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図太くなくては生きられない

 バタンと扉が閉められ、ドラゴンが見えなくなる。


 涙をこぼした私にロスは、流石に憐れみを覚えたのかハンカチを差し出す。当然叩き落します。こんなことやった後で、まあありがとうとか言われると思ったのか。いい音を立てて叩き落された彼は、案の定嫌な顔をしてこっちを睨む。


「これはこれは……随分乱暴な事で」

「どっちが乱暴よ! この下衆!」


 私とレトくんが何をした。突然爆撃くらって、捕らえられ、いいように利用される。完全な被害者じゃないか。


「じゃあ聞くが、お前さん、ずっとあのドラゴンといる気だったのか? 違うだろ。そのつもりならあんな危険な空の旅はしない。べた惚れなんだから黙って待ってりゃよかったんだ。そうしないという事は、腹に一物あるって事だ」

「そ、それは……」


 図星だった。確かに私は、逃げるために彼を利用していた所だった。思わぬ口撃に黙ってしまう。


「いいじゃないか。俺と一緒に利用しようぜ」


 けど、言われた台詞から頭に血が上る。再び引っぱたこうとして、避けられる。


「懐かない猫かよ……」

「あんたと一緒にするな! 私はしなきゃいけないことがあるから、でも彼が逃がしてくれないから……あんたみたいに悪い事のためじゃない!」

「ドラゴンのせい、俺のせい、か。俺が悪党なら、お前は偽善者だ」

「なっ……」

「ドラゴンもお前がいなければ砲弾をかわせたかもしれないのにな。避ければお前に当たる、だから避けられなかった」

「で、でたらめ言ったって……」

「お前みたいな小娘に嘘を言っても得は無い。さあ行くぞ」


 そう言うとロスは、再び腕をつかんで千沙を引っ立てるように連れまわす。


「何するのよ! 離せ離せ――――!」


 殴ったり蹴ったり噛み付いたりして抵抗する千沙。その様子にロスは舌打ちし、コートのポケットから錠剤のようなものを取り出し口に含む。と、千沙を近づけ強引にキスをした。


「……!!」


 しばらくじたばたと抵抗していたが、やがてくたりと動かなくなった千沙。


「……ドラゴンもこんな女のどこに惚れたんだか。さて牢屋の位置はどこだったかなっと」


 ロスはピクリとも動かない千沙と横抱きにし、戦艦内の独房へ放り込む。





 薬が切れて、千沙はむくりと起きだした。その顔は全てを吹っ切った顔だった。ちょうど、千沙をここに入れた本人がのこのことやってくる。


「起きていたのか。丁度よかった、今なら面白いものが見られるぜ」


 千沙は無言のままロスについていった。戦艦の横につけられた窓を見るように指図される。そこから見えた光景は、赤かった。


「……焼き討ち?」

「そんなとこだ。あのドラゴン――レトか? 普通に火を吐けるんじゃねえか。見ろよ、王城が崩れていくぜ。ざまあみやがれ、私腹をこやすことしか能の無い貴族共め」


 では、ここがロスの言っていた城下町。のんきに寝ている間に事は進んでしまったのだ。レトくんが、私を守ろうと街を破壊している。胸の前で合わせられた手を、血の気が引くまできつく握る。


「何だ、今度は怒らないんだな。それにやけに大人しい」


 やけに静かな千沙に違和感を覚え、話しかけるロス。しかし予想に反して、千沙は笑顔で答えた。


「だって……素敵な人とキスできたんですよ」

「は?」

「私、興奮しちゃしました。ロス様ったらあんな激しく……初めてだったのに」


 眠り薬を飲ませた時のことだろう。それにしてもただの子供だと思っていたが、今の千沙はやけに艶かしい。うろたえるロス。


「もう、してくれないんですか? 私、そんなに子供ですか? 一応十六なんですけれど」

「あ、いや……」


 狼狽するロスに身を寄せる千沙。ロスの身体をまさぐる……ように見せかけてポケットから薬を抜き取る。音も立てずに封を破り口に入れる。


「我慢できない……ロス様!」


 盛大に口付ける。思わぬ大胆さにロスもたじたじだ。しかし数分後、異常に気づく。


「な!? 全身が……痺れ……」


 突然身体に震えが走る。呼吸が荒くなる。


「眠り薬じゃなくて痺れ薬だったんだー。まあ、そっちでも良いか。それじゃ、付き合ってね船長さん」


 そんなロスの様子を気に留める様子もなく、不敵に笑って言う千沙。どこからそんな力が出るのか、けして小さくはないロスを引きずって司令室まで歩く。入室すると、機械にアタリをつけて色々といじる。


「これかな? あーごほん」


 作業中のディケドラルトの住人はいつもならロスの声がする放送に、女の声がした事に驚く。


「ロスさんを人質にとりました。繰り返します、ロスさんを人質にとりました。無事でいてほしいならドラゴンの側まで行きなさい! 歯向かうなら人質の命は無い!」


 阿鼻叫喚の声がゴミのようだ……と千沙は妙に冴えた頭で思った。

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