食事風景
家に帰ると、台所のほうが騒がしい。覗いてみると、母さんとさくらがなにやらやっている。
「こう?」
「こうよ。」
「ただいま。」
「あ、勇太、おかえり。いまねぇ、勇太の好きなチキンの煮物を習っているの。もうすぐできるよ。」
にこにこしながら、さくらは言ったが、オレには関係ない。
「あっそ。着替えてくる。」
そう言って、オレは自分の部屋に戻った。着替えてから、そのままオレはばあさまの部屋に向かった。
「ばあさま。」
「ああ、おかえり。なんだい?」
ふすまを開けると、ばあさまはなにやら、アルバムをめくっている。
「なにしているの?」
「ふふふ。あの人と出会ったときの写真を見ているの。」
当然白黒だが、清楚な女性と、ふさふさに髪のあったじいさまが笑って立って、映っていた。
「……なぁ。ばあさまとじいさまはなんで結婚したんだ?」
「お見合いよ。」
「へぇ。初めて聞いた。そのときに好きだった人とかいなかったの?」
「いたけど、病気で亡くなってしまって。そのあと、あの人に会ったの。あの人は優しい人でね。一緒に墓参りにも行ってくれたのよ。それで、決めたの。あの人と人生を一緒に歩んでいこうって。」
ばあさまは写真をそっと抱きしめて、懐かしそうに目を細めてかすかに笑った。
「……オレさ。好きな子がいるんだよね。もちろん、まだ結婚したいってわけじゃないけど。やっぱり、さくらと結婚しないと、まずいかな?その、全然好きじゃなくても。」
「……。」
「やっぱり、遺産が全部寄付されたら、生活に困るよね。婚約破棄とかできないよね。なんで、じいさまはあんな遺言を残したのかなぁ。」
ばあさまは少し寂しそうに言った。
「……そんなことにはならないと思うわ。」
「え?」
「ご飯よー、うめちゃぁーん。勇太、どこー?」
遠くからさくらの声が聞こえてきた。
「さ、ご飯だって。行こう。」
「ば、ばあさま?」
振り向くことなく、ばあさまは食事の部屋へと向かっていった。食事中もばあさまはさっきのような寂しげな顔は見せることなく、にこにこと食事をしていた。あれは、どういう意味だったのだろう?
「勇太、おいしい?」
「別に。」
「……由里さん、つまんないねぇ、反応が何もないなんて。」
「そうねぇ。でも、慣れていくものでしょう。」
「へぇ、そうなんだ……でも、勇太郎は由里さんの料理はおいしいって言ってたよ?体のことも考えて、塩分は控えめになっているし、勇太たちとは別に作ってくれていたって。」
「そうなの?」
初めて聞いた話だ。
「え、ええ。だって、あなたたちとお母さんたちじゃ、中心になるものも違うし、味だって違うから。」
「いつも、ありがとう、由里さん。」
「そ、そんなお母さん、お礼なんて。」
急に改めてお礼を言われたせいか、母さんはオロオロしだした。
「じゃ、明日はうめちゃんの番だね。」
「なにが?」
「明日は由里さんはお休み。うめちゃんに料理を教わるの。」
「え?」
オレは考えてみた。思い出す限り、ばあさまが台所に立っていた記憶がない。
「料理なんてできるの?」
「こら、勇太!」
「だって、台所にいるの、見たことないよ?」
「ほほほ。そうでしょうね。最後に台所に立ったのは、あなたが由里さんのお腹にいる時だったから。本当はね、勇介が結婚した時に、もう台所はお嫁さんのものだと、完全に明け渡したのよ。でもねぇ、あんまりにもつわりがひどくて、さすがに見ているだけっていうのもねぇ。そのときだけは手伝ったのよ。」
「へぇ。」
「ただいまぁー。」
「あ、勇介だ。迎えに行ってくる。」
さくらはばたばたとかけていった。つられるように、母さんもばあさまも玄関へと迎えに行った。オレは飯を食いつづけながら、ばあさまが台所に立たなくなったのは、その頃からだったのかと、ぼんやり考えていた。




