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じいさまの死

あれはいつ頃だっただろうか。あまりにも綺麗だった満開の桜の中で、その犬は木の下に、捨てられていた。ダンボール箱に入って。

上から花びらはどんどん舞い降りてきていた。

「桜……じゃあ、名前はサクラにしよう。」

 そう、犬を拾ったじいさまは笑った。にこやかに、まるで光の中に溶けてしまいそうだった……。


 もうすぐゴールデンウィークだという時期だった。

「遠藤!すぐに帰りなさい!おじいさんが亡くなったそうだ!」

担任の先生は、授業の三時間目が始まると同時に、教室に駆け込んできた。机で昼寝をして、夢から覚めたオレは、それが本当だとおもったのは、あまりに担任の顔が真っ青だったからかもしれない。


じいさまが死んだ。

 うちは、大きな家だった。自分で言うのもなんだが、かなり大きいといえる。周りから見れば羨ましいように見えるようだが、生まれた時からこのサイズの家に住んでいるオレにはなんにも感じない。

 普通なら、そんなに大きな家なら問題の一つでもありそうだが、歳の離れた優秀な兄が二人もいて、普通のオレがいる。そのせいか、ケンカさえもしたことがない。なんの問題があるというのだろう。

 その大きな家の当主だったじいさまは、若い頃に起こした事業で大成功を収め、ついこの間まで引退後の生活を有意義に過ごしていた。それが風邪で肺炎を起こし、死んだ。新聞には載るし、テレビはやってくるし、なんだか、騒がしい。

「すごいねぇ。」

 人ごとのように、次男の勇次は言った。

「まぁ、会長だったしなぁ。ちょっと、ぼけていたけど。」

 長男の勇一も言った。

「ほら、あなたたち、お葬式手伝って。」

 母親はオレたちを追いたてた。

 遺影の写真にはにこやかなじいさまが写っていた。

 喪主をしていた父親はテレビに映っていた。

 オレはなんだか、他の誰かの葬式を見ているかのようだと感じていた。


それから三日後。弁護士がやってきた。遺産の分配のためだ。しかし、三男のオレには何の関係もないと、そう、信じていた。オレだけではない、たぶん、誰もがそう信じていたのだろう。

だから、居間に集まれと言われた時には目を丸くした。

「え、オレも行くの?」

「なんでも、全員参加だそうだ。」

 兄はあっさりといった。

 居間に集まると、家族は揃っていた。ばあさま、父、叔父、その妻たち、いとこたちも来ていた。それに兄二人にオレが最後に席についた。それで、全員のはずだった。

「その席は?」

 叔父さんが聞いた。

そう、オレの前に一つだけ空席があった。

「そのことに関しましては、最後にお伝えいたします。それでは、遺産の配分ですが……。」

気になるような台詞から、その遺産配分の説明が始まった。半分はばあさまに。残りは父親と叔父に分けられた。

「それと、最後に、勇太さん。」

ぼんやりと聞いていたオレの名前が急にあがって、慌てて返事をした。

「あ、はい。」

「あなたには、おじいさまから特別に遺言があります。」

特別というだけで、なんだか、みんなの視線が痛い。

「えっと……どんな?」

「犬のサクラさんのお墓の面倒を見て欲しいということです。」

そこにいた全員が拍子抜けしたようだった。

「はい。」

「それと。」

弁護士の一言が怖い。

「サクラさんの二代目の面倒を見て欲しいとのことです。その費用として、一年間で五十万支払われます。」

「え?」

いま、五十万って言った?

「二代目?」

兄が聞いた。

「ええ。どうなさいますか?」

「いいですよ。」

オレは即答した。なんたって五十万!

「ではここにハンコ、がないようでしたら、親指でも構いませんよ。」

オレは素直に、書類に親指を押した。犬の世話くらい!

「その、二代目というのはどこに?」

父親が聞いた。

「もうすぐ、いらっしゃいます。ああ、来ました。」

「こんにちはぁー。」

つれてきた運転手の側には、女の子が立っていた。肩までくらいの髪を一本に結び、なかなか可愛らしい。

「彼女は?」

 誰かが聞いた。

「二代目のさくらさんです。」

 弁護士が答えた。

「えーーーーーーーー!!!」

 大騒ぎになった。


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