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さくらの帰還

〜さくらの帰還〜


静かになったその時、急に音が鳴った。

「携帯?」

「誰の?」

「……!じぃさまのだ!」

全員の目が普段からじぃさまが充電していたその方向を見つめた。

「はいっ!もしもし!」

「なんで充電してあるんだ?」

 こっそり、兄が言った。

「さくらちゃんが使っていたのよ。」

「さくら!大丈夫か?」

家族中の視線がオレに集まった。

「……は?え、じゃあもうすぐ……。」

ピンポーン

「俺、開ける!さくらだ!」

どたどたと全員で玄関へ行くとたしかにそこにはさくらがいた。

「遅くなりまして。ただいまです。」

「お、おかえり……。」

ばぁさまは泣き出し、少なくともオレは安堵した。


 ようやく、全員が揃って、リビングの大きな机に座っていた。遺書が最初に読まれた、じいさまの葬式のようだった。

「じゃ、お父さんの死目には会えなかったんだな。」

 オレは言った。

「会えないのは最初から知っていたわ。私も、お父様も。だから日本にくるまえに挨拶をしてきたわ。それからこれからどうなるのかも。」

「どうなるって?」

 兄さんが聞いた。

「基本的には、一番上の兄さんが遺産を相続すること。他のものは、他の兄弟たちで分けること。私はお父様の葬式まで戻ってこないこと。それと……いままで育ててくれたお礼。」

さくらは寂しげにほほえんだ。

「確かにお父様は厳しい人だったし、忙しくて会えなくて、寂しかった。それでもお父様なの。会社が大きな利益を上げたときくらいしかほめてくれなかったけど、愛されているのだと思わせてくれたから。」

さくらはにっこりと笑った。

「あなたのおじいさまはもっと素敵な人だったけど。」

「じぃさまがねぇ。」

「勇太郎は、本当に、本当にすばらしい人だった。その勇太郎から、手紙をもらって。それもわざわざ、柊さんが自分の手で持ってきてくれて。この家に来ないかと言ってくれたときには、本当に、泣いたわ。そして、二つ返事で行くといったの。」

「お葬式にもこっそり参加できたし。ここで暮らせてよかった。」

「さくら、あんた、向こうに戻るのかい?」

ばぁさまは静かに聞いた。

「ええ。」

「そうか。」

「でも、ちょっとの間だけです。」

「え?」

「実は、海藤さんと話を進めているんです。会社の権利を譲り渡そうと。そして、私は、母国に戻ろうかと。」

 海藤氏はにやりと笑った。

「つまり、日本ってこと?」

「ええ。」

「じゃ、うちにいるのかい?」

「いえ、それは。でも、近くにもう家を買いました。」

「買った?なんでだい?ここに住めばいいのに。」

「いえ。これでは、フェアな戦いにはなりませんからね。」

「フェア?戦い?」

「いいんです。あ、それと、全部解決したら、勇太郎の声を持ってきます。」

「声?」

「はい。勇太郎が最後のメッセージをくれました。育ててくれた父のお葬式から二週間がすぎたら、こっちに送られてくるはずです。」

さくらはにこやかに笑った。


 〜じぃさまの声〜


二週間後。本当に、ディスクが一枚送られてきた。それを聞くにあたって、本当にいとこまで含む、全員が集まった。さくらはまだ向こうにいた。まだ、手続きが難航しているようだ。

「……。えー、おっほん。」

「じぃさまの声だ。」

「静かに。」

ばぁさまがたしなめた。

「皆さんがこの、私の声を聞いているということは、ほとんど、片がついていることだと思う。これは、私、勇太郎からの最後のメッセージである。おそらく、梅子はさくらを向かいいれてくれただろうし、太郎も勇介もさくらを向かいいれることに反対はなかったものと思いたい。さて。これより、勇太郎とさくらの婚約を解消する。」

「え?えええ?」

本人がいないというのに、オレは声を上げてしまった。

「さくらも勇太郎も誰と結婚してもよいとする。もちろん、全員の遺産相続は最初にしたままとする。」

「よかった。」

ほっとしたように、叔父は言った。

「そして、さくらが三十までに誰とも結婚しなかった場合、我、遠藤家の養子にする。その件については海藤氏にお任せする。」

「養子……。」

「皆の者、いろいろあって、申し訳ない。しかし、その騒ぎで、私がいなくなった寂しさもなかったことだろう。みな、仲良く、幸せに、長生きしてくれたまえ。以上。最後に、梅子、長い間ともにいてくれて、ありがとう。」

そして、ディスクは止まった。

 ばぁさまはそれを取り出すと、本当に、大事そうにそっとケースにいれて、部屋へともって帰った。


そして、その日。

 みんなで食事をした。葬式以来、全員が集まっている。

 梅は食事風景を眺めながらさくらがきた理由のことを考えていた。

 さくらが遺産だと言っていたのは、勇太郎のためではなく、さくらだけのためではなく、この家の為ではないかと。

 自分が若いころに、台所を譲ってもらえなかった悲しみから、お嫁さんにはできるかぎりすぐに譲った。でも夕飯ができるまで部屋に閉じこまっていた。

 息子は忙しくて、話など出来なかった。

 孫たちは出て行ってからじいさまの葬式まで一度も顔を見せなかった。

 勇太郎は家にいたけれど部屋からでてこようとしなかった。

 食事も一人だけ、和食。服を洗うのも自分の分だけ。できるだけ手を煩わせないように迷惑をかけないように生きてきた。

 けれど、さくらが来てから変わった。料理を作り始めた。服を洗い出した。さくらと一緒に墓まで出かけることも増えた。

 家を出て行った孫の二人はさくらの素性を心配してか、家に来たりこっそり電話をくれたりした。

 まるでじいさまと犬のサクラが生きていたころのように、サクラを話の中心にするように、リビングに人がいる。

どうかした?

「え?」

「箸、止まってるけど。」

 勇太郎が言う。

「あ、あら、いやぁねぇ、ぼんやりしてて。」

「あ〜、あんまりぼーとしてると勇太郎にコロッケ取られるよ〜。」

「なんでオレなんだよ!」

「ムキになるところがあやしい。」

「兄さんたち!」

 みんなが笑った。



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