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醜い少女の変身

 通りすがりの旅人を気絶させて衣服を奪う。あくまで替えのものだけね。だってレトが裸なんだもん。これでドヴィスに入ったら、いくら匿名性が高くてバイトするのに戸籍が必要じゃないような街(とガイドブックに書いてあった)だって通報されてしまう。かといって女一人で買い物に行ったら怪しまれるし危ないし。ケイトに会うまでは死ねない。

 巨大ドラゴンに遭遇して気絶した旅人の荷物を漁って、まだ綺麗な男物の衣服を手に入れる。


「戻っていいよ」


 徐々に小さくなっていって人間に戻るレト。裸のイケメンなのが実にシュールだ。もう慣れたけど。レトに服を手渡して着替えを促す。その時、チサの手に服だけしかないのを見てレトは呟いた。


「あれ? 服だけ?」


 きょとんと、実に無邪気な様子だった。


「え? ……それはそうでしょう?」

「金目のものとかは?」

「駄目だよ! 何言ってるの!」

「王宮にまだ居た時、父はよく言っていたんだ。『王家のものは王家のもの。庶民のものは王家のもの』って。今が困ってる時だし……」

「そんなわけないでしょ!」


 滅ぼした直接の原因が言うのもなんだけど、レトの故郷のメリアって国、どのみち長くなかったのかな……。義賊を自称するディケドラルトが狙うはずだよ。それでも滅ぼしていいとは思わないけど。

 そういえばロスってどうなったんだろう? 新聞には相変わらず組織が活動してるとあったから、生きてるのかな? まあいいか。お互いが黒歴史だし。今は交通手段が手に入ったし♪


「それで、ドヴィスに着いたらどうするの?」


 着替え終わったレトが聞いてくる。服はシンプルなものだが、イケメンが着るとブランド品みたい。何でこの人私が好きなんだろう、ホント。


「えっとね、古代ま」


 と言いかけて考えた。そうだよレトは王族じゃん! 何もドヴィス行って調べなくても直接古代魔法について聞けば……。

 だめだ。レトは結構昔に、ドラゴンの呪いで城を離れているみたいだから覚えているかどうか。それに自分が滅ぼした祖国に聞いて聞きだすって残酷だよね。現物も残ってないとくると……うんやめよう。


「ちょっとね、調べ事。あとバイトでもしてお金溜めたいかな。あそこなら戸籍がいらないっていうし」

「奪えば早いのに?」


 小首を傾げながら何てこと言うのかこの子は。色々心配したのに。


「……つい最近まで他人の金で生活してた私が言うのもなんだけどね、そういう考え、よくない。とにかく一度、レトも働いてみたら?」

「うん、チサが言うなら」


 レトが天然で無邪気で残酷で、何かお母さんになったみたい。




 ドラゴンの姿を人に見られるわけにはいかないので、少し離れたところから歩いての出発。それでも相当賑わっている街なのか、道が綺麗に舗装されていてスムーズに街まで行けた。


 初めてドヴィスを目にした時の感想は……うん。スラムって言葉を思い出した。お世辞にも身なりがいいとは言えない人達が闊歩するちょっと汚い街。でも訳有りが隠れるのにはこれ以上無いくらい都合がいい街。私達と同じような人も多いのか、人の出入りがとても激しい。


「チサ、着いたけど、どうするの?」

「うーん……下手にその辺の人と話をしてもカモにされそう……。まず仕事を見つけるのが先かな。そこからここに馴染んでいって……情報がまともに集められるのはそこからかな」


 ドラマや映画くらいの知識しかないけど、こういうのは手当たり次第に聞くと前金だなんだ言われ、下町の洗礼を受けてスッカラカン、なことが多い。ただでさえ何もないんだから、慎重にならなくちゃ。


「でもチサ、働いたことあるの?」


 ありませんが何か。でもそんなこと言ってる場合でもないし。でもどういうところで働いたらいいのかと言われると。うーん。


「チサは可愛いから、変な奴に目をつけられないか不安だよ。セクハラでもされたら、僕、ドラゴンで破壊しそう……」

「あ、それいいね」


 そうだよ、危ない職場だったらレトに助けてもらえばいいじゃん! 日本の中流とこの世界の元王子、世間知らずで身を守るすべもろくに知らないんだもん。チートは使ってなんぼだよね。


