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講義を受けます

 聞きたい事は山ほどあったが、これからお世話になるマイスルさんの手前聞きにくい。イルースは不審を抱きつつも生活費を渡したらさっさと帰った。こうなったら目を皿のようにして学園都市内で次会った時を狙うしか。


「お風呂沸いたよ。先にどうぞ」


 ……でも人間、衣食住が最優先だよね! 浮浪者のような見た目で情報を集めることも出来ないだろうし。ここで英気を養ってケイトの手がかりをつかまきゃ。温かいお湯、湯気の出るご飯、柔らかい布団……。涙が出るほど嬉しいとはこの事。


 湯船に浸かるために服を脱いでいく時、ポケットの固い感触で思い出す。


「……レトくん」


 私を助けるためにドラゴンの力を使いまくって、代償で石になった彼。そうだ、出来れば彼も助けたいんだった。小石になった人間を元に戻す方法と古代魔法の詳細かあ。

 でも、呪いも魔法だし同じの調べれば両方救えるんじゃ。となると、やっぱりイルースと話す必要があるわけで。

 ああ、どうしてマイスルさんとイルースが同一人物じゃないんだろう。そうだったら衣食住も情報も一度も得られた物を。


 なんて、そんな上手く行くわけ無いよね。甘えちゃいけない、早くケイトを探すんだ。


 そういえばケイトは無事なのかな。命を狙われてる国元に帰って……どれくらい時間が経ってるんだろう? まさかもう死んでたり……ううん信じる。死体を見るまでは絶対信じない。


 途方もない道のりだけど、千里の道も一歩からだ。マイスルさんに協力してもらって、明日は図書館に行こう。


「待っててねケイト!」


 と、湯船に浸かりながら拳を振り上げる。気合だ!





 でも図書館を利用するのは、マイスルさんの授業が終わってからでないと無理なわけで。しかしこれはこれでチャンス。運よくイルースに会えないかなと思って高級街の入り口をうろうろしていたら、何とばったり遭遇した。私、結構運がいい! 手を振ってアピールして近づくが。


「あら、だあれ? この田舎くさい子」


 デート中だった、やっぱり上手くいかない! 綺麗な美人さんを横に連れて歩いていた。そ、そうだよね。


「弟の彼女だ」

「……ああ、あの庶民の」


 否定はしないけど。話がややこしくなるし。それにしてもどう切り出したものか。まずは挨拶しないと。


「こんにちは、奇遇ですね。見かけたから挨拶してしまいましたが……もしかしてお邪魔でした?」

「いや? 別に」


 嘘だ。イルースがそう言った瞬間、横の美人が「ハァ!?」 って顔しましたよ。そういえば寝取ってるとか言ってたし、女癖悪いのかなあ。まあ、もしかしたら好都合かもしれないけど。


「あの、専攻されている学問でお伺いしたい事があるのですが……」

「古代魔法か?」

「はいそうです!」

「唯一の教授が来年定年で、それに伴い学校の履修科目からも外れるようなドマイナーのあれをねえ」


 じゃあその教授に聞けばいいのか? いや駄目だ。身分証明書が無いから学校地区に入れない。どうしても目の前の彼から聞く必要がある。


「えーと、駄目ですか?」

「いや別に。今からか?」


 ラッキー! 超ラッキーだよ!


「ちょっと、私との約束はどうなるのよ!」


 と思ったら先ほどから居た美人さんが不満を露にする。あ、そうだった。私、集中すると周りが見えないみたいだ。


「あ? いたのか」

「何それ酷い!」


 自分が原因作っといてなんだけど、女の人が気の毒だ。優先されるのは先約であるべきだ。


「あ、今からじゃなくても……」

「気にするな。俺はこの女の名前も覚えていないからな」

「……最っ低!!! あんた女で破滅するわよ!」


 と、捨て台詞を残して女の人は去っていった。うわあ……罪悪感……。別れの引き金引いたの私じゃないか。そんなつもりはなかったけどさ。


「どうしたんだよ、行こうぜ」


 美人さんの言わんとしたことは分かる気がした。何事もなかったように振る舞うイルースがちょっぴり怖い。いつか女に刺されそう。その前に情報を聞きださないと。


 二人で向かった先は静かなカフェテラスだった。腰を落ち着けて彼はコーヒーを頼む。奢ってくれた。す、すみません。


「で、何が聞きたいんだ?」


 何となく話す気満々に感じるのだが。マイナーで話し合う相手がいないのかな。


「古代魔法ってどうして死んだ学問って言うんですか? 魔法なんて凄いと思うのに」


 まずは基本的な情報、一般認識からだ。


「死んだ……というより失われた学問だな。この世界で一番古い文献にそれは記載されていた。『神が一人の人間を寵愛された。その人間は人ならざる力を与えられ、王として世界に君臨す』 一般的には王権神授説の提唱と解釈されているが、少し時代を下った文献には『異能の力とは魔力であり超能力である』 とはっきり記されている。教授はそれをもって古代魔法の概念という論文を提出したが、まあ、総スカンだよな。人間が魔法とかありえねーっつの」


 え、魔法ありえないの?


