表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

≪―――夏月≫

(うん?)

≪強い魔力が編まれているのを感じます。結界、でしょうね。更に蓋をしてるという所でしょう。それから、この臭いは……≫

(そこまで念入れが必要な事態?)

≪ええ。中身は、おそらく瘴気です≫

(……おそらく? 狐月が自信なさげなのって珍しいね)

≪いえ、瘴気なのは確実です。ただ、有り得ないので………わかっても、認めたくないと言った方が正しいかもしれません≫

(どういう事?)

≪………濃いのです。とても。人界でこれほど濃い瘴気が、突然発生する可能性はゼロと言っても過言ではない程に≫

(そんなに…?)

≪人が何も防御手段を持たずに触れれば、即座に死に至ります。防御手段があったとしても……弱ければないものとかわりません。夏月、言いたくはありませんが、これは人界で発生したものとは思えません≫

(つまり?)

≪魔界、あるいは、天界。そのどちらかからの来訪者が引っ張ってきたものと思われます≫

(………なるほど。それなら、騎士団が出てきてる理由にも納得出来る)

≪夏月、こう言っては何ですが…≫

(言わないで。わかってるから。………予感的中って事だよね?)

≪ええ、残念ながら≫


 はぁ、と夏月が大きく息を吐き出したのに気付いたのか、夏哉が振り返る。


「どうした? 黙ってると思えば、溜息付いて。………ああ、また狐月と内緒話?」

「うん。だって、狐月の声、他の人に聞こえないから。……それで、兄さん。先生に話を聞いて私の事を呼びに来たって言ってたよね? 私が呼ばれた理由、兄さんも知ってるの?」