「情報を集めるためにも働くのは必須だと思うの。でもそこが安全とは限らないから……もし危ないところだったら、レト、私を助けてくれる?」

「勿論だよ!」

「……素敵!」


 ケイトに向ける愛情並みとはいかないけど、この忠犬っぷりには頭が下がる。うっかり私もこの人を好きになれば……と考えるくらいには。


「これで心置きなく職を探せるね! えーとまずは……」

「ちょっと、君!」


 と、いきなり変なおじさんが私に近寄って話を遮ってきた。な、ナンパ? それともまさか新参者だから詐欺みたいな何か?? 治安が悪いとガイドブックに書かれる街だから用心しないと。


「うーんいいね。平凡な容姿。それでいてどこか影を帯びて、目には強い輝き……君、もしかして仕事探してるの?」

「! はい」

「いいね。実は一日限定で探してたんだよ~。やってみる気、ある?」


 一日限定か。慣れるためにもいいかも?


「はい!」

「うんいい返事だ! それじゃ早速」

「え? もしかして今日!?」

「そうだよ、今日の午前11時から午後8時。休憩はあるし、食事も出るから!」

「午後8時……レト、それまでに戻らなかったら……」

「分かった」


 力強い頷きに安心して男の後を着いていく。




「ほんっと田舎娘は馬鹿だな!!」


 会場に着くなり男は豹変した。腕に痕が残るくらい強く掴まれ、少女だけの部屋に連れ込まれる。これって、やっぱり騙されたってことだよね。


「いいか! シルテの言う事をよーく聞いておくんだぞ!」


 男は閉められたドア越しにそんな捨て台詞を吐いていった。シルテって言われても……。後ろを振り返り少女達の群れに目をやる。まず綺麗な子が多いのが目に付いた。そしてこの世の終わりみたいな顔してる子も少なからずいる。ここ、どういう所なの?


「こんにちは、新人さん?」


 リーダー格っぽい派手な女の子がにこやかに話しかけてくる。でもその笑顔は何か胡散臭い。私のこういう勘はよく当たる。教室に入る前にクラスメートがやけに愛想がいいと思ったら、机の上にゴミ箱の中身がぶちまけられてた等の経験からくるものだから確実。


「……仕事があるよって、言われて……」

「プ、あはははは! バッカじゃない! あんた騙されたのよ! どこの田舎から来たのよ!」


 調子に乗らせて、とにかく喋らせて現状を把握しよう。


「あんたはこのシルテの引き立て役よ! まあそう言っても、もう予約は入ってるんだけどね。大商人のムルキーア様。ふふ、ここの女の中でも一番人気なのよ。見目麗しい大金持ちに買い取られたいってね。ま、あんたみたいな地味女じゃ無理だろうけど」


 予約? 買い取り?? 何か随分詳しいみたいだけど。


「シルテはここのプロなの?」

「あはは! 要領をえない質問ねえ。プロも何もないわよ。美貌や才能、あとコネでいくらでものし上がれる世界だもの。あとは、買ってくれた方の後見?」


 人身売買の香りがするんだけど。ここって一体?


「あの、私は何をすればいいの?」

「適当に男受けする服に着替えなさい。歌や踊り、芸は出来る?」

「そういうのは、全然だめで、えっと……」

「……一人自殺して人数が合わなくなったからって、こんな素人連れてくることないのに……。スポンサーのご機嫌取りも楽じゃないのは分かるけどさ……」


 ここ、少女限定買春クラブか何かなのかなと推理してみる。11時になり、その推理が当たっていた事をよく理解した。


 舞台ではシルテが一枚一枚着ている服を脱ぎながら踊っている。それを囃し立てる下は十代後半から上は老人の男ども。吐き気がする……。舞台裏で私は思わず座り込む。


「大丈夫?」


 すると、深くフードを被った少女から水を渡される。少女っていうことは、この子も人身売買される子なのかな? 見ず知らずの私に優しいけれど……。


「ありが」

「ちょっとララリア! あたしの髪のセットが終わってないでしょ!」

「! はい!」


 ララリアと呼ばれたフードの少女はそれを聞いて飛び出していく。同じ立場の子かと思ったけど、もしかして小間使い?