「じゃあ何で学校の単位にもなってるかって顔だな? 世界各地の王家にその兆候があるんだよ。会話をしなくても思念で通じ合う一族。必ず男子を産む一族。呪術師の異名をとる一族。一説にはこの世界の王家は元々一つであったなんて話もある。そしてそれが最古の文献の人間を始祖として……が、最近は否定されてるな。血液検査の結果、近親婚の末の遺伝病やら思い込みだというのが近年の認識だ」


 て、手がかりかと思ったのに……。そういえばお城のピンチで魔法を使おうとはしなかったしなあ。


「なもんだから、来年で綺麗さっぱり消えるんだよな、この分野。一時は数百人くらいの研究者がいたらしいが。専門は古代魔法です! って言おうもんならカルト宗教を見る目で引かれる昨今じゃ仕方ないよな。何で俺がそんなの取ってるかって? 教授が祖父の友人なんだよ。家に引き取られて真っ先に取るように言われた」


 ここに手がかりはないのかな? いやまだだ。徹底的に聞いてから判断しよう。それに……そうだ、移動陣、あれは何なんだろう?


「で、まだなんか聞くことあるか?」

「ケイトって人は知らない? それと、ワープみたいな、一瞬で人が遠くへ移動できるような魔法陣の話とか」

「ケイト? 知らないな。移動魔法陣? ……御伽話じゃよく聞くが。あ、でも待てよ」

「何!?」

「教授が前にぼやいてたな。『王族は何か隠している。古代魔法研究には王族の協力が必要だが、彼らは権力でそれを阻止する。奥に何かありそうな気配はするんだが』 って」


 それ、移動魔法陣じゃないの? ……つまり総合すると、今の王家は薄めたお茶状態で、魔法陣起動くらいしか魔力無し。ってこと? 力があるならレトくんの暴走を止められたはず。でもこんなのが分かったところで、ケイトに繋がる気がしない。もっと遠くの王家とかなら血が濃い人いるかなあ。また旅する必要があるかも。


「他には、まだあるか?」

「うーん……現代の魔法にまつわる話とか聞きたいんだけど」

「つくづく変なやつだな。そんなこと言われても……ああ、空賊ディケドラルト」

「え」


 何でその名前が出てくる?


「あの戦艦、機械の有名職人を攫ったから出来たって言われてるが、中央に遺跡から盗掘した古代魔法陣を使ってるから浮いてる、なんて噂があるな。教授が調べたがってが、盗賊身分に来て貰う訳にはいかないし、出張するには信用の置けない上に教授自身が年だからって悔しがってたな」


 ……知らなかった。ファンタジー世界だからとばかり……。何にしろ、頭に入れておいて損は無いな。……調べるとしても最後頃になりそうだけど。艦長に散々な無礼しちゃったよ。とりあえず。


「ありがとうございます、参考になりました」

「お前、変わった奴だな。普通の女は古代魔法って聞いたら目を逸らせって思ってるんだぞ。オタクの都市、ドヴィスの人間にするように」

「そうなんですか? でもほら、ロマンがあるような気がしません?」


 元の世界でも、苛められてた時に慰められたのはファンタジー小説だった。冒険する主人公に自分を重ねて、異世界に行ったような夢想をしたものだ。事実は小説より奇なりだったけど。


「ロマンねえ。危ない奴って言われたことないか?」

「危ない奴だから、今までの話を熱心に聞けたんですよ」

「クッ、ハハ、一本取られたな。確かに、学園都市広しといえど、こんな話を熱心に聞くのはお前くらいだ」


 イルースは楽しそうに笑った。聞いてもらって嬉しそう。彼も本当はそういうの好きなんじゃないかな?


 と、そんな事をやっている間にやばいフラグが立っていたのなんて、この時の私には知る由もなかった。




 マイスルは授業が終わるのを今か今かと待っていた。これが終わったら、好きな人とデートだからだ。彼女――千沙はどこか神秘的で、儚げで、守りたくなるような少女だ。それでいて、家事が上手い。朝起きたら部屋が綺麗になってた上に、お弁当まであったのだ。


「余計なお世話かなと思ったけど……」


 頬を染めながら言う彼女は壮絶に可愛かった。こんな事、好意がなくてはしてくれないだろう。ああ早く会いたい。会ったらまずお弁当のお礼を言って、それから図書館デートをして、帰っても一緒……。

 そんな風に浮ついた心でいるうちに、チャイムがなり、教授に挨拶して教室を出て行く。


 と、廊下でばったりとイルースの女にあった。


「久しぶりね」

「ああ……」


 可愛いと思ったこともあったけど、昔の話だ。イルースがちょっかい出すようになってから、何かと親身にしてくれたのに、虫を追い払うようにされたことは忘れない。


「まだ気にしてるの? ……悪かったわよ。私、あのブラコン兄的にはお眼鏡にかなわない人間みたいだったから、今なら貴方の気持ちが分かるわ」


 何言ってるのかイマイチ分からないが、相手する必要性を感じないのでさっさとチサのもとへ向かう事にする。


「……謝ったのにその態度? 良いこと教えてあげようと思ったのに」


 無視して進む僕の背中に彼女は叫んだ。


「あんたの彼女、今イルースと一緒にいるわよ! 気をつけたほうがいいんじゃないの? あの子イルースを狙ってるみたいだったから!」


 心臓に、水が流れたみたいになった。

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