「半分はね」

「半分?」

「そう。話をしてもいいんだけど、途中で着きそうだから。それに、夏月なら………見ればわかると思うよ」


 首を傾げた夏月に、夏哉は苦笑した。













「……第2師団と………協会の人まで来てるの?」

「うん」


 軽い驚きを持って呟やかれたそれは、多分、その状況の目にした者の開口一番の科白としては間違っていた。

 でも夏月的には有りなんだろう、夏哉は肩を竦めただけだから。


「結界、幾つ重ねてあるの、これ?」

「幾つに見える?」

「う、ん……。3つ? ……違うかな、4つ?」

「惜しい。収束のが、基点を囲んで置いてあったりする」

「……そこまではわからないよ、流石に。見えないから」

「そっか」


 拗ねたように呟いた夏月に、どこか嬉しそうにして夏哉はその頭を撫でる。


「はい、そこっ! 仲良いのはわかったから、水代兄、仕事しなさい!! そんで妹はこっち来る!」


 叫び声を上げながら近付いてくる女騎士の姿に、夏月と夏哉は揃って肩を竦めた。

 つかつかと歩み寄り、眼前で立ち止まったのを確認してから夏月が一礼。


「おはようございます、(みやこ)さん」

「おはよう、夏月ちゃん。朝からごめんねー。うちの馬鹿弟が毎度お世話になってる上に」

「こちらこそ、です。来栖先輩と打ち合うのって結構勉強になりますから」

「わがまま言って住まわせてもらってるんだから、ガンガン使ってやって。……で、夏哉。あんたはとっとと仕事へ戻れ」

「……都、酷っ! 夏月との態度差激しくない?」

「可愛い子と可愛くない子に対する態度だ」

「………それに仕事が忙しくって、夏月とゆっくり話すの久しぶりなのに」

「五月蝿い、黙れ。談笑してる場合じゃないだろ、阿呆。ほら、さっさと仕事しろ。遊びに来たんでも、授業参観に来たんでもないだろ、お前は」

「都、本当、毎度の事だけどさ… 「だったら言うな」 ……女の子なんだからその言葉遣いはどうかと思うよ」

「子じゃないから」

「じゃあ女性なんだから」

「今更直せるか阿呆」

「だから男が寄り付かないんじゃないか?」

「余計なお世話。だいたい、妹に先越されたお前にだけは言われたくな 「来栖隊長ー! 外壁もう1つ必要とか言ってますよ~!!」


 背後からかかった声に、都は舌打ちした。


「了解、すぐ戻る! ………ったく、めんどくさい。今日は休みで春奈と出かける予定だったのに」

「方や春奈はすでに既婚者、方や都は未だ独身。そんな幼馴染2人でどこでかけるんだよ? だいたい、春奈、身重じゃないか」

「お前に言う必要はない! それとまだ妊娠2ヶ月で、見た目には全然わかんない。だいたい動かないでいる方がよくないんだよ。お前は知らないだろーけど」

「まぁ、オレ男だからな」

「将来お前の嫁になるヤツに同情する、絶対苦労するからな。変態シスコンめ」

「変態じゃないよ」


 笑って反論する夏哉。シスコンは否定しないらしい。

 その姿を一瞥し、都は溜息を吐き出して夏月に向き直ると、その手を掴む。


「んじゃ、夏月ちゃん。こっちへ。四郎さん、おどおどびくびくして小っちゃくなってるから」

「はい」

「って、待て、都。話はまだ終ってな 「暢気に話してる暇はない」 ……今更」

「今更言うな」

「………兄さん。私、先生に20分で行くって言ったのに、時間、かなり過ぎてるから。これ以上待たせると、先生の私に対する信頼度に影響があると思いますし」


 その科白に、夏哉と都は顔を見合わせて 「それは絶対ない」 とアイコンタクト。

 

「それに、仕事中って普段とは違う顔してるって良く聞くから、兄さんの仕事してる所って見るの今回が初めてになるから。そういうのが見られるなら、早い時間に呼び出されたのも少し嬉しいかもしれない」

「そうか。じゃ、オレ持ち場に戻るから、都、後宜しくな」

「おい、変わり身早すぎだろ。お前こそなんだその態度」

「都、わかれ。妹の期待に答えたい兄の心を」

「わからんし、わかりたくもない。だが、まかされた。さっさと行け」

「頼む。じゃ、夏月。またな」

「はい。兄さんもお仕事頑張って下さいね」


 夏月の科白に超笑顔で頷いて、夏哉はそんな必要もないのに颯爽と走り去った。

 その背を少しだけ見送って、都がげんなりと息を吐き出す。


「一生結婚出来ないだろう、アレ」


 首を軽く左右に振りながらの科白に、夏月は肩を竦める。


「まぁ、いいや。行こうか。中入った所にいるから」

「大丈夫なんですか?」

「え、あー…うん、2つ内側だけど。それに一応、中でも作業してるしね。もう名残だけだし、夏月ちゃんなら大丈夫だろ」

「有り難うございます」

「例を言われる事じゃないよ、正当評価」


 そう言って歩き出した都に夏月が並ぶ。

 1番外側で数人の騎士が溜まっていた所で、 「ちょっと待ってて」 と言って都がそこに混ざりに行く。

 1分もしないで戻って来てからぽつりと一言 「本部に言えっつーの」 と愚痴ってから苦笑した。

 

「夏月ちゃん、騎士団は入るもんじゃないよー。あちこちめんどくさいし、休み返上当たり前だし」

「でも、その分、安定した高給取りじゃないですか」

「そ~なんだけどねー」

「………2人とも、そういう話はせめて小声でしようね」


 結界を1つ内側へ入ったところで苦笑したシノッチが待ち受けていた。腰の低い苦言とともに。

 本来ならそこはびしっと注意すべき所なんだが。


「四郎さん、聞いてました?」

「すまないね、来栖君。しっかり聞こえてしまいました」


 謝る必要は皆無だ、シノッチ。

 そしてこの腰の低さ加減に都は苦笑する。他の人間だったら確実に口止め工作――睨む、殴る、脅す、他――をするが。


「篠崎先生、改めて、おはようございます。遅くなって申し訳ありませんでした」

「おはよう、水代君。急だったから、少しくらい遅れても全然大丈夫だよ。それにこちらの都合なんだから」

「それで、何があったんですか?」

「うん、それがね……。ああ、体感(・・)して貰った方が早いかな。もう2つ中へ」

「2つって、四郎さん!」

「大丈夫。残痕以外は綺麗になってるから。その内側はまだ作業中だけどね」

「………先生、1ついいですか?」

「うん? 質問は歩きながらね」

「騎士団に魔術師協会まで来てるような状態を、ちょっとごたごたしてる、で済ませられる先生を、改めて尊敬し直しました」

「えっ!?」


 ポイントがずれまくってる上に、私もまだまだですね、などと苦笑する夏月。

 それに突っ込みもせずに、何を聞かれるかと思えば“尊敬し直した”とか言われてしまったので本気で照れるシノッチ。

 都は苦笑して「あぁ……」とか呻いている。

 緊張感が足りません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