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校長室へ

  〜校長室へ〜


 はっきり言って。ごく普通の、一般の生徒が校長室に入ることなんてほとんどないのではないかと思う。

 月曜になってやっと校長が戻ってきたのだ。

 昼休み。オレは思い切ってドアをノックした。

「はい?」

「失礼します。」

「はい、なんでしょう?」

たしかに、普段、壇上で見る顔がそこにあった。こんな顔だっただろうか?近くで見ると、なんとなく、印象が変わる。

「あの、オレ、一年四組の遠藤と言います。さくらがお世話になったみたいで、定期代を持ってきました。」

「さくら?」

「はい、あの。うちのクラスの転入生です。校長先生が連れてきた。」

苗字を知らないのだから、他にいいようがない。しかし、それだけでわかったようだった。「ああ!それで、わざわざ?いやいや、どうも。」

「いえ、こちらこそ。」

「そうか、君が勇太君かい?」

「……はい。」

「ああ、そうか、さくらさんから聞いたよ。婚約者だってね。」

「ええ……まぁ……。」

まさかこんなところで、それはじいさまの勝手な遺言だとはいえない。

「ああ、じゃ、受け取るよ、どうもありがとう。」

「こちらこそ。」

オレは校長に封筒を渡した。ついでに聞いてみた。

「あの、校長先生の家ってこの学校の近くって聞いたんですけど、本当ですか?」

「そうだよ。歩いて五分くらいのところだ。」

「じゃ、どうしてあの日、さくらと一緒に電車に乗っていたんですか?」

「……。まぁ、いろいろあってね。あ、君、もうそろそろ、次の授業が始まるだろうから、戻りなさい。」

「あ、はい。失礼します。」

オレは目が点になっていた。なんだ、あの急な追い返しは?教室に帰って、東さんにそのまま伝えた。

「教えてくれなかったよ。」

「そう……。」

「なんの話?」

さくらがやってきた。

「定期代。」

「定期代?」

「校長に返してきたんだ。」

「ああ、ありがとう。あ、チャイム。」

 さくらはぱたぱたと走った。そんなに走るような距離でもないのに。


〜家族〜


 ある日。

 帰宅をすると、今の前で母親が中をうかがうように見つめていた。

 そっと俺が近づいていくと、びくっとしたように振り返ったが、オレだとわかると明らかにほっとしたようだった。

「なに、してんの?」

「ううん、別に。おかえり。」

「ただいま。なに、父さん、帰っているの?」

「ええ。お母さんと、さくらちゃんと仲良く話しているわ。」

なんだか、オレはその言葉に寂しさを感じた。

母さんが立っていた場所にオレもたって中をのぞきこんでみた。すると。その光景はなんだか、家族のようだった。孫とお婆さんと父親。秘密の共有。オレと母さんには知らされていないさくらのことをあの二人は知っているのだ……。母さんが寂しく思っているのではないかと、ふとオレは思った。


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