 水を飲みながら私は、ララリアが次の舞台に出る少女の髪を整えているのをぼんやりと見ていた。なんか彼女、こき使われてて、昔の自分を思い出すなあ。セットが終わった頃、シルテが戻ってきた。


「あら、まだ準備してないの?」

「何着ればいいのか分からなくて……」

「迷ったら露出度多いのにしときなさい。何をするのか分からないなら、とりあえず脱ぎなさい。恥ずかしいとか思わなくていいわよ。どうせここに来る連中、明日も何十人って少女を見るんでしょうから、いちいち覚えてないと思う。というかそうしなさい、あんたラストをやるのよ」

「……ウン」


 胸を肌蹴たまま言うシルテに何て言ったらいいのか分からない。最初は偉そうだと思ったけど、普通に具体的なアドバイスでなんか拍子抜け。やれと言われてる内容はえげつないけど、さっき普通にシルテもやってたしなあ。


「この下手くそ!」


 急に怒声がした。見るとララリアが床に倒れている。


「ちょっとあんた何やってるの!? ララリア、あんたもまた人の手伝いなんかして……自分の出番に集中しなさいよ! これで最後なんでしょう!?」


 あれ、ララリアって子も舞台に出る子なの?


「いいわね、スポンサーが決まったシルテは。こっちはまだだけど。今日が勝負だっていうのに……ララリア? どうしてララリアに気を遣うの? 引き立て役でしょう? この子舞台でいつも黙りこくってばっか。恥さらしって支配人にも言われてたじゃない」

「そうだとしても、楽屋で乱暴はやめなさい!」

「はいはい。……コネ女がいい子ぶって……」

「何ですって!」


 ええー何これどうしよう。


「シルテさん! いいんです! 私が、フィリノさんのお手伝いをしたいって言ったんです」

「ララリア……。あんたがそう言うなら、私からは言うことはないけど。でもいいの? 今日スポンサーつかなかったら、あんた明日から物乞い生活でしょ?」

「……はい」

「分かったでしょシルテ! ララリアも、早く髪を整えて!」


 思い出した。昔のヨーロッパのバレエだか劇団だかの話。舞台上で踊る女の子がいて、その影に男がいる当時の絵。男は彼女のスポンサーだった。当時、舞台に立つのはスポンサーがいないと出来ない事だったらしい。今の奨学金制度とか違って、昔だからやっぱり、今の法律に抵触するようなこともあったんだろうって話。ここもそういう所なのかな。


 ララリアが甲斐甲斐しく着付けや髪のセットを整えて、フィリノと呼ばれた少女は舞台に行くため立ち上がる。


「絶対、いい男捕まえなくちゃ……。ああ、ゴクロウサマ、あばたのララリア」


 は? あばたって……。口が悪すぎるんじゃないのフィリノって人。


「ララリア、私はもう行くけど、あんたも準備に取り掛かりなさい。奥の部屋なら防音も聞いてるし。緊張で身体が動きませんでしたなんて、七回も通じないわよいい加減」

「はい……」


 シルテのその言葉に、ララリアは着替えるためにフードを取った。


 ……凄かった。ララリアの顔は、声に似合わないシミやしわ、ぶつぶつだらけだった。思わず凝視していると、困ったように笑って彼女は言った。


「あんまり見られると、少し困ります……」

「ご、ごめんなさい! でも、それ、どうしたの?」

「……数年前、故郷で伝染病が流行って。多くの人が死にました。でも死んだほうが幸せだったんです。生き残った人は例外なく、痕が残ってしまいましたから」

「その、ごめんなさい」

「いえ……」


 そう言って彼女は奥の部屋へと向かった。あ。


「あの、私そこで着替えてもいいかな? 準備の邪魔しないから」


 他の女の子がいるところがどうにも居心地が悪い。


「え? それは構いませんけど」

「ありがとっ」


 こじんまりとした部屋の中で、隅のほうで急いでお着替え。それにしてもラストバッターかあ。出来る限り引き伸ばしてレトに助けてもらうしか……。チートがあるから私はまだララリアやフィリノよりマシなんだろうなあ。

