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帰宅後

〜帰宅後〜


 家に帰ると、やっぱり台所が騒がしい。覗き込んでみると、ばあさまとさくらが、ああでもない、こうでもないとなにかやっている。

「あ、お帰りー。今日は煮物だよー。」

「ああ。」

「お帰り。着替えておいで。もうすぐ、できるよ。」

「わかった。」

 オレは自分の部屋に向かうと、じいさまの部屋が開いている。いまはさくらが使っている部屋だ。覗き込むと母さんがいた。

「母さん。」

 びくっとしたようにこわばった顔のままでこっちを向いた。オレだとわかると、ほっとしたようだった。

「ああ、びっくりした。なんだ、お帰り。」

 そう言いながら母さんは部屋から出てきた。

「何、していたの?」

「ううん、別に。」

 そういって、母さんは居間のほうへ歩いていったが、オレは着替えながらぼんやり考えていた。母さんはさくらのことを調べていたのではないだろうかと。

 着替えが終わって食事のテーブルに行くと、もうほとんどが並べられていた。母さんは椅子に座っている。オレも何も言わないまま座り込んだ。

「あー、勇太、運ぶの手伝ってよ。あ、由里さんは座っていて。」

 立ち上がった母さんをさくらは座らせた。

「ほら、勇太。」

「わかったよ。」

 しぶしぶながら、オレは台所に取りに行った。

「あら、勇太がくるなんて珍しい。いつも由里さんにやらせているのに。」

 ばあさまも目を丸くした。

「別に、やらせているわけでは……。」

 オレはそういったが、自分が一度も自分の食べる物を運んだことがないことに気がついた。

 インターホンが鳴る。

「あ、勇介かも!」

 さくらはあわてて玄関へと向かっていった。ばあさまと母さんがそれに続いた。


 だが、来たのは父さんではなく、弁護士だった。

「勇太さんに、五十万渡しにきました。」

 そして、そのまま封筒をオレに渡すと、弁護士はぺこりとさくらにも、頭を下げて帰っていった。

「本物だ。」

 中を覗くなりオレは無意識に言った。

「へぇ、ホントだ。」

 さくらも覗き込んでいる。

「見るなよ。」

「いいじゃん、見たって減らない。」

「減るんだよ。」

「ほら、しまってきなさい。」

「うん。」

 母さんの一言でオレは自分の部屋の引き出しに閉まった。そして定期代金のことを思い出した。明日、校長に会わなければ……。


 翌日。校長は休みだった。なんでも出張らしい。

 その次の日もいなかった。

そのまま土日になった。めずらしく、朝起きると、父さんがいた。いつものスーツではなく、洋服に着替えてコーヒーを飲んでいる。

「あれ、どうしたの?珍しいね。家にいるなんて。」

「いや、さくらちゃんにあっちこっち案内でもしてやろうかと思ったんだが……。」

「が?」

「でかけてしまってね。」

「でかけた?どこに?」

「母さんたちと、父さんの墓参り。」

「じいさまの?あ。オレ、全然、サクラの墓の面倒みていないや。」

「おいおい、父さんの遺言なんだから、しっかりやらないと。」

「まぁねぇ。なぁ、父さん。」

 オレは自分の分のコーヒーを入れながら、話しかけた。

「なんだ?」

「さくらはどこから来たのさ?英語は話せるし、本はフランス語だし。どこの国の人?」

「なんだ、結婚する気になったのか?」

 オレは飲みかけのコーヒーを噴出した。

「そんなわけないだろ!結婚なんかするかよ!」

「それじゃあ、聞いてもしょうがないだろ。そこ、拭いとけよ。」

 そういい残して、父さんは自分の書生へと戻っていった。

 「口が堅いなぁ……。」

オレは素直にテーブルを拭いていた。


「ただいま。」

「おかえり。」

 玄関前に迎えに行くと二人だけだ。

「あれ、さくらは?」

「一代目のほうのお墓を見てくるって。あんたは行かなくていいの?」

「……行くよ。」

 オレは着替えて出かけることにした。サクラの墓はじいさまの墓とは違う場所にある。桜がもっときれいなところのほうがいいだろうと、じいさまはある土地を買い取って、そこに桜の木とともにサクラを埋めた。 

「つまり、歩かなきゃいけないってことなんだよな!」

 山の上のほうを買い取ったせいか、車でもいけず、歩くしかない。しかも、結構歩くのだ。なんでも、サクラと通った散歩道らしいが……。

「まったく、もう……面倒だな。」

 愚痴も出るというものだ。

「あれ……あ、いた。」

 桜の木が見えてきた。さすがにこの時期はただの緑色の葉っぱしかないが。

もっと近づくと、さくらが見えた。オレはそのとき、何を思ったのか、驚かすことを思いついた。後ろから、そぉっと近づいて……。そのとき、小枝を踏んだ。ぽきっと音がするなり、さくらは振り返り、拳銃を向けた。目もにらみつけるように鋭い。オレは慌てて、手を上げた。

 さくらは、ほっとしたように銃口を下ろした。

「なんだ、勇太か。」

「なんだじゃないだろ、なんだよ、それ!なんでそんなもの、持ってるんだよ!銃刀法違反だぞ!」

「これ?おもちゃだよ?」

「……え?」

「中身はただの唐辛子水。なめる?からいよぉーーー。」

「いい。いらん。おもちゃにしても、なんでそんなもん……。」

「あら、だって、か弱い乙女一人じゃ、襲われるかもしれないでしょ。いまの勇太みたいに。」

「誰も襲ってないだろ。」

「どうだかー?」

「誰が襲うか!」

「はいはい。それより、どうしたの?こんなところまで。いままで来たことなかったのに。」

「別に。金、もらったから来てみただけだよ。結構、綺麗じゃん。」

「うん。そうだね。」

「これなら、しばらく来なくてもいいかもな。」

それにさくらは答えずに、ポツリと言った。

「本当にそぉ?」

 それだけいうと、さくらは思いっきり山を走って降りていった。

「おい!」

声をかけたが振り返ることなく走っていった。

「なんなんだ?」

 桜の木だけが、なにやらざわざわと葉っぱを鳴らしていた……。


「お墓、綺麗だったでしょう?」

 家に帰ると、ばあさまが聞いた。

「そうだね。」

「そりゃあ、あの子が雨の日以外は、磨いているからね。」

 母さんも言った。

「そうなの?」

「知らなかったの?」

 そういえば、放課後はいつも用があるからと先に帰る。それはこのためだったのだろうか。じいさまの部屋のドアはしっかりと閉められていた。


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