表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/23

兄の帰宅

〜兄の帰宅〜


ある日の帰宅時。

「ただいまー。」

「ただいまー。」

「あら、一緒だったの?」

オレたちの声に、ばあさまが出てきた。

「うん。そこで会ったのよ。どなたか、いらしてる?」

さくらがへんな日本語で言った。

「なんで?」

「靴が。」

確かに、見慣れない靴が置いてある。

「ええ。勇一がね。」

「兄さんが?」

居間に行くと、たしかに一番上の兄がソファに座っていた。

「やぁ、勇太。それに婚約者殿。元気か?」

勇一は手をひらひらさせていった。

「おかげさまで。」

さくらは、にこやかに言った。

「うん、まぁね。どうしたのさ、突然。」

「なんだ、急にきたら悪いのか?俺の家でもあるんだぞ。」

「まぁ、そうだけど。」

「ハイハイ、話は後にして着替えてらっしゃい。さくらさん、夕食作るの手伝ってくださいね。」

「はい。」

とりあえず、服を着替えに階段を上がっていった。

「なにしに来たんだろうなぁ、兄貴。」

「きっと勇太の顔を見に来たのよ。」

 さくらはのんきにそんなことを言った。

「いまさらか?」

話は途切れてそれぞれの部屋に入っていった。

「うまい。さくらちゃん、いいお嫁さんになれるねぇ。」

夕食を食べながら、勇一は微笑んだ。

「それ、私も手伝いましたけど、梅ちゃんが作ったのよ。」

さすがに、勇一も目を丸くした。

「うそ。ばあちゃん、料理できるんだ!」

「勇一!」

母親がたしなめたが、遅かった。

「ほほほほ。できますよ。あなたたちのお父さんに食べさせていたんですからね。今は、由里さんと交代で、さくらさんに教えているところなのよ。」

「へぇ。お前、知っていたか?」

「うん。習っているのは知っていた。けど、やっぱり、ばぁさまが台所に立っているのを見たときはびっくりした。」

勇太は正直に言った。

「ほほほほ。たまに帰ってくると、なにか発見があっていいわね。これからもちょこちょこ帰ってらっしゃいよ。」

 ばぁさまはにこかにそう言った。


食後。

ばあさまは部屋へ戻り、母さんとさくらは片付けを始めた。

オレと兄貴は居間で食後のコーヒーを飲みながら、くつろいでいると、さくらが台所にいるのを確認してから勇一はしゃべりだした。

「おい。」

「なに?」

「婚約のことはどうなってるんだ?」

「どうって?どうにもなってないよ。」

 勇一は目を丸くした。

「どぉにも?まさか、一緒に学校へ行っているだけなのか?ほかには?」

「ほかって。ほかに何があるんだよ。別に、好きだとかそういうわけじゃないし。母さんたちだっているんだから、なにもないだろう、普通。」

「そういう意味じゃない。身元調査の問題だ。したのか?」

「んー。少し?」

「少しって……お前はのんきだなぁ……。」

勇一はあきれたように、またはそれが微笑ましいかのように穏やかに笑った。

「なにが?」

「お前、仮にも自分の婚約者だぞ?何も知らないとは……。」

「だって誰も教えてくれないんだよ。別に婚約っていっても、とくになにかあるわけじゃないみたいだし。」

「教えてくれないんだもん、じゃない。そんなことくらい、自分で調べろよ。月に50万ももらってるんだろう?」

「そうだけどあの金はさくらがもらうはずの金なんだ。勝手に使ったらまずいだろ。」

「それはどこからの情報なんだ?」

「弁護士の海藤氏だよ。一応、聞いてみたんだ。」

「じゃ、もらった金は全然使ってないのか?」

「いや、本人の定期代とかには使った。」

「だけ?」

「だけ。」

文句があるのかと言わんばかりに勇太は口を結んだ。

「海藤市から聞いたのはそれだけか?」

「それ以外は教えられませんっていわれたんだよ。」

勇太は顔をしかめてみせた。反対に勇一はにまにま笑い出した。

「そうか……ふーん……。あの弁護士も、じいさんに仕えて長いからなぁ。」

「なんだよ。なにかさくらのこと知っているのか?」

「まぁな。いくら、じいさんが連れてきたからって急に婚約者はないだろ?」

「で?で?」

勇一はゆうたの期待にみちたような顔を見ながら優越感に浸っていた。こんなに弟が懐い

てきたのは子供だったころ以来だからだろうか。急に意地悪をしたくなった。

「ただで教えてもつまらん。」

「えー。」

 勇太は顔をしかめた。

「ヒントをやる。」

「なに?」

「いままでに食べた夕食のレパートリーを考えてみろ。共通点を探せ。そのあとでどうして

そうなのかを考えろ。」

「だけ?」

「だけだ。脳は使わないとおとろえるぞ。」

「……わかったよ……。」

「よしよし。じゃ、俺はばあさんとさくらちゃんに挨拶してから帰る。」

 兄貴はそうして、まずはばぁさまの部屋へと去っていった。勇太はゆっくりと考え出した。いままでに食べた夕食?煮物、スープ、カレー、サラダ……どんな共通点があるというのだろう?

「勇太。」

「ん?」

「お兄さんは?」

「ああ、ばぁさまに挨拶してくるって。すぐに、戻ってくるんじゃないか?あ、ほら。」

言葉通り、ちょうど兄貴が戻ってきたところだった。

「お兄さん。」

「やぁ、さくらちゃん。」

「帰るんですか?」

「そう。玄関まで送ってくれる?」

「はい。」

「じゃ、勇太、またな。」

「んー。」

 オレは、そっちのほうを見ずに手を振った。そして、さくらがしばらくしてから玄関から戻ってきたことにも気がつかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