家
〜家〜
大きなものを近くで見ると、つい見上げる形になる。
「でかいなぁー。」
「ホントだなぁ。」
「ひさしぶりに見たけど、やっぱり大きいよね。」
見慣れているはずの亜紀でさえ、そう言った。
「ほら、行くぞ。」
あきれたように勇太はいった。門を開けると、誰かが電柱の影から出てきた。
「あ、あの、この家の方ですか?」
「そうですけど?」
「あの、女の子、いませんか?みなさんとおなじ歳くらいの。」
オレは木村と顔を見合わせた。
「さぁ?ここには、そんな若い人はいませんけど。こいつくらいなもんで。」
と、木村が言った。
「そ、そうですか。どうも。」
男性はぺこりと頭を下げて、どこかへと去っていった。
「なに、あれ。」
亜紀は顔をしかめた。
「さくらちゃんのことだよねぇ?」
田中も言う。
「そうだけど、なんか、あやしげだし。黙っておいたほうがいいよ。」
「そうだな。」
「あれ、勇太、どうしたんだい?」
ばあさまがドアを開けて待っていた。どうやら、門が開いたのに、いつまでも入ってこないのが気になったようだ。
「ああ、なんでもない。ほら、行くぞ。」
オレはみんなを家の中に招き入れた。部屋で大騒ぎをしていると、部屋がノックされた。
「はい?」
ドアが開くと、そこにはさくらがいた。
「ただいま。」
「さくら。あれ、東さんは?」
「え、理江?会わなかったよ?」
「マジで?」
「そうなの?」
「あら、どうしたんだろう。」
「心配だな。昼間はそんなことなかったのに。」
ああでもない、こうでもないと話しているうちに、さくらの姿は消えていた。夕方になり、みんなは帰った。さくらは、今日はかあさんに料理を教わる日だったのか、なにやら手伝っている。
食事の後、オレはさくらに聞いた。
「さくら。」
「なに?」
「東さんと何か話したのか?」
「なんで?」
「……いや。」
「へんなの。」
そういって、さくらは自分の部屋に戻った。そういえば、さくらはこの部屋で何をしているのだろう。
「おい、さくら。」
ドアを叩くと、ドアが開いた。しかし、完全にではなく廊下を覗き込むように顔を出した。
「なに?」
「おまえ、ストーカーとかにあってないか?」
「ストーカー?」
「ああ、誰に後をつけられていたり、してないか?」
「……なんで?」
「あるのか?」
「ないけど、なんで急に?」
「いや、なんか、今日、家の前でお前のこと聞いてきた奴がいたから。」
そういうなり、さくらはドアを半分開けた。といっても、中の様子はさくらの体で見えないが。
「それって、どんな人だった?男性?背は?顔は?」
「え、なんだよ、心当たりがあるのか?」
「いいから。どんな人だった?」
「え、えっと、男だよ。なんか、ひ弱そうな、オタクみたいな。めがねをかけていて、いまどき、しっかりオールバックだった。」
「あ、ああ。あの人か。なんだ……。」
さくらは逆にほっとしたように言った。
「知り合いなのか?」
オレは目を丸くした。
「うん。サクラの知り合いなの。」
「サクラって犬の?」
「そう。あの人も、犬飼ってるんだよ。」
「……へぇ。」
「ありがと心配してくれて。」
「あ、別に。」
オレはそう言って、自分の部屋に戻った。ごろんとベットに横になったが、なんだか、へんな感じだ。あの人は犬のことではなく、さくらのことを聞いた。犬のサクラの知り合いなら、なぜ、犬の事を聞かなかったのだろう。
「ま、オレには関係ないか。」
そのままオレは寝た。だが、翌日。東さんは学校には来なかった。その次の日もだ。
〜東さんの休み〜
学校内の昼ご飯中。海苔巻を食べながら、田中は言った。
「こないねぇ、東さん。」
「メール送ってるんだけどねぇ。返事が来ないの。」
近藤さんは心配そうだ。
「家の電話とかには、かけてみた?」
「かけたんだけど、娘は寝ていますってお母さんに言われたの。」
「そんなに重病なのか?」
「どうなんだろう。お見舞いに行ってみようかと思って。」
「ああ、いいかも。」
「あー、疲れたぁ。」
やっぱりじゃんけんに負けて、ジュースを買いに行かされた、さくらが戻ってきた。
「あー、あたし、いちごー。」
「オレ、お茶。」
「あ、そうそう、さくらちゃんも行かない?」
