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さくら消失

〜さくら消失〜


「あちぃな。」

「夏が近いもんねぇ……。」

さくらは少し高くなった空を見上げた。

こんなことをいうと乙女チックだと亜紀に笑われそうだが、まるでその姿は空に溶け込み

そうだった。

「夏服にしないのか?」

「ん?ああ。まだ買ってないの。」

「買ってない?金ならあるぞ。」

「わかっているけど、あと一週間たったら買う。」

「なんだ、そりゃ。」

駅までの道でそんな話をしながらのんびり歩いて行った。

「よう。」

「やぁ。」

「おはよう、木村君。今日は部活ないの?」

「うん。もうすぐ試合だけど、今日は監督に孫が生まれた記念とかで休みなんだ。」

「なんだ、そりゃ。」

「亜紀さんは?」

「あいつは今日も走っているさ。」

「いいよね、健康的で。」

「さくらちゃんもやれば?」

「うーん……。」

さくらはちょっと困ったように笑った。

いつもの風景だった。兄たちの訪問以降も、とくになにかが大きく変わったわけでもなく、毎日が続いていた。

しかしそれは突然にきた。学校が終わって、外に出ると、なにやら生徒たちがひそひそと話している。彼らの視線の先には黒い塊があった。大きな車だ。まるで、どこかの国の映画スターでも出てきそうな感じだ。

他の子の情報によると、その日の授業が、終わる頃、そこに車が来ていたそうだ。みんなは、誰か有名人でも出てくるのではないかと、見ていたそうだ。

すると、ドアが開き、中から男性が現れた。きちっとしたスーツ姿が似合いすぎていた。その男は、さくらのところへやってくると、言った。

「さくらさん、来てください。緊急事態です。」

その男は丁寧だがかなり威厳のある声で言った。

さくらはなぜか青ざめた顔をした。思わず声をかけたほどだ。

「さくら、大丈夫か?」

「うん。勇太、私少しの間留守にするね。みんなに伝えておいて。」

「おい。」

突然、俺は口をさくらにふさがれた。キスされたようだ。なにやら外野ではきゃあきゃあ言っていたが、あまりのことにオレの視界はちかちかした。

呆然としている間に車は走り出した。


それから一週間がたった。

「まだ連絡こないのかよ。」

 田中があきれたように言った。

「あーふられたね。」

 亜紀も容赦なく言う。

「どこへ行ったのかもわからんとは亭主失格だな。」

「亭主じゃねぇよ!」

「でも普通連絡くらいあってもいいよね。」

 近藤まで言い出した。

「だよなぁ。」

「そんなことをいわれても…。」

オレは溜め息をついた。

とにかくこの一週間、家でもせめられっ放しだった。 とくにばぁさまにだ。

「そんな素姓もわからん奴にあの子を取られたんかっ!」

普段のばぁさまからは想像できないほどの怖さだった。最初の三日は怒り、そのあとは泣

き出し、昨日にはすっかり落ち込んでいた。

しかし、他の誰かにさくらのことを聞こうにも、弁護士の海藤氏は出張でつかまらず、柊は父さんに着いて外国へ行って、帰ったら話すと言った。それを待てずに校長に聞こうとしたら、彼は学会とやらで北へ行っており、公園に行ってもオタクな男もいなかった。

「連絡先とか素姓とか誰も知らないの?」

 亜紀が言ったときだった。

 東さんが急に言い出した。

「あのね。彼女、どこかのお嬢様なんじゃないかな。」

「なんで?」

「さくらちゃんが?」

「うん。あのね、長く休んでいた時があったでしょう?」

「ああ、風邪で。」

「ううん。あれ、風邪じゃなくて、誘拐だったの。」

「……。」

あまりのあっさりした言い方に誰もが言葉を失った。

「まじ?」

そんな可能性もあるとあの時出だしたのは、木村だったのに、最初に聞き消したのも木村だった。

「うん。あのとき、私はさくらちゃんを追いかけて、おじいさんのお墓のところまで行ったの。そしたら、さくらちゃん、誰かと話をしていたの。」

「誰と?」

亜紀が聞いたが、東さんは首を振った。

「知らない人だった。でも、なんだか、声をかけちゃいけないような気がして、ずっと見ていたら、急に後ろから口をふさがれたの。」

「それで。」

「気がついたら、三日も経っていて、そこにさくらちゃんがいたの。横に、警察の関係者がいたの。」

「なんで、さくらが……。」

「よくわからないんだけど、とにかく、このことは口外しないようにって、言われて。親たちも黙っているように言うし、なにかあったんじゃないかって。」

「なにかって、圧力みたいなものがってこと?」

近藤が言う。

「それをさくらがかけたっていうのか?」

東さんはまた首を振った。

「本当によくはわからない。さくらちゃんが、道端に捨てられていた私を発見してくれたことになっているんだけど、けど、まだ、私の視界がぼんやりしている時に、さくらちゃんと、警察の人たちが何か話しているのを見たの。」

「さくらが……。」

「でも、ちゃんと目が冷めたら、何事もないような会話をしていた。」

「夢だってことは?」

木村が聞く。

「ありうるの。だからさくらちゃんには言わなかった。でも、あの車、墓場で見たものによく似ていたの。」

「さくらが東さんを連れ去る理由はないだろう。」

「だから、間違えたんじゃないかな。あんなお墓に女の子がいるなんて、普通思わないでしょ。」

「さくらを誘拐しようとした……。」

「でも今回、顔、青ざめていたけど、自分で乗っていったよね。」

「うん。あのとき、あの運転手、緊急事態だって言っていたよな。」

「誰か、さくらちゃんのことを調べている人はいないの?仮にも、遠藤家の嫁なのに。」

亜紀がいった。

そこまで言われて思い出したのは兄たちだった。



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