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耳打ちの言葉

〜耳打ちの言葉〜


「そうだったのかい。」

 ばぁさまがポツリと言った。

「そうだったのかいって知ってたんじゃないの?」

オレを筆頭に周りは目を丸くしていた。

「なんで私が知っているのさ。」

 ばぁさまは、それはそれで驚いたようだ。

「だって一番に最初にじぃさまからの伝言だってなにか耳打ちされていたじゃないか。それで知っているのかと……。」

「違うよ。あれは本当にあの人からの伝言だった……。さくらはね、こう言ったんだ。私はあの人の妹の生まれ変わりだとね。」

「妹?じいさんに妹なんかいないぞ。」

 父さんが言った。

「いないよ。だから生まれ変わりなんじゃないか。」

「亡くなられたんですか?」

 母さんがためらいがちに聞いた。

「ああ。私とあの人が結婚してすぐに。病気でね。だから私以外は誰も知らないとは思う。あるとき、犬を拾ってきたあのひとが名前をサクラにしたとき、そっと聞いたんだ。そうしたら、これは犬だから違うだろう、だけどもし人の姿なら生まれ変わりな違いないと言ったんだ。」

ばぁさまは一息ついた。

「あの人が死ぬ前に言ったんだ。生まれ変わりだという者がもうすぐ来るよ、と。あたしは

ぼけているのかと思っていたよ。そうしたら、さくらがきたんだ。あの子にはあの人のことをたくさん聞いたよ。ふだん絶対に私には言わないことをあの子には言っていたようだから

ね。」

「じゃあ、ばぁさまはさくらのことを知らないの?」

「全然?」

「なんにも知らんよ。」

 オレは言葉を失った。母さんのほうを見ると、同じ顔をしていたようだ。

「だって、ばぁさま、さくらがオレの花嫁になることはないって、言っていたじゃないか。あれは?」

「ああ、あれは、観察していただけのことさ。いいかい?あの子はお前と同い年だ。戦争中じゃあるまいし、若い子が自分が会ったこともない婚約者のために料理なんて習おうとするかい?」

「それは……。」

そういわれると、反論の余地もない。

「よっぽど料理が好きだとかお前が好きだとかじゃないとそんなもの、やりやしないさ。」

なるほど。さすがは年の功、亀よりえらいだけのことはある。

「短い間しかいないだろうからお前に尽くすんだと思ってね。その通りだった。」

ばぁさまは寂しげにため息をついた。


〜父さんの場合〜


オレはふと気がついて、父さんにも声をかけた。

「父さんは?」

「ん?」

「父さんも何か耳打ちされていただろう?さくらになんて言われたんだ?」

 父さんは、ちょっとためらってから言った。

「写真たての裏。」

「は?」

「僕と父さんの秘密の暗号だ。お前たち、とくに勇太なんかは引退した姿しか見てないだろうから想像もできないだろうが、昔のお父さんは三か月に一度帰ってくるかどうかもわからないくらい忙しかったんだ。それでも母さんに言われたのか、子供の教育には父親の存在が必要だと考えたらしく、子供のころに二人で撮った写真の裏に手紙を残して交換していたんだ。」

「知っていた?」

勇太はばぁさまに聞いた。

「あれは、あの人が自分で決めたことよ。やり取りをしていたのは知っていたけど内容はしらないわねぇ。」

「へぇ。」

 勇介は話し続けた。

「しばらくは続いたんだが俺は高校生になってから書くのをやめると言ったんだ。」

「なんで?」

「高校生にもなって父親と手紙の交換なんかと思ったんだろうな。それで手紙は止まっていたんだが……。」

勇介は奇妙な顔をした。

「じいさんがあるとき言ったんだ。「あの写真たてはまだあるか?」と。あると言ったらなんだかニヤニヤ笑っていたんだ。だから、急にさくらちゃんに言われてすぐに、思い当たったんだ。慌てて見に行ったら手紙があった。これだ。」

勇介は懐からなにやらガサゴソと出した。

「読むか?」

 勇太は手紙を受け取った。

「えーと?

勇介さま。久しぶりの手紙ですね。

この手紙を読んでいる頃には私はこの世にはいないと思います。

その変わりに三男の嫁が行くはすです。私の変わりに大事に扱ってください。これが私か

らの最後の手紙だと思いますが、末永く幸せに生きてください。   勇太郎

……。おわり。」

ばぁさまはそっと涙を拭いていた。

「父さんからの僕に宛てた最後の願いくらい叶えてやろうと思ってね。あの慎重な父さんが認めたんだから、問題もないだろうと思ってね。無条件でうちに来てもらったんだ。おそらく、太郎に囁いていたのも、同じようなことだろうと思うよ。」

「じゃあ誰も、あの子がどこの誰なのか知らなかったってこと?」

「そうなるね。」

「そんな!」

 無言の時間が流れた……。


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