亜紀が誘った。
「どこに?」
「理江のお見舞い。」
「お見舞い?」
「こいつはいいよ。お前、放課後またじいさまのところに行くんだろう?」
「うん。」
「じゃ、だめかぁ。」
そして、放課後にぞろぞろと東さんの家まで出かけて行ったが。
「ごめんなさいね、会えないの。」
という、母親のインターホンごしの言葉で終わった。
「なんでだろう……。」
近藤さんはがっかりしたように言った。
「誘拐とか?」
「誘拐?」
田中の言葉に、全員が振り返った。
「だって、それなら、携帯にも出られないし、顔も出せない。」
「だって、お母さんは病気だって。」
と、亜紀は言う。
「けれどもしも誘拐とかだったら、情報は出せないだろう?」
「それは、そうだけど。」
「最後に会ったのって、さくらちゃんか?」
オレはクビを振った。
「いや、あいつは会ってないらしい。」
「へんねぇ。すぐに追いかけていったのに。あの子、あの日はどこに行ったの?」
「雨の日以外はほとんど、毎日のようにじいさまの墓参りに出かけているよ。あとは犬の墓か。」
「はかぁー?もしかして、今日も?」
「ああ。」
「毎日ってすごいね。私なんか一年以上行った記憶がないけど。」
「俺も田舎にあるしなぁ。」
お墓についてああでもない、こうでもないとわいわい話していた。
翌日。
東さんは登校してきた。
「理江!」
「大丈夫だった?風邪。」
「心配したんだぞ。」
「東さん!もう平気なの?」
「うん。もう平気。あの、さくらちゃんは?」
「さくら?あいつなら、さっきまでこの辺にいたんだけどなぁ。」
どうやら、廊下にいたのか、戻ってきた。
「あ、理江。」
「さくら。ありがとう。」
東さんはさくらに微笑みかけた。さくらもちょっと笑った。
「なんだ?」
「何の話?」
「ひみつー。」
さくらはおどけて笑った。
「えー、何ー気になるー。」
「おしえなーい。」
オレは田中の言ったような誘拐じゃなくてよかったと思った。
「なんか、やせたね。」
近藤が言う。
「うん。ちょっと体を壊していたものだから。」
「家にもお見舞いに行ったんだよー。」
亜紀が言った。
「母から聞いたわ。わざわざありがとう。」
「ほら、一時間目、あら、東さん、もう元気になったの?」
入ってきた先生は言った。
「はい、大丈夫です。」
昼食時。誰もが弁当を出したり、パンを買いに行く中で、東さんは帰り仕度をしていた。「あれ、帰るの?」
「うん。まだ全快ってわけじゃないから。今日は午前中だけ。」
「そうなんだぁ。」
「あの、さくらちゃん。玄関まで送ってくれない?」
「いいよ。」
「あ、私も。」
「ううん。律子はいいの。じゃあね。」
二人は教室から出て行った。
「なんか、理江、やつれたと思わない?」
断られてしょんぼりとした近藤が言う。
「風邪だったからだろう?」
のんきに木村が言った。
「馬鹿ねぇ。風邪くらいで、あんなにやせないと思うよ。」
「うんうん、それになんで登校して一番にさくらちゃんのことを気にするの?」
「なんか、お礼言っていたよな。おまえ、なんか知っているか?」
「何でオレが?」
「お前、婚約者だろ。」
「だからなんだよ!」
「それもおかしいよな。普段、婚約者が何をしているのか、お前知っているのか?」
「しらねぇ。」
オレは正直に答えた。
「なんでだよ!」
「婚約する気がねぇからだろうが。」
「でもさぁ、理江、さくらちゃんが来てから、なんか変だよ。」
「うん。」
田中は何か思い出したように言った。
「変といえばさぁ、うちの校長もだよな。」
「校長?なんでー?」
「いつだったかなぁ、影から何か見ているからさ、何見ているのかと俺も覗いてみたら、その目線の先に、さくらちゃんがいたんだよ。」
「あいつが?」
「変だよ、それ。恋?」
「だって、校長って六十近くなかったか?」
「恋に年齢は関係ありません。」
やっぱりうっとりするように亜紀が言った。
「あんな、じいさんが影からこそこそ見てたりするかー?変態だろう。」
「変態の校長かぁ……。」
なんだか、食欲が落ちるというものだ。しかし、木村の言うとおり、仮にも一応婚約しているというのに、何も知らないというのはどうだろうと、オレは考え始めていた。




