぶりを振るナナを、凌は黙って見下ろした。

 訊かれたから答えたというのに、ある意味この上なく彼女らしい理不尽さだ。

 だが、理不尽であることはナナの十八番なのだが、その目にみなぎる切迫感は、彼女らしくない。


「ナナ、どうしたんだ?」

 眉をひそめた凌の胸元に、ナナが掴みかかってくる。

「ヒビキが! 連れてかれた!」


 一瞬、凌は彼女の台詞が理解できなかった。


 黙りこくった彼に、ナナが苛立ちを露わに足踏みする。

「聞いてんの!? ヒビキがコテツに連れてかれたの!」

 二度目を、訊き返す必要はなかった。凌は財布を掴むと尻ポケットにねじ込んで、ナナを押し出すようにして外に出る。

 足を引きずりながら走り出そうとした凌を、ナナが引き止めた。

「待って待って、タクシーいるから。ほら、あれ」

 彼女が指差した方に目をやると、確かにタクシーが一台停まっている。凌はナナと共にそちらに向かい、シートに滑り込むと同時に運転手に声をかけた。

「取り敢えず新宿署へ」

 車が発進すると同時にナナが凌を覗き込んでくる。


「でも、ねえ、コテツの行き先わかってんの?」

「ああ、多分いつもの所だろう。お前は福井さんを見つけて連れて来い」

「え、オッサンを? リョウは? リョウはどうすんの?」

「俺は先に行っている」

 虎徹は自分が楽しむ為なら何でもする男だ。それが、撫でれば折れてしまいそうな少女をいたぶるような事でも、そうしたいと思えばためらいはしない。

 彼が響を連れて行った目的が彼女自身にあるのか、それとも凌を痛めつける為なのか。

 ――後者であって欲しいと、切実に祈った。そうであれば、響に何かするとしても、凌の目の前でしようとするだろうから。

 いずれにせよ、一刻も早く彼女の元に行かなければ。


 焦燥に駆られる凌の隣で、ナナが不安そうな声を上げる。

「でも、何かごっついのくっついてたよ? あれ、絶対アイツのオヤジ絡みの奴らだって。一人で行くなんて無理だよ。あっという間にボッコボコだよ?」

「判っている」

 確かに、賭け試合では彼は敵なしだったが、あれはしょせん素人相手だった。喧嘩のプロ相手に、果たしてどれくらい戦えるか。


(だが、時間稼ぎはできる――してみせる)

 凌は険しい目付きで窓の外を見つめながらナナに答えた。

「だから、福井さんを呼ぶ。警察が踏み込めば、何もできなくなるからな」

「まあ、そうだけどさ……あのオッサンのこと、信頼してるんだ?」

 呟いたナナに、凌は顔を向ける。彼女はしげしげと凌を覗き込んでいた。

「変わったんだねぇ。前のリョウだったら、そんなこと考えもしなかったんじゃない?」

「そうかもな」

 彼自身、響が虎徹に拉致されたと言われて、即座に福井のことが頭に浮かんだ自分が意外だった。

 独りで問題を解決しようとしなくなったのは、もしかしたら弱くなったということなのかもしれない。だが、今の凌は、それでもいいと思えている。


 響なら何と言うだろうかと、ふと彼は考えた。


 むしろ、誰かに事態の一部を委ねることができる強さを身に着けたのだと、言うかもしれない。

 無性に、彼女の温もりをその手に感じたくてたまらなくなる。笑顔を目にして、声を聴きたかった。


 早く、早く彼女を見たい。


 焦る凌を乗せ、タクシーは渋滞を擦り抜け、じきに新宿署へ到着する。

「じゃあ、教えた住所に急いで福井さんを連れて来てくれ」

 降りたナナにもう一度声をかけると、彼女は力強く頷いた。

「わかった」

 凌は小さくナナに頷きを返し、すぐにタクシーを発進させる。

 再び走り出した車の中で、凌は奥歯を噛み締めた。

 いったい、どれくらいのタイムロスがあったのだろう。

 ナナが言うには、響が拉致されたのはもう一時間以上前のことだ。虎徹が何もせずにいてくれればいいのだが。


 凌は運転手にこまめに指示を出し、最短ルートで虎徹がいる筈の溜まり場へとタクシーを導く。

「ここでいい」

 溜まり場はもう少し奥にあるのだが、その先は、車が入れない細い路地だ。

 凌は金を払って車を降り、走り出す。

 見慣れた路地――そして、見慣れたドア。その奥からは聞き慣れた重低音が響いてくる。

 ノブをきつく握り締め、彼は扉を開け放った。途端に、脳みそに爪を立てられるようなロックが溢れ出してくる。

 中に踏み込み室内を見渡した凌の目に、五人ほどの屈強な男達と――虎徹、そして響の姿が飛び込んできた。彼女の腰には、虎徹の腕が巻き付いている。無造作にそうしているように見えるが、それは彼女の胴をきつく締め付けているのだろう。