 そんなことぼんやり考えていたら、奥に設置されていたピアノみたいな楽器から音が聞こえた。ララリアだった。


「……」


 思わず聞き惚れた。ララリアが奏でるその音色は、私が今まで聞いたどの音楽より美しい。やがて一旦休んだララリアに私は駆け寄る。


「凄い! 凄いよララリア! 綺麗な音色だった! これならララリア一番目立てるんじゃないの?」

「え、そんな……わ、私には無理!」


 ララリアは赤くなったあとに青くなった。


「舞台なんて、本当は出たくない。みんな、私を笑ってる。この顔を笑ってる。そう考えたら手が震えて、動かなくなって……」

「そんな、考えすぎじゃあ」

「でも、私みたいに醜い人なんてそうそういないでしょう」

「それは……」

「いいの。私みたいなのはのたれ死ぬのがお似合いなの。顔が醜すぎて、正攻法で行ったら門前払いされて、こんな場所でも比べられて……見下されて、笑われて……」


 地球の日本に居た頃の思い出が千沙の頭を駆け巡る。顔は普通だと思うが、性格がうじうじして嫌いと言われたのを理不尽だと思っていたが、今なら理解できそうだ。


「顔がどうにかなればいいの? 化粧とかすれば?」

「そんな高い物……」

「持ってる」


 常に持ち歩いている化粧ポーチを取り出す。


「で、でもそんなの、私なんかに使っても……」

「だあああああじゃあどーしたいの! 死にたいの! 馬鹿にされ続けたままでいいの! チャンスが来たら掴みなさい! 私が貴方のチャンスになる!」


 ララリアの肩をがつっと掴んで真正面に捕らえる。


「聞いていい? 肌は強いほう? かぶれやすいとかある?」

「えっと、かぶれやすい植物に触ってもかぶれたことは無いけど」

「OK。なら遠慮なく。動かないでね」


 化粧下地にコンシーラー、チークにファンデーション。マスカラ口紅アイシャドウ。……肌が弱くて無駄になっていた物が役に立って嬉しい。無事終わって手鏡で確認させる。


「どう?」

「これ、私……?」


 ぶつぶつを消したララリアは美人さんだった。色々化粧で見栄え良くはしてるけど、病気がなければ普通に美少女だった気がする。


「もう安心ね。これで演奏できるでしょ?」


 なにはともあれこれで悩みの種だった顔がどうにかなったのだ。これで……。


「……じゃ、無理」

「え?」

「一人じゃ怖い……」


 このやろう、と思わなくもないが、私も昔は人が怖かったからその気持ちは痛いほど分かる。


「私、演奏するから、えっと」

「名前? チサだよ」

「チサが歌ってくれない? 私、最後から二番目だから、一緒に……」


 いいのかな? まあ別にいいか。どうせここ壊れるし。


「うんそうしよう! あ、でも私、流行の曲とか知らない……」

「それなら、知ってるのを一度歌ってくれれば大丈夫。それで覚えられるから」


 天才じゃないですか。ってことは、天才の演奏をバックに歌うのか。ちょっとテンション上がってきた。そうだ、舞台前に衣装を……ララリアの腕が全てだから、私のは派手なのでメインに見せかけてと……ふふふ。





「それでは次の少女は……元貴族の娘、ララリア・リィン・ミルネルです!」


 紹介の時点で出るブーイングや野次。「ただ時間つぶしに来たんじゃねーんだぞ」 「ひっこめブス」 等々。今に見ていろ。


「あれ、君……」


 司会? の人が訝しく思ったらしく私に話しかける。やっぱり気づかれるか。でも何とかしてやるもん。


「ララリアとの友情出演で来ました! 二人一緒のほうが面白いですよ!」

「いやでも原則一人で……ぐふっ」


 みぞおちに一発。人身売買は時代によって、口減らしで死ぬしかないような子を救う措置でもあったというけど……私が来た経緯を見るに、綺麗な組織でもなさそうだからいいよね。結局食事出なかったし!


