六月
〜六月〜
そのまま五月はすぎた。
そして六月。婚約のことも囁かれなくなった頃、へんな話を職員室で聞いてきたと、誰かが言い出した。それを一番に聞いてきたのは、木村だった。野球で他のクラスに知り合いが多いせいか、こういう話は一番に伝わるようだ。
それは、いつのまにか、一緒に食事をするようになった場でのことだ。
「なんでも、テストでへんな点数の奴がいるらしい。」
「へん?どう、へん?」
亜紀が聞く。
「あ、俺もちょっと聞いた。」
田中に先を越されないように、急いで木村が続けた。
「なんでも、五十点なんだと。」
「何が変なの?真ん中ってだけじゃない。」
近藤が言った。
「ちがうんだな。全試験、ちょうど半分なんだと。」
「すごいけど、偶然でしょ。」
「どうかしら。」
東さんが言い出した。
「なに、どういうこと?」
「だって、五十点っていうのは、百分の一の確率でしょ?」
「え、半分じゃないの?」
亜紀が言った。
「ばーか。」
オレが言う。
「なにが?だって、百の半分じゃない。」
どうも亜紀にはわかっていないようだ。
「あとで、説明してやるから。それで?」
木村は先を促した。
「それが、五科目全部だとしたら?百の五乗分の一よ。そんなことあるかしら?」
「すごい確率だな。」
田中も感心している。
「そういえば、俺、さくらちゃんの斜め後ろだろう?あの子、あんなに英語が話せるのに、テストの点数、五十点だったな。」
なんだか、無言になった。
「え、なんか、まずいこと言った?俺。」
「ただいまー。」
さくらが戻ってきた。じゃんけんで負けて、全員分のジュースを買いに行かされていたところだ。
「あ、オレ、いちごー。」
「俺のはこれ。亜紀はこれだよな?」
「うん。」
「ご苦労だった。」
このゲームの言い出しだった田中はなんだか、満足げだ。
「うん。」
走ってきたようで、さくらはちょっと息切れをしている。
「あれ、さくらちゃんの分は?」
東が言う。テーブルを見渡すと、一つ足りない。
「あー。買い忘れたー。行ってくるー。」
さくらは再び、ぱたぱたと走りだした。
「元気だねぇ。結構距離あるのに。」
田中が言う。
「さくらちゃんって、家でなにしているの?」
近藤が聞いた。
「なにって?えーと、犬とじいさんの墓を磨いたり、料理作ったり。そんなもん?」
「今度、遠藤君の家に遊びに行ってもいい?」
東が言い出した。
「え、あ。うん。いいよ。いつくる?」
「あ、俺も行く。」
「あたしも、久しぶりに行こうかなぁ。」
「明日は?」
「いいねぇ。オレの部活休みだし。」
オレを置いて進められていく話に、オレは目を丸くした。
「待てよ、全員くるのか?」
「いいじゃないか、広いんだから。」
唯一、家に来たことがある亜紀が言った。
「そうだけど。」
オレは東さんだけに来て欲しい……。
「ただいまぁ……。」
へろへろになりながら、さくらが帰ってきた。
「早く食わないと、弁当の時間終わるぞ。」
「はーい。」
さくらは急いで、食べ始めた。なぜか、そのまま話は昨日のテレビの内容へと移っていった。
「じゃ、またね。」
さくらはいつものように先にクラスから出て行こうとした。
「待てよ。今日はみんなで帰るぞ。」
オレはなんとなく、それを止めた。
「みんな?なんで?」
「うちにくるんだ。」
「うち?って、家ってこと?」
「そうだよ。」
「え、これから?」
「そうだよ。なんだよ、オレの家だぞ。なんか文句あるのか?」
「……ないけど。」
「じゃ、行くぞ。」
そのままゾロゾロとクラスを出ようとしたときである。
「遠藤、待った。」
振り返ると、担任がなにやら、紙をひらひらさせている。
「お前、このプリント、出していないだろう。今日提出だ、いますぐに出せ。」
「えー、どこやったかなぁ。」
カバンをごそごそと探し始めた。
「おい、早くしろよ。」
「どうして出さないのよ。」
「まだか?」
「勇太。私、お墓に行くから先に帰るね。あとでね。」
さくらはそう言った。
「あーはいはい。」
オレは適当に返事をして、がさがさとカバンの中を捜しつづけた。
「あった。」
プリントはカバンの中ではなく、机の中にあったのだ。
「やっとかよ。」
待ちくたびれて、田中は椅子でまんがを読んでいた。
「悪かったよ。あれ?さくらと東さんは?」
「さくらちゃんは先に帰るって。理江はなにか、さくらちゃんに話があるからってついていった。」
「なんだぁ?」
「俺、思うんだけど。東って、なんかさくらちゃんのこと、気にしているみたいだよな。」
「あー、俺もそう思う。なんでだろう。近藤さん、知っている?」
「詳しくは知らないんだけど、なんか、さくらちゃんをどこかで見たことがあるらしいの。」
「どこで?」
「それは思い出せないんだけど、それがずっと気になるみたい。」
「へぇ。それでか。」
「あー、思い出せないとすっきりしないもんねぇ。」
「とにかく、行こうか。あとで、さくらちゃんが帰ってくれば、東さんもくるだろうし。」
「そうだな。」
そう、オレは言ったが、なんだか、妙な気分になっていた。東さんはさくらを一体、どこで見たのだろう?
そのころ、東はさくらの後を追いかけていた。駅までの歩き、電車の中。東はその後ろ姿を見ながら、考え込んでいた。
『どこで、見たんだっけ?』
さくらはそのまま、家のある駅を過ぎて、他の駅で降りた。そして、そのまま改札から出て行った。
『しまった。このままじゃ、出られない。』
定期で入った東は当然、自分の遺影のある駅以上に進めば改札から出ることはできない。急いで清算をして、さくらが向かったほうへと走っていった。
『いない。』
そこを通りかかった人を捕まえてみた。
「あの、この辺に墓地ってありませんか?」
「さぁ?」
三人目でやっと墓地の方向を教えてもらい、東はその方向に向かって歩き出した。




