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弁護士の海藤氏

  〜弁護士の海藤氏〜


「ここかぁ。」

オレが見上げている高層ビルの三十三階に弁護士の海藤氏がいる。

「アポなしで会ってくれるのかな。」

 ぶつぶつ呟きながら、オレは入っていった。制服姿のままで、入るのはなぜかためらわれたが仕方がない。エレベーターで上がるとすぐに、そこに受付があったが、受付以外、ドアがあっちこっちにあるだけというのが気になる。

「あの、オレ、遠藤って言いますけど、海藤さんいますか?弁護士の。」

「お約束は?」

「していません。」

「少々お待ちください。」

 そういって受付のお姉さんは、どこかに電話を入れた。オレはその間、きょろきょろと見回した。

「どうぞ、三番のドアへ。」

「……え、どれが三番なんですか?」

「そこです。」

「どうも。」

 なるほど、ドアの前に立つとうっすらと三の文字が見える。オレは一応、ノックしてみた。コンコン。

「どうぞ。」

「失礼します。」

 中に入ってみると、その部屋には海藤氏の机しかなかった。他に本棚にソファがちょこんとあるだけだった。

「やぁ。どうしましたか?こんなところまで。呼んでくだされば、こちらから伺いましたのに。どうぞ。コーヒーでいいですか?」

 弁護士の海藤氏はにこやかに微笑んだ。

「はい。あ、あの、ちょっとお聞きしたいことがあって。」

「なんでしょう?」

「あの、じいさまからさくらと婚約させるようにって書類をあずかったんですよね?」

「そうですよ。あなたが印を押したあの紙がそうです。コピーを渡しましたよね?」

「ええ。あるんですけど、あれにはさくらという名前しかかれていないんですけど、苗字とか住んでいたところとかっていうのはわからないんですか?」

「わかってはいますが、教えることはできません。」

おだやかとはいえ、はっきりと言い切った。温厚そうな顔をしているが、あのじいさまが気に入ったのだから、敏腕なのだろう。

「じゃ、あのさくらが、紙にかかれていた、さくらだって、どうやって証明するんですか?」「あなたさまが遺言どおりに結婚された場合、もう一通、遺言書があけられます。」

「もう一通?」

「はい。そこにさくらさんのことが書かれています。苗字、年齢は同じで、ほかにも住んでいた場所や学歴など。全てが書かれています。」

「だけど、お見合いとかでも、もう少しは教えてくれるんじゃないの?」

 なんとか、食い下がってみる。

「……。私は職務上、申し上げられませんが、柊さんに聞いてみてはいかがですか?」

「柊に?」

「ええ。」

 そういえば、さくらを連れてきたのは柊だった。

「ありがとうございました。」

「あ、遠藤さん、これ、今月分、いま渡してもいいですか?」

 五十万だった。

「はい。」

 受け取ってから聞いてみた。

「あの、このお金がどこから出てきているんですか?」

「あなたのおじいさまからですよ、もちろん。」

「だけど、遺産とか、みんなに渡したんじゃないの?」

「遺言書にはかかれていませんが、これはさくらさんようの遺産です。」

「……じゃ、本当はさくらが受け取るものだということですか?」

「ええ。でも、彼女は受け取りを拒否。そのお金は遠藤家に渡すことによって、代わりに屋敷に住んでいるのです。彼女と結婚すれば、そのさくらさんようの遺産も全部、あなたの手に入りますよ。」

「……どうも。忙しい中を。」

「いえいえ。」

 弁護士はにこやかに微笑んだ。


 はっきり申し上げて。でかい屋敷に住んでいるからといって、現金をたくさん持ち歩くことになれているなどとはいえない。それも、高校生で五十万が大金であるという一般的常識もオレは持ち合わせていた。当然のように帰りは緊張し、家に着く頃には肩がこっていた。「おかえりー。」

「ああ、ただいまぁー……。」

「なんか、疲れてる?今日、カレーだよ?」

「あーわかった、着替えてから行く。」

 オレはとりあえず自分の部屋に戻って、着替えて下に降りていくともうみんなが夕食を食べ終わった後だった。

「勇太、遅かったから先に食べたよ。」

「ああ、いいよ。」

「はい。」

 さくらがカレーを差し出した。

「ども。ん?なんで二個あるんだ?」

「私のぶん。」

「まだ食べてなかったのか?」

「だって、勇太、返ってこないから。」

「先、食べてりゃいいのに。」

「うん。今度からそうする。」

 そして、もくもくと食べ始めた。

「なぁ。」

「ん?」

「今日、東さん、お前に何の用だったんだ?」

「……気になる?」

「ちょっと。」

「お、素直だ。そうだねぇ、勇太が大好きな東さんだもんねぇ。」

「な、何いってんの?」

 ふいをつかれてか、オレは顔が真っ赤になるのがわかった。

「なに、大きな声を出しているの?」

 ばあさまが顔を出した。

「あのねぇ……。」

 さくらが話しそうになるのを慌てて、遮った。

「黙ってろ!ごちそうさま!」

 そして、その場から退散した。まったく女の勘というものは怖い。結局、東さんがさくらに何のようだったか、聞けずじまい終わった。


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