「あれー? 疲れちゃいました? しょうがないなあ。床に寝せておきますね! ……ララリア、いい?」

「う、うん」


 ララリアが鍵盤を弾いた。ずっとうるさかった観客達が黙りだす。



――世界が変わるときを見た それはあなたと会ったとき……



 元の世界で流行っていたアイドルの曲。いかに恋人が自分に影響を与え、それが嬉しいかを歌った、まあ良くも悪くも男に媚びた曲だ。そこそこ長いから時間稼ぎにもなるし、場にも合っていると考えての採用だった。


――ここに来て 私と話して それだけで私 死んでも構わない……


 静まり返っていた会場に囁き声が漏れる。


「歌はともかく、演奏がすごいぞ!」

「あんな演奏家が今までどこにいた? 良く見ると顔も可愛いぞ! 歌い手は別として」

「予定にはなかったが、あの演奏家は買おう! 歌ってる奴は……別にいいか」


 うるせーハゲども!



 曲が終わり、会場は拍手に包まれた。次々とララリアに買い手がつく。全員何とかして掘り出し物のララリアを取ろうと必死で私はガン無視。いいけどね。どうせカラオケ最高70だし。


「チサ、私どこに行ったら……ううんこれからどうしたら……顔のことだって……」


 支配人が値を釣り上げている裏でわたわたするララリア。その側で私は逃げる算段をしつつ、ララリアに色々と言い聞かせる。


「どこに行っても自分を安くしたら駄目だよ。ララリアは原石だった。ララリアの音楽は多くの人に聴かせるためにある! あ、これ渡しておくね」


 化粧ポーチをララリアに握らせる。


「え!? でもこれ」

「灰かぶりの神様は妖精を遣わして富を授けた……。でもお嫁に行ってからは灰かぶりの力でしょう? それまではこれ使って。あとは自分で頑張って、お金溜めて」

「でも、チサは?」

「私は……」


 天井の壊れる音を聞いた。オークションが長引いているうちに時間が来ていたらしい。ドラゴンのもとへ駆け出す。


「チサ!?」

「私は大丈夫だから! ララリア! どこかでまた会ったら演奏聞かせてね!」








 翌日、ドヴィスの街で何食わぬ顔をして道に落ちていた新聞を読む千沙とレト。


「えーと『美少女演奏家現る! 時を同じくしてドラゴンが出現 これは聖人が現れる際に来る鳳凰ではないかと……』 凄いなララリア。あれすらララリアのためになっちゃうとか」

「会場でのチサの歌、僕も聴きたかったな」

「昨日の夜やったじゃない。そんで苦々しい顔したじゃない」

「ぶ、舞台が悪いんだよ。夜の山奥とか場所が悪いよ」

「はいはい」


 昨日会場から難なく逃れた千沙とレトは、ドヴィスに戻って仕事探しをしていた。新聞や噂話を聞くたび、千沙はニコニコしている。


「良い事したあとは気分いいなあ! さあてお金溜めるぞ!」


 ケイトに会うためにも。

 そういえば、あの時助けたケイトは私のことどう思ってるのかな。ララリアの件で同じ立場になったけど。ケイトの中の私の割合ってどれだけなんだろうな……。

 会えないケイトがただ懐かしい。





「奇跡のピアニスト様、何を考えているのです?」


 あれからララリアはシルテと同じムルキーアに買い取られた。しかし奴隷としての待遇ではなく、才能を見込んで音楽家として。鳳凰が現れた吉兆といい、彼女の名前は世界に広まった。

 しかしララリアは驕ることなく、日々練習と伝道に勤しんでいる。それは金持ちには奇異に映るようだった。


「女神のことです」

「女神、ですか?」

「はい。この命ある限り、私は彼女を想うのでしょう」


 ララリアは鍵盤を叩きながら時折口ずさむ。


 世界が変わるときを見た それはあなたと会ったとき……

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