第三話;親と子
「五匹の霊魂?」
「そうなんだ、昔のこの町の神話なんだが・・・」
この町から出られる方法とは五匹の霊魂という聖獣の力で封印の一部を解き放つというものだった。この町には古くからある話だそうだ。
*
この世がまだ生まれて間もない頃、此処には神が存在した。その神は、この土地に人間という物の命を育んでいこうと考え、此処には魔物が入れなくするために封印を掛けたそうだ。そこで、天に司る四神と神で五ヶ所の最も天に近いところで封印の儀式を一斉に行ったそうだ。最初は失敗だったそうだ。しかし、その四神と神の命でその封印は完成した。そして、今でも残っている軌跡がザガト山・グイル山・惣山・唖熊山・奉加遺跡のすべてのどこかに残っている。そこには、神と四神の霊魂が聖獣の魂と重なり何処かで生きているそうだ。
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「なあ・・・ディークは何でそんなこと知ってんだよ?」
率直な質問をした。(何で俺なんかに教えるんだ?それに、俺が旅に出ても構わないんだろうなか?)しかし、ジンはたくさん聞きたいことがあった。それはその率直な質問だけで足りるだろうと思った。あえて、言わない方が口論につながらないからと思ったからというのもあるだろう。
「僕も、この町から出たかったんだ。」
ジンは、何も返事はしなかった。ただ、ディークを見ていた。その後ろ姿は暗くなどなく良い思い出を思い出すかのように輝いていた。
ディークは俺の方に振り向き
「君と似てたんだよ?だから、ね?」
(なんとなく、なんとなくだけどわかってた。コイツと俺が似てることは。そんな不思議でも驚くことでもなかった。)
「だから、か・・・?」
「そう・・・だから昔調べたことを君に教えたんだ。僕が果たせなかったことは君だったら出来るような気がするんだ。」
そのあとディークは、似てるって言っても僕が持っていない物を君はたくさん持っているからと、付け足した。
「じゃっそれだけ教えときたかったんだ。たぶん君は知ることは出来なかったと思うし。」
「なんだよ!それ!」
「・・・これは・・・この町の禁句なんだよ。」
ディークは俺の前を通り過ぎて
「頑張るんだよ。挫けず・・・。」
その一言を残して、俺のいた場所から立ち去った。『挫けず』とは、何のことなんだろうと考えていた。
*
「俺・・・旅に出る。・・・此処ん家の息子でもないのに・・・ここまで育てていただきありがとうございました。」
「ジンっ!」
ジンは、帰宅した早々旅に出るということをルージィアの両親に話した。殴られたって行くつもりだった。俺の決意は固かったから。
「行くんだなぁ・・・ジンもそんな年頃にまで育ったってことか・・・。」
ルージィアの父親、ホリス=ファントルがいった言葉は自分の胸に刺さった。本当の息子のように十一年間育ててくれた。
「ジン、この町から出たら戻れなくなるかもしれないんだよ?それでも行くのかい?」
優しく話し掛けてくれたのはサリナ=ファントル。ルージィアの母親。
「ああ・・・。気持ちはかわんないんだぁ・・・ごめん・・・。」
「ジンっ!」
ルージィアがジンの目の前に駆け寄った。そして、その目には溢れるばかりの綺麗な透明の雫があった。鼻を啜っていた。
「わた・・・わたひぃも・・・つれていきなさい。」
泣きながら自分の方が有利な態度にでようと語尾が命令をしていた。しかし、其れに怒ることは出来なかった。こんなに泣いていてくれる人は何処にもいないだろうと思っていたし心配してくれているのだと再度理解したからだ。
「ごめん・・・。つれていけない。」
大きい赤い目をこちらに向けて鼻の下を擦っていた。微かに言葉が漏れてきたのがわかった。しかし、なんと言っているのかわからなく、えっ?と聞き返した。
「バカッ。」
「泣くな・・・。」
「うっ・・・・。」
ルージィアは走って家を出て行ってしまった。幸いまだそんなに日は落ちていなかった。ところで、と、ホリスが続ける。
「ジン、いつ頃出るんだ?」
まだ決めてなかったことに気付いた。しかし、『わからない』などと答えてよいものか迷った。せっかくここまで話が進んだのに、自分的にも無責任だと思った。
「・・・・明日には・・・・」
とっさに思いついたのがなぜか明日だった。そんなに早く行く気もなかったはずなんだが。
「明日・・・早いのね・・・。旅支度はしたの?」
サリナは快く承諾をしているみたいだった。しかし、ホリスは相変わらず新聞を読んでもいないのに顔の前に広げていた。相当反対らしい。前にもこんなことがあった。其れを思い出すのにさほど時間は立たなかった。