 響は凌の姿を認めて微かに目を見開いた。そこに溢れる信頼の色に、彼の足は自然と彼女の方に引き寄せられる。


 今すぐ、虎徹の腕から響を奪い返したい。

 たとえこの場の敵を皆殺しにしてでも、今すぐに、それを実行したくてたまらない。


 凌のその考えが、彼の全身から迸ったのだろう。虎徹が面白そうに目を光らせ、ニヤリと嗤った。

「よう、遅かったな。待ってたんだぜ? 取り敢えず、感動の再会はさせておいてやろうか?」

 言うなり、パッと彼が腕を開いた。唐突に解放されてふらついた響は驚いたような顔で虎徹を振り返ったが、彼は肩を竦めて凌の方へと顎をしゃくる。

「行けよ」

 その声に突き飛ばされたかのように身を翻し、響は一散に凌の元へと駆けてきた。それを受け止め一瞬抱き締めてから少し身体を離し、凌は彼女を覗き込む。

「何かされたか?」

「だいじょうぶです。急に連れて来られてびっくりしただけです」

 蒼褪めた顔で微笑まれ、凌は腹の中に煮えたぎった油を注がれたような気持ちに襲われる。しっかりと響を抱え込み、顔を上げて虎徹を睨み付けた。


「俺に腹を立てているなら、俺に直接かかってこい」

 そうすれば、いくらでも相手をしてやる。二度と下手なことを考えないように叩きのめすことも辞さない。

 だが、険しい凌のその眼差しを、虎徹は嘲笑で跳ね返した。


「残念ながら、もうお前のことは二の次なんだよ。まあ、おまけでお前に吠え面かかせてやれりゃぁ一石二鳥ってなもんだがな」

「何……?」

 彼の台詞に、響に回した凌の腕に無意識のうちに力がこもる。

「今、オレが欲しいのは、そっちの女の方だ」

「響、か?」

「そ。まあ、正確に言うとその女の中のもう一人の方だけどな」

 凌の胸に、響がビクリと身体を震わせるのが伝わった。

「響は、響だけだ」

「はあ? どうせお前もアレを読んだんだろ?」

「……ああ」

 虎徹が言うものが何かはすぐに判った。


 響の、カルテだ。


 眉間に深い溝を刻んで睨み付ける凌を、虎徹は愉しそうに眺めている。

「その女は二重人格だ。オレは『藤野奏』の方が欲しいんだよ。その為に、お前が来るまで何もせずに待っていたんだ」

「何だと?」

 眉を逆立てた凌を、虎徹がせせら笑う。


「弱っちそうだったから、『真実』報せりゃ簡単に壊せると思ってたんだよなぁ。でも、全然じゃん。意外にしぶといんだな」

 彼の台詞に、凌の腕の中の響がクルリと向きを変えた。そうして、彼の腕を振りほどかんばかりの勢いで、虎徹に食って掛かる。


「あんなの、『真実』なんかじゃない! わたしは思い出したもの!」

 叫んだ響の身体は、小刻みに震えていた。だが、彼女の声は微塵も怯えを含んでいない。そこにあるのは、怒りだった。

 だが、虎徹はそれすらあざ笑う。


「へえ、そうか。そりゃ、おめでとさん。けどな、それでダメだってんなら、やっぱり他の方法を試してみないとだな」

 バカにした彼の言い方に響の身体が強張る。それを宥めるように抱き締め直し、彼女の頭をしっかりと自分の胸に押し付けると、凌は虎徹を見据えた。

「他の方法、だと?」

 どうせ、碌な事じゃない。

 凌のその考えは、続く虎徹の嘲笑で裏打ちされた。


「ああ、そうだな、例えば、お前が見ている前でここにいる奴ら全員で犯ッちゃうとか?」

 嗤いながらの、台詞だった。だが、虎徹のその目はけっして笑ってはいない。


 凌は背後に気配を感じた。多分、出口は塞がれている。チラリと左右に目を走らせれば、分散した男達がグルリと輪になっていた。

 五人の男達の腕の程は、彼らの身のこなしから伝わってくる。

 これまで、賭け試合で戦ってきたチンピラとは格が違った。明らかに、玄人だ。

 響を抱えながらでも、二人までなら、多分やれる。だが、五人はまず無理だ。まともにやり合ったら、三分ともちはしないだろう。


 凌は彼女を腕の中に深く包み込む。

 彼等の爪先を響にかすらせることすらさせはしない。虎徹が言うような事など、断じて許さない。

 だが、ナナが福井を連れてくるのに、どのくらいかかるだろう。


(――彼が来るまで響を渡さずにいるには、どうしたらいい?)

 凌は自問する。


 福井が署内にいれば、もうじきここに来る筈だ。しかし、外に出ていれば、三十分、いやもっとかかるかもしれない。


 凌は、奥歯が軋るほど噛み締める。

 その時、凌と響を取り囲む男達の輪が、ジリ、と縮まった。


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