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雨の日の出来事

〜雨の日の出来事〜


「あー雨だ。」

さくらは勇太の方をみて言った。玄関の近くにある、傘置き場を見つめている。

「勇太郎の傘はどれ?」

「じぃさまの?でかいぞ。」

「いいよ。」

「んじゃこれだ。」

オレはその傘を差し出したが、さすがにそれは母の手によって止められた。

「待ちなさい、いくらなんでもおかしいわ。私のを持って行きなさい。」

「ありがとう、由里さん。借りますね。」

そう言って、さくらは母のオレンジの傘を指して家を出た。

「すごい雨だねぇ。」

「そうだな。」

「勇太郎は雨が嫌いだったよね。」

「初耳だ。」

「そうなの?知らなかったの?」

「ああ。知らない。」

そう言って、オレはふと思った。あれだけ長く一緒に暮らしてきたけれど、自分はどれだけじぃさまのことを知っているのだろうかと。

無意識に聞いていた。

「さくらのじいさんはどんな人だ?」

さくらの足が止まった。オレは振り返ってみた。

「どうした?」

「ううん。」

さくらはまた歩き出した。

しばらくしてポツンと言った。

「会わないうちに亡くなったの。」

「じいさんが?」

「そう。だからどんな人だったのかわからないの。勇太はいいね。」

「なにが?」

「いっぱい思い出がある。」

さくらはそう言って駆け出した。

「駅まで競争!」

オレは慌てて走ったが、先を走るさくらの後ろ姿を見ながら、いつもあたりまえのようにいたじぃさまの笑顔を思い浮かべていた。


 翌日。

「はい、これ。」

 ゆりは可愛らしい傘を差し出して見せた。

「傘?」

「そうよ。さくらさんの分。これから雨が多くなるだろうから。」

さくらは感激の面持ちで笑った。

「ありがとう、ゆりさん。お代は……。」

「ああ、いいのよ。この間の本のお礼だから。さ、遅れるわよ。」

「いってきます。」

つられて、オレも言った。

「行ってくる。」

二人して家を出た。

「本って?」

「ゆりさんが探していた本がネットにあったから買ったの。その話。」

「へぇ。本なんか読んでいるところ、見たことないけどな。」

「そう?よく読んでいるよ。居間にある本棚の本、増えていっているでしょ。あれは、由里さんが読んでる本なんだよ。」

「へぇ・・・・・・。」

 オレはそう、返事をしたが、実際には、居間に本棚があるかどうかさえも思い出せなかった……。


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