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平和な結末

平和な結末


「さくら!」

勇一は帰ってくるなり台所にきた。オレはこんなに慌てている兄貴を見たことがない。

「あれ?さくらは?今日は来ていないのか?」

「こっちにいますよ〜。」

 さくらののんきな声が聞こえた。

居間から声がした。

「そこか。リーマン社が倒産したぞ!」

「知っていますよ?」

 さくらは、のんびり言った。

「もう?なんで?」

「兄の経営方針がぎりぎりにまできていることがわかっていましたから。」

「じゃ、遺産を受け取っても無駄と言うことか……。」

 後ろからオレは言った。

「彼にはそうでしょう。私は一番小さかった頃のリーマン社を持っています。だから私の会

社が本社になります。」

「どういうこと?」

「名前だけが残ったってことよ。」

「そうだが、みすみす潰さなくても……知っていたなら、なにか手を打てたんじゃないか?」

 兄はなんだか、しぶそうな顔をした。

「いいえ。自分が盛った毒を自分で食べるときがきたのです。多分これからの人生は逃げる

か裁判かの一生でしょう。父は言っていました。自分のことは自分でと。」

きっぱりと言ったさくらの言葉に兄貴はなにもいえないようだ。

「今日はもやしとお肉の炒め物です。食べて行きますか?」

「もらうよ。」

「はい。」

さくらはにっこりと笑った。


 さくらは、本当に家を買っていた。と、いっても、本当に近くで、よくここに母さんたちに料理を習いに来ている。向こうの暮らしが長かったせいか、ほとんど日本料理を食べていないらしく、習うのが楽しいのだとさくらは笑っていた。

 犬のサクラの墓にもじぃさまの墓にも本当にお参りをしていた。

「夏服にしたのか?」

「うん。今日も暑いねぇ。」

さくらは空を見上げた。てくてく歩きながら、オレは東さんのことを聞いてみた。

「理江さんがみたのは、私とボディガードとの会話だったの。」

「ああ、あのオタク風の。見事に騙されたよ。」

「あら、あれは、彼の趣味。本当にあの格好が好きなのよ。下には、防弾チョッキ着てるんだけどね。」

恐ろしい、日本文化の広がり方だ。

「じゃ、東さんを襲ったのは?」

「他のグループみたい。」

「他の?」

「私を狙っているのは、兄さんだけじゃないのよ。他の会社のメンバーもいるし、テロリストなんかもいるし。誘拐のターゲットになるからね。」

「え、今も?」

「今は、完全にはないとはいえないけど、減ったわね。日本だし。」

「へぇ。」

「相手に交渉するのに、三日もかかっちゃって、大変だったけど、彼女が無事でよかった。こんなことがないように、一人で帰っていたのに、まさか、後から付いてきているとは思わなくって。」

「だから、先に帰っていたのか?え、でも、行きは?」

「行きの人数よりも、帰りのほうが確実に人が少ないでしょう?」

「なるほど。」

「それに勇太郎の家の作りもよかった。」

「そうか?」

「うん。必ず、誰かに見られる場所に家があった。こっそり行動っていうのは難しいくらいに。」

「あ、かもね。」

 電車に乗ると、さくらは言った。

「木村君がいないね。」

「ああ、試合が近いからね。」

「そうなの?」

「ああ、夏だからな。」

「へぇ。あ、そうだ、もうすぐ、勇太郎が好きな東さんが乗ってくるね。」

「な、なんだよ、いきなり。」

オレは急に言われて、真っ赤になった。さくらはそんなオレを見て、笑った。

「あたしね、家を買ったのはね、正々堂々と理江に勝って、勇太郎に振り向いて欲しかったからなの。」

「へ?」

「一緒に住んでいれば、たしかに有利だけど、それじゃあねぇ。」

「そ、それだけで、あのでっかい家、買ったの?」

「そうよ。あ、理江だ。おーい。」

さくらは手を振った。たしかに、東が笑いながらやってくる。オレはなんだか、まだまだ女性たちに振り回されるような気がしていた。



〜おまけ〜


「お前、今度、さくらと同じ学校に行くんだって?」

男は、蒲団の上でタバコを吸いながら言った。

「ああ。親父が、あの子を落とせってうるさくてな。」

「あの子は遺産なんか、持ってないぞ。」

「知ってる。けど、会社経営の才能があるからな。父さんはそれが目当てなんだろ。」

「本気で落とすのか?」

「まさか。女性は好きじゃない。勇次だって、さくらをくどいたんだって?本気なの?」

「あいつは、オレたちの関係知ってるんだぞ。」

「え?」

次郎は目を丸くした。

「そうなの?」

「ああ。ちょっと脅したら、言っていた。「次郎さんが泣きませんか?」って。」

「そんな……バラされたら、僕らは……。」

「次郎。」

勇次は、次郎を抱き寄せた。

「さくらはばらさないだろうが、どうしても、というときは、オレと来ないか?遠藤家を捨てて。」

次郎は少し、勇次の目を見つめていたが、にっこりと微笑んだ。

「ああ、あんたさえいればいいよ。」

声は再び、暗闇の中に紛れ込んでいった。



                                      